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俺より強いのをやめてもらおうか!  作者: イノカゲ
第一部『彼は勝者だそうですよ?』
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六章『勝者は抜きで最強を決めましょう』1

 とある少女の一室。部屋の中はベッドに勉強机、クローゼットに本棚くらいで特に目立つものはなく、これといって女の子らしいものも見当たらない。

 日が変わり、目覚まし時計が本日1度目の7を指そうとした時、目覚まし時計の頭に手が伸びる。


 ピッ カチッ


 目覚まし時計は仕事を始めて1秒とたたずに仕事が終わる。伸ばしていた手で、被っていた毛布を剥ぎ取った黒髪の少女── 黒峰 桜は上半身を起こして伸びをした。


「んん〜〜」


 お気に入りの桜柄のパジャマに身を包んだ桜は、軽くペチペチと顔を叩く。


「よし!今日も一日頑張るぞ!」


 朝に強い桜は、明け方の寒さにたじろぐことなくベッドから出ると、部屋を出て洗面台に向かう。

 顔を洗い、寝癖を直し、いつもと同じ朝の習慣をこなす。それから部屋に戻り、パジャマを脱いでクローゼから制服を取り出す。

 着崩しは一切なく、ピシッと制服に着替えた桜は壁にかかった二本の刀の前に立った。


「どっちを持って行こうか……」


 一本は、金で模様の描かれた黒い鞘に赤い柄と金色の鐔で、刀自体はかなりの名刀なのだが、いわゆる普通の刀である。

 もう一本は、白い鞘に白い柄と銀色の鐔。一切の装飾はなく、少しの汚れもない。

 紅蓮神楽──その刀はそう呼ばれている。世界に10本しかない魔刀の一本であり、祖父から受け継いだものである。


「いや、今日は新入生トーナメントだし、二本とも持っていくとしよう」


 桜は二本とも刀を手に取ると、紐で腰の左へくくりつける。理由は、魔刀を扱うにはそれなりの集中力を使うので、序盤の試合から連続して使い続けるのは難しいからだ。

 祖父から聞いた話だと同時に二本の魔刀を扱う人間もいるらしいが、自分がそうなれるとは微塵も想像が出来ない。


「ご飯出来たよー」


 一階から母親が呼ぶ声が聞こえてくる。


「はーい」


 大きく返事をして、学校のカバンを持つ。それから机の上に液晶を下にして置いていたグレアを手に取る。


「ん?」


 液晶に『新着メッセージ』の文字が映っていることに気付く。

 送られたのは6時過ぎなようで、そんな朝早くに誰だろうかと思いながら、グレアのロックを解除する。


「暁からじゃないか!」


 まさか向こうからメールを送られることがあるとは思ってもなかった桜は、少し声を大きくして驚く。液晶に指を滑らせてメールの内容を確認してみると、


『今日、トーナメント見に行けないわ。もしかしたら決勝には間に合うかもしれん。まあ、頑張れよ〜』


 「軽いっ!!」


 軽い口調で、大切なことをサラッと書かれていたことにさらに驚いた桜は、思わず普段使わないような言葉が出る。

 件名には『悪い』の2文字。送った相手は自分とアリスの2人だけのようだ。


「けど、わざわざメールしてきたってことは、何か用事があるってことか。寝坊させまいと起こしに行くつもりだったが、必要はないようだな」


 ガッカリはしない。どの道、優勝しないと暁と戦えないわけで、決勝まで残れないようでは合わせる顔がないからだ。

 入学試験が二位だったからといって決勝まで残れる確証はない。戦闘スタイルによって得意不得意もあり、さらに戦闘評価が高くても筆記テストの成績が悪いせいで順位が低かった人間もいる。


「目指すは優勝!アリスには負けられんしな!!」


 しっかりと目標を言葉にして口に出す。こうすると気が引き締まるので、絶対成功させたい何かをする時はいつもこうしている。


「ご飯 冷めちゃうよ〜」

「そうだった!今行く〜」


 桜はグレアをポケットに入れて、部屋を出た。



「う〜ん」


 こちらはとあるマンションの一室。金髪の少女は、頭をベッドの外に垂らして苦しそうな声を出す。その体勢から寝返りを打とうした少女は案の定、


「んぁ!?」


 床に頭を打った。寝相が悪い少女──フィルフォード・S・アリスはいつもこんな起き方をしている。


「イタタ……もう朝ですの?」


 クルクルと辺りを見回して、すでに陽の光で部屋が満たされていることを確認する。


「朝ごはんを作らないと……」


 まだ眠たい目を擦って、立ち上がる。サイズの大きなTシャツをワンピースのように着て、下は下着のみ。

 なぜこんなにも自堕落な格好で生活しているかというと、高校に入るにあたって一人暮らしを始めたからだ。


「オートモーション」


 部屋にある唯一の白いテーブルに触れると、アリスはそう唱える。

 すると、1人でに冷蔵庫の扉が開き、卵が飛び出す。卵は空中で砕け、中身はコンロに置いてあるフライパンへ、殻は下に置いてあったゴミ箱に入る。


「ファイヤ」


 ガスは使わず、魔法でフライパンの下に火を付けた。リベルアスにも魔法が使えない人はいるので、基本的に部屋には水とガスは通っている。

 だが、魔力に余裕がある人は魔法で補ったほうが節約出来るので、そうする人は多い。リラックスして入りたいお風呂を除いて。


「そろそろですわね」


 アリスが右手を伸ばすと、そこへティーカップが飛び込んでくる。

 『オートモーション』は前もって設置された魔法を、決められた順番に発動させる魔法だ。

 設置魔法では、術者の調整が必要な『物を浮かせて移動させる』のは不可能だが、飛ばすことはできる。なので割れてしまうティーカップなどはキャッチしなければならないが、それでも十分なほど楽ができる。


「今日はダージリンにしましょうか」


 白い机に置いてある箱から『DARJEELING』と書かれたティーバッグを取り出してカップに入れ、魔法で熱湯を作って注ぐ。


「ん〜〜いい朝ですわ」


 カーテンを開けて、日の光を浴びる。10階にあるアリスの部屋からは、すでに学校へ向かう生徒達の姿が見える。


「今日は少し早めに行くんでしたね。急ぎませんと!」


 起きた時間自体はいつもと変わらないが、今日はトーナメント戦なので、少し前に学校に行って体を動かしておきたい。

 早く朝ご飯を食べようと振り返った時、足が何かを蹴る。


「あら、グリアを……誰かからメールが来てるみたいですわね」


 蹴られて床を滑ったグリアに、『新着メッセージ』の文字が映っているのが見える。アリスは、ティーカップを机に置くとグレアを拾った。


「暁から? えっと、なになに……トーナメントは見に来れないと……まあ、大体分かってましたの。どうせ来ないだろうってことくらい」


 来れない理由は、久我が暁に急な依頼をしたからなのだが、そんなことは知らないアリスの中で暁の評価がグンと下がる。


「なんでこんな人が私より強いんですの……」


 自慢ではないが自分は生まれつき魔法師の才能があったし、勉強も出来たので、何をやっても一番なのは当たり前だった。

 当然、今回の入学式も首席だと思っていたのだが、一位の座はあの適当な男に持っていかれてしまった。


「絶対勝ってやりますの!……って卵、卵」


 アリスは、焼いたままだった卵を思い出して、台所へ走る。




これが、2人の少女の今までの人生の中で一番長い一日の始まりだった。



今年一年は忙しいので、更新が遅くなってしまいますが


付き合っていただけると幸いです。

少しでも面白い話を書けるように頑張ります

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