七章『いざ、外の世界へ』2
「ようこそ、おいでいらっしゃいました」
そう言って白峰は手を前に合わせ、お辞儀をする。昨日とは違い桃色の着物に身を包み、透き通った長い白髪は腰のあたりで束ねられている。背は暁より少し低いぐらいなのだが、履いている下駄によって暁よりも高くなっていた。
「いえいえ、こちらこそ。わざわざお出迎えありがとうございます」
それに答えて久我がお辞儀を、それに続くように水嶋も頭を下げる。そのせいでなぜか暁は青峰と睨み合う状況になる。正確には向こうが勝手に睨んできているだけで、暁はそれに目を合わせているだけだ。
ちなみに睨まれる理由は思い当たらない。昨日の会議で2人には特に何もしていないはずなのだが。まあ、何かしら気にくわないことがあるのだろう。睨まれるのは慣れているので今更どうということはない。
「それでは城の方にご案内しますので」
「はい。分かりました」
白峰は振り返るとツカツカと下駄の音を鳴らして歩いていく。それを追うように三人も歩き出したが、どうしても欲求を抑えられない暁は、久我に尋ねる。
「俺も付いてかなきゃダメか?」
「あ?またどうして」
「城の周りを散策したいんだよ」
「会合の内容は、外交関係だからなぁ。確かにお前がいなくても大丈夫だが……向こうの人に聞いてみないとなんとも」
それを聞いた暁は、片手を口元に当てると、
「白峰さ〜ん」
「なんでしょうか〜?」
「城の周りを散策してもいいですか〜?」
「構いませんよ〜」
「だとよ」
親指を立ててグッドサインを出す暁を見て、久我は微笑む。まだ年相応のものを持っていることに、まだ好奇心を抑えられない子供なのだと感じさせられたからだ。
「問題だけは起こすなよ?」
「分かってるって!」
その言葉をGOの合図とするように、暁は『跳躍』を使い、門を越えて敷地の中へと消えていく。
「大丈夫なんですか?」
心配そうに見送る水嶋に対し、やれやれと呆れた顔をする。1人でなんでもこなし、1人で勝ち続けた結果、上り詰めた勝者の座。それは今でも変わらず、彼は勝者であり続けている。
少しでも助けになれればと動いているが、この行動に意味があるかなんて分からない。
ただ、俺達に彼を押さえつける権利、また力はない。それだけは確かだ。それでもこちらに許可を求めてきたのは、まだ協力の意思を示してくれているからだろう。
「まあ、そん時はそん時だ」
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「よっと」
暁は、石積み内で一番高いであろう塔のてっぺんに着地した。金色に塗装された尖った先端で、ブレることなくバランスをとりながら辺りを見回してみる。
領地内には建物が多いが、城以外に二階建て以上の建物はない。城を中心に置いて、領地内の建物が配置されていることは上から見ればよく分かる。その中で、不自然に空いている土地に多くの人間が集まっているのが見えた。
「あれは、何してんだ」
指で丸を作ると、右目に当てて左目は瞑る。
『遠視』
魔法によって目に入る前の光を調節し、遠くまで見る魔法だ。簡単に言えばスコープや望遠鏡の代わりなのだが、調整を失敗すると失明する可能性がありやる人は少ない。魔力の消費量は少なめ。
それを駆使して見た先は、刀や槍を巧みに操り、戦っている男達の姿だった。見た感じでは、この国の軍隊にあたる人達だろうか。この後にある作戦に向けて模擬戦をしているように見える。
「ちょっと見に行ってみるか」
暁は塔を壊さないために、塔から飛び降り、束ねた風を踏んで『跳躍』を行使する。下の方から何か言われていたようだが、うまくは聞き取ることが出来なかった。だが、特に否定的な言葉ではなかった。
ギルラミナの武器には精霊に力を借りて特殊な技を使うものがあると資料に書いてあったが、それが理由だろう。文明レベルは上がっていないが、特異てきな能力自体は見慣れているという感じか。
そんなことを考えていると、目的地が近づいてきた。すでにそこにいた男達は気づいているようで、着地できる場所を開けてくれている。
「よっ……と」
落下の速度を風で押し殺し、ゆっくり着地を決める。
「悪いな。まだ試合の途中だっただろ」
さっき『遠視』で見たときに試合をしていた男を見つけ、軽く謝っておく。
「いえいえ、お気になさらず。作戦前の軽い体慣らしですから。あなたも参加するのでしょう?」
「ああ。今日はよろしく頼むよ」
「はいはい、通して〜」
暁を囲っていた男達の後ろから、壁を割るように赤髪の男が現れる。周りの男達が灰色と紺を基調とした袖も裾も広くなっている服を身にまとっているのに対して、その男は髪と同じ真っ赤な色で、色々な装飾がなされている服を纏っている。
さらに服だけでなく、両腕に赤い布のようなものまで巻いているようだ。
「三神 暁で間違いないな?」
「その通りだ。あんたは?」
「俺は赤峰 怜士だ。今回の作戦では、攻撃隊長を務めている。それで、客人がいきなり何用か?」
「いやなに、刀に興味があってね。触らせてもらえないかと」
桜の刀を見た時から、少し使ってみたかったのだが、桜にお願いしても触らしてくれないと思って諦めていた。抜刀やなぎ払いなどの仕草はどれも少年心を突き動かされる。
「それは構わんが……ほれ」
赤峰に投げ渡された刀を受け取る。茶色の鞘に模様はないが、柄は鮮やかな白と金があしらわれていた。
ゆっくりと鞘から刀身を抜く。シュルッという音と共に鋭い光を放つ刃が現れる。刀身自体は薄いものの、それ自体は強く強固なものだと握っただけで感じられた。
「どうだ?刀を握った感想は」
「思っていたより重いってのが率直な感想だな」
「模擬戦でもしてみるか?」
「いいのか?ならお言葉に甘えようかな」
鞘を持つと言ってきた近くにいた男に投げ渡すと、赤峰も腰に差していた刀を抜く。その刀は鞘も柄も暁と同じなので、模擬戦用の刀なのだろう。
お互い、半身になって向かい合う。暁は片手で、赤峰は両手で刀を握る。
「はぁ!」
先に動いたのは赤峰だった。両手を振り上げ、すり足で間合いを詰めると、まっすぐに振り下ろす。合わせて構えた暁の刀が、それを受け止めると、ガキンッと金属の重なる音が鳴る。
「お?」
それと同時に少し目線が下がったことに驚き、思わず声を上げてしまう。下がった理由は簡単だ。攻撃の重みで暁が地面に沈んだのである。
「魔法もなしにその力ってバケモンか?」
「これが出来なきゃとっくに淘汰されているわ!」
「それもそう……か!!」
重なっていた赤峰の刀を払うと、次は暁が縦斬りを繰り出す。片手な分、刀を振るう速さは暁の方が速い。もちろん、その程度で攻撃を体に当てられるわけもなく、再び2人の刀が重なる。
直線的な振り下ろしだったため、赤峰の体は後ろへと滑る。攻撃を受けた体勢から崩れないのは流石と言うべきだろう。
「本気を見せてくれよ」
お互いが攻撃を防ぎ、互角かと思えたその瞬間、赤峰の刀が高い音を立てて折れる。
暁の刀に被害がないのは、刀が『絶対勝者』によって暁の自己イメージに組み込まれているからだ。それがなければ、赤峰の一撃は刀を砕いていただろう。
「やってくれるじゃねぇか。なら、見せてやるよ」
こちらを睨みながら言う赤峰の腕から、巻かれていた布がスルスルと腕から離れ落ちる。それは不自然に真っ直ぐと伸び、螺旋を描く。
槍──そう呼ぶのが正しいだろうか。鋭く長細い凶器と化したその布だったものは、今では艶を放っている。
「こっちのおもちゃをな!」
プロットとかなくて、好きなように書いてるだけなので
矛盾とかあったら教えて欲しいです!




