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俺より強いのをやめてもらおうか!  作者: イノカゲ
第一部『彼は勝者だそうですよ?』
30/43

六章『勝者は抜きで最強を決めましょう』2

〜同日 午前5時30分ごろ〜


「この武器は天使の加護を……えっとこっちは悪魔で、これはただの弓矢で……」


 暁はリビングのソファーに座り、渡された資料を読み漁っていた。読み始めてすでに8時間が経過し、9割ほど読み終えたところだ。


「量多すぎだろ……聞いたこともない言葉が多すぎて訳わからん……」


 リビングには読み終えた資料の束が散乱し、足の踏み場が見えない。久我から7時に迎えにくるとメールが来ていたので、そろそろ行く準備をする必要がある。


「あと2つくらい読んで一旦やめるか。えっと次は……」

「はい、どうぞ」


 細くて白い腕が横から伸びてきて、次に読もうとしていた資料を手渡す。


「ありがとう。えっと……次は精霊を媒体にした投擲武器が……あ?」


 自分以外誰もいないはずの家で、誰かから資料を渡された。驚いて暁はそちらを振り向く。

 そこでは栗色のショートボブの少女が、目をキラキラさせてこちらを向いて座っている。


「上井草……」


 暁はソファの一番右端に座っているので、その右にいる飛鳥は床に正座していた。


「飛鳥ちゃんって呼び方はもう終わっちゃったんですか?苗字なんてよそよそしくて嫌です」

「それは今どうでもいい。お前、いつから近くにいた?さっきか?それとも家に着いてからか?」

「いや〜家に着いてからっちゃ着いてからかな……1回目の帰宅だけど」

「まじでか……」


 つまり12時間以上もつきまとわれていたというわけだ。格好が制服のままなので、学校から付いてきていたのだろう。

 その間、暁はあの白黒の部屋で会議をしたり、国家機密のファイルを読んでいたわけだが、


「お前、あのビルの中までついてきたか?」

「流石にそこまではしてないよ。国の機関だったし、捕まりたくはないからね!」


 うちに入り込んでいる時点で不法進入として逮捕されるわけで、分別があるのかよく分からないところだ。いや、ストーカーしてる時点で分別はなかった。


「全く……にしてもなんで気付けなかったんだ」

「周りの風に気をつけて、魔法で気配を消したら大丈夫だったよ」

「ああ、なるほど」


 暁がいつも纏っている風は『一定範囲に入ったものを感知する』ものであって、『周囲全体を把握する』ものではない。

 風を操って周りを把握することは出来るが、常にそれをやり続けるには魔力が足りないし、それ以外のことが出来なくなってしまう。


「暁様のことだからすぐバレちゃうかと思ったけど」

「別に俺は最強ってわけじゃないからな」


 言われてみればそうなのだが、基本的に近づいてくるのは殺そうとしてくる人間ばかりだったので、『敵意を出さずに近くにいる』なんてされることがあるとは思いもしなかった。


「あと、もう様はやめてくれ。どうもむず痒い。暁でいいよ。」

「なら私も飛鳥って呼んでくださいよ〜」


 バレたからもう遠慮する必要はないと、飛鳥は暁の腕に抱きつく。


「分かったから、抱きつくな!」

「え〜だって時間と場所に関わらず抱きついたっていいって約束したじゃないですか〜」

「そういやそう……って時間と場所って部分については認めた覚えはない」


 この前『抱きつくことを容認する』という約束をした事改めて思い出す。外でやられるのは困るが、家の中くらいは諦めよう。


「本当にずっと風を纏ってるんだね」


 抱きついている飛鳥の前髪が、少しだがゆらゆらと揺れる。


「嫌なら離れてくれていいんだぞ?」

「全然。逆に気持ちいいくらい」

「そうか」


 しばしの静寂。

 飛鳥は目を閉じて、暁の風を感じている。一方、暁は女の子に抱きつかれた事なんてなかったので、どうすればいいのか分からず固まっている。


「よし、それじゃ」


 急に飛鳥は暁の腕から手を離して立ち上がる。


「もういいのか?」

「なに?まだ続けて欲しかった?」

「別にそう言うわけじゃないが……」

「だってそろそろ、迎えが来る時間でしょ?」


 飛鳥が指差した時計は5時50分を示す。久我との約束では、6時に車で迎えにくるとのことだった。


「あの2人に行けないってメールしましたか?」

「いや、特に何もしてないが」

「そのくらいしっかりしてください!私はもう行きますが、自分で出来ますか?」

「確かにそうだな。しておくよ」


 見に行くと言ったのに、何もなしで行かないわけにはいかない。仕事以外で人と約束をすることなんて久しぶりすぎて忘れていた。


「では、お仕事頑張ってくださいね」

「はいよ」


 飛鳥が瞬間移動を使ってその場から消える。


「音もないのか。これじゃ気づけねぇな」


 ピンポーン


 家のチャイムが鳴る。窓から玄関を見ると軍用車と水嶋がペコペコと頭を下げているのが見えた。12時間に同じ光景を見たのを思い出す。


「よし」


 気合いを入れるために、外から見えないところで頬を叩く。


「それじゃあ、今日も勝者(いつも通り)で行こうか!」

 

遅くなって申し訳ありません


今年一年はこのペースになってしまうかもしれないのですが、応援よろしくお願いします

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