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俺より強いのをやめてもらおうか!  作者: イノカゲ
第一部『彼は勝者だそうですよ?』
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七章『いざ、外の世界へ』5



「それではこれより、作戦前の最終会議を始めるよ」


 天使の国──ミルフィリアの代表であるガリウスが外に用意された机の上座に立ち、各国の代表、副代表が集う。

 あの後、従者に連れられて向かうと、すでに全員集まっており、すぐに会議が始まった。

 会議のメンバーは前日に行われた時に加え、赤峰の8人。自動戦闘人形は人数に含めればいいのか分からないが今回は含めないでおく。


「といっても話すことはほとんどないんだけど。作戦は昨日話した通り。現地に着いてからは、気づかれる可能性があるので集まらない。だからこれが最後になるけど、みんな準備は大丈夫かな?」


 ここからでも見える位置に、各国の連れてきた兵達が見える。ミルフィリアとダクソリスの全員に翼が生えているのを見ると、本当に天使と悪魔の国があるのか。いつかチャンスがあれば行ってみたい。


「大丈夫だ」


 ダクソリス代表のファディスが頷く。服装は昨日のような露出の多いものではなく、黒と赤の戦闘装束のようだ。


「大丈夫です」


 次いで、ギルラミナ代表の白峰。朝見た服と変わらず、相変わらず二本の白い刀が目立つ。


「万全だよ!」


 昨日より少し成長した姿のザーミット代表の成宮が元気よく答える。あの後、また薬を飲んだらしい。だが、元気な性格に変わりはない。


「問題なし」


 最後にリベルアス代表として暁が答える。これで今回参加の5ヶ国の確認が終わる。それを見てガリウスがウンウンと頷き、


「それじゃあ作戦開始だ。解散」


 その言葉で全員が自軍の元へと戻って行く。ワイワイやれとは言わないが、なんとも淡白なものだ。まあ、俺自身もそう言うタイプではないのだが。


「ガリウス、ちょっといいか?」


 戻ろうとしているガリウスに声をかける。


「なんだい?作戦のことかな?」

「いや、ちょっと個人的な質問が1つ。お前ら、どうやってここまで来たんだ?」


 ガリウス達のミルフィリアは、今回の目標地である壁の向こうにある。翼を使って壁を越えられたとしても、敵に気づかれる可能性が高い。

 かといって壁を回ってくるのは、昨日の今日だ。不可能だと思う。先に移動を始めていた可能性だってあるので、その辺は分からない。


「あーなるほど」


 意図を察したのかガリウスが微笑む。昨日からそうだが、ずっと余裕がある。焦らず、緊迫もせず、余裕を持ってこちらを見ている。


「僕らには、通れば好きな所に行ける次元の門を通ることが出来るんだ。僕らっていうのはファディス達、悪魔も含めてね」

「それはまた……」


 やばいもんだな。通れる門が無造作に増やせるっていうのならどこからでも自由に攻め放題ってわけだ。実際今回は大人数で通って来ている。


「そんな怖い顔をしなくて大丈夫だよ。無条件で使えるほど世界は優しくない。それに君の国はさらに優しくないみたいでね」

「あ?それってどういう」

「さあ、準備をしようか。もう出発だよ」


 話をはぐらかせてファディスは去って行く。話を追求するには情報が乏しすぎる。それに、将来敵国になるかもしれない国にほいほい教えてくれるわけもない。


「ちっ……ちょっと楽しいじゃねぇか。油断してらんねぇな!」


 抑えきれないワクワクに、笑わずにはいられない。暁は、足取り軽く2人の待つ車へと向かった。



「それで……私達はなんで今死にそうなんですか?」


 水嶋が半泣きで久我に尋ねる。目標地に向かって走る車の中、2人は揺れる車内の中で、今回において最も死ぬかもしれない状況下に置かれていた。


「仕方ねぇだろ……俺だってイヤだよ」


 久我と水嶋は車の前方に、暁は後方に座っている。なぜ死にそうか、その原因はもちろん暁にある。

 会議を終えて車に入るなり、暁は「久我、20分もらうぞ」と言って後方の席へ座った。

 それを聞いた久我は、水嶋を手招きして前方へと移動。それを見てから暁は、目を閉じ、両手を組んで10分間ブツブツと何かを言っている。


「動いたら死にますよね」

「動いたらとまでは言わねぇが、向こうに一歩以上近づいたら終わりだな」

「もう嫌ですぅぅ」


 『死神の狂言デス・タイム』などと経験した者達には呼ばれている。今暁が行なっているのは、昨日の夜から早朝にかけて読んだ数百ページに及ぶ資料の


『復習』および『暗唱』


 それが狂言たる理由だ。そして、その間は暁の決めた範囲を風が自動で守っている。

 対象に敵味方の判別はなく、入ったものは容赦なく斬られる。ほとんどの場合、広い場所で行われるのだが、今回は車内という密室。いつも以上に死の緊張を肌で感じる。


「暁くんは、見たことあれば十分なんじゃないんですか」

「前もって見てるんだから、覚えておかなきゃならないんだってさ。もしもに備えて弱く出来なかった場合の対象法も考えてるらしいぞ。そういうとこは真面目なんだがなぁ」


 真面目というか、努力家である。そもそも暁に魔法の才能はない。『絶対勝者』を得た今でもそれは変わっていない。暁が使えるのは下級魔法ばかり。魔力量だって平均以下だ。

 ただ、暁は使用時の魔力量の削減と常時魔法を発動し続けることに成功した。前になぜそんなことが出来たのかと聞いたことがある。


 その答えは、

「脳みそが魔法を使っているのが当然だと思わせればいい。魔力量を減らすのだって同じ。慣れれば自然と減ってくるさ。もっともみんなはそうなる前に上級魔法に移っちまうようだがな」だった。


 脳が勝手に魔法を発動するなんてどれだけの間魔法を使い続ける必要があるか。慣れると言っても千、二千で足りているわけがない。


「恐ろしい男だ」

「ええ、もう恐ろしいです!助けてぇぇ」


 水嶋が久我に抱きつく。大きな水嶋の胸がムニムニと当たっているのだが、水嶋は少しでも前に寄ろうと必死らしい。


(なんというか……役得だな)


 ただ、おじさんからすると刺激が強すぎる。胸だけでなく触れているあちらこちらが柔らかく、髪からもいい匂いが漂う。


(あれ、こいつシャンプー変えたのか……じゃなくて!)


「ち、ちょっと離れてくれない?」

「なんですか!死ねっていうですか!?この人でなし!!」

「そうは言ってない!近い近いから!」

「私を生贄にするつもりですね!そうはいきませんよ!!」

「だぁぁ、さらに寄ってくんなぁ!」


 そんな調子で抱き合ったまま、『死神の狂言デス・タイム』が終わるまでの残り10分間を過ごすこととなった。

実は章の名前が変わっております!

内容自体に変更はありません


夏休み中は一日中勉強勉強勉強なんで更新出来るか分からないのですが

楽しみに待ってもらえるとありがたいです

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