六章『勝者は抜きで最強を決めましょう』4
〜9時10分 聖フィルリード学園Aグラウンド〜
「皆の衆、よく集まってくれた」
学園長である二階堂 銀次郎の声がグラウンドに広がった。何の機械もなしに声が全体に響いているのは、魔法によるものだ。なのに魔法陣が見えないところをみると、やはり学園長という上位者なのだとよく分かる。
「ここには1人を除いて新入生全員が揃っておる。今日の新入生トーナメントでは、この中で1番強い者が決まることになる。確かにそれは誰が強く、誰が弱いかを決める残酷なことかもしれん。だが、お主らならそれで挫けることなく、切磋琢磨して高みを目指してくれると信じておるぞ!
それではこれより、新入生トーナメントを開催する!!」
高らかと宣言した銀次郎は、パンッと手を叩く。すると、生徒達に向けるように2つのトーナメント表が宙に映し出された。
光と音の卓越者。それが銀次郎の持つ二つ名だ。二つ名とは、いわゆる称号のようなもので優れた力を持つ者にのみ与えられるものである。基準は魔法に限ったことではなく、体術のみで得た者もいる。
そして銀次郎はその二つ名の通り、光と音を操ることを得意としている。桜が知っている話では、動きながら自身を光学迷彩で隠すことに初めて成功した人物だということだ。
両親のの話によると、当時、ニュースやら新聞やらで大騒ぎになったらしい。それはみんなも知っているようで、
「おおっ……」
「あれが空中投影か、初めて見たぜ」
などと感嘆の声が上がる。
「いとも簡単に……凄いですわね」
「アリスでも出来ないのか?」
周りと同様に浮かんだトーナメント表を見て、悔しそうな顔をしているアリスに尋ねる。
「出来なくはない……と言っておきますの。あのトーナメント表のサイズだと、出来て10秒。維持に魔力を持っていかれてスッカラカンになりますわ」
出来ない人は見れたことに喜ぶが、少し出来る人からすれば嫉妬の対象というわけだ。
「それではトーナメントの説明をさせていただきます」
銀次郎が後ろに下がった代わりに、若い女の先生が前に出る。口元に魔法陣が現れているが、それは先ほど銀次郎が使っていた拡声魔法と同じものだ。
「トーナメント表の通り、AグラウンドとBグラウンドの二箇所で試合を行なっていきます。そして各表の決勝戦、それと両表の勝者による最終戦はBグラウンドにて行います。
試合の予定時間は皆さんのグレアに送りますが、時間は前後することがあるので余裕を持って行動してください。
最後に今回のトーナメント表を作るにあたって、入学試験の結果は考慮に入れず、完全にランダムで組んでいます。入学試験で結果が振るわなかった方も頑張ってください!
それでは皆さん、健闘を!」
若い女の先生がお辞儀をして下がる。これで開会式は終わりだ。各々、自分の位置と対戦相手を確認して一喜一憂したり、すでに移動を始めている人達も見える。
「私はAの方だな」
桜は自分の名前をAグラウンドのトーナメント表の左端に見つける。対戦相手の名前は……見たことないので多分違うクラスの人だろう。
「私はBグラウンドですの。桜と離れたのはラッキーですわね」
「あ、私もBにありました」
Bのトーナメントの右のほうにアリス、真ん中あたりに飛鳥の名前が見える。2人がもし当たるとすればBトーナメント内の決勝戦のようだ。
「誰と当たるにしても決勝戦以上ってことか」
「決勝戦までで負けないでね、アリス」
「こっちのセリフですわ!」
「暁は今回のトーナメントに出ないのかしら?」
不意に三人の後ろから声がかかる。 振り返るとそこには、黒い制服で水色の髪をした女子生徒とスナイパーライフルを肩にかけた男子生徒がいた。
「月見先輩!」
「やあやあ、おはよう」
女子生徒は、2日前にグラウンドで暁と戦った月見だった。その月見はというと左に立つ男子生徒の腕に抱きついている。
2人はお揃いの兎と月の髪留めを付けて、そのせいなのか、男子生徒の方は照れ臭そうにしている。
「そちらの殿方はどなたですの?」
「ああ、この人は……」
「この人ですよ、この人!トーナメントの優勝特典として学校に転入してきた人です!」
飛鳥が男子生徒を指差して叫ぶ。それを見て月見は微笑んでから、遮られた言葉を続ける。
「この人は、三津茅 蓮。私の彼氏なの。その子の言う通り、去年このトーナメントで優勝して連れてきたわ」
「それって無条件で、ですの?」
「いいえ。私がお願いしたのは、本来は無い転入試験の実施と受かった時に同じクラスにして欲しいっていう2つだけよ。蓮はしっかり試験に合格して学園に転入してきたってわけ」
月見は自慢げに胸を張って話すのに対し、三津茅は照れ臭そうにハハハッと笑う。雰囲気だけだと優しそうに見えるのだが、後ろに見えるスナイパーライフルがその穏やかさを打ち消している。
「三津茅先輩は銃で戦うんですか?」
「そうだよ。僕の専門は狙撃なんだ」
桜の質問に、三津茅は銃を見せるように体を傾けて答える。銃に関して詳しいわけではないが、銃身の先にサプレッサーを付いているようだ。それを考慮にいれても、普通のものより銃身が長いように思える。
「それで、結局暁は不参加なのかしら?」
「ええ、副会長からのお願いで不参加になりましたの」
「出雲か……確かにあの子なら言いそうなことね」
副会長と聞いて、月見は少し嫌そうな顔をする。
「あの子のことだから、トーナメントの優勝が暁くんに決まっちゃってつまらないとか言ったんでしょう?」
「確かにそうですわね」
「出雲さんはイベントを盛り上げることに命をかけてるからね。みんなが楽しめなさそうなことは嫌なんだよ」
三津茅は「なんで、あの子は……」と横で項垂れている月見を撫でながら説明する。ちなみに撫でている手は、月見が自分で乗せていた。
「嘆いても仕方ないし、あなた達の応援をさせてもらうことにするわ。最初は誰が試合なのかしら?」
その言葉と同時に、誰かのグレアが鳴る音がする。
「私のだ」
桜がポケットからグレアを取り出すと、画面には『Aグラウンド 一回戦目呼出』の文字があった。どうやらトーナメント表は左から進めていくようだ。
「それじゃあ、暁抜きの一年生最強決定戦の開幕だね!!」
元気な飛鳥の声がグラウンドに響く。その声に桜やアリス、それに周りにいた一年生達の気も強く引き締められた。
久しぶりに更新出来ました
受験生って大変なんですね……甘く見てました
ですが、諦めません!頑張って書いてみせます!!




