五章『勝者はわりと働き者』4
「どうぞ暁、出来る限りであれば協力するけど」
「ああ。俺の要求は一つだけ、すごく簡単なもんだ」
人差し指を立て、ニタっと笑う暁はそのまま内容を続ける。
「お前らの使う武器、そして相手が持っているであろう武器の情報をよこせ」
「なっ!! 」
その発言に思わずファディスが声をあげた。
さっきのこともあってか、今度は全員の控えが一瞬で武器に手をかけた。
それに対して、白峰は動かずに耳を傾け、成宮はニヤニヤと暁の顔を眺めている。
ザーミットはリベルアスと共同での戦闘兵器の開発を行っているため、ほとんどの情報は共有されているが、他国の情報を暁は何も知らない。車から降りるときに久我に要求した条件もこれと同じ、リベルアスの有する他国の情報を機密レベルまで開示するというものだ。
能力上、弱くする物の姿形を知っている必要がある。10人、20人くらいとの戦いならばその場で対応できるのだが、今回の相手は1000人、かつ味方も敵になりうる暁にとっては事前に情報を知っておく必要がある。
「理由を聞いてもいいかな?」
「そりゃぁ共闘するわけだし、何を使うのかくらいは知っておきたいってわけだ。
別に国で持っている武器を全部教えろってわけじゃない。今回使うやつと相手が持っているであろうやつだけで十分なんだが」
もっともらしい事を言って笑う暁を、ファディスは敵意を隠さず睨みつける。
それも無理はない。共闘関係とはいえ、今後敵になるかもしれない相手に武器の情報を教えるのを躊躇うのは当然だろう。
「それはお前らも私達に武器の情報を渡すという事でいいのか?」
ファディスの質問は対等な条件なのか、という趣旨だ。それを聞いた暁は肯定に加えて緩和内容を付け足す。
「もちろん。最悪、見た目だけでも教えて貰えれば大丈夫だ。気にしながら戦えるからな」
本当は一度見れば全く気にしなくなるのだが、いらないことは言わずに都合の良いように言い換える。
「うぅむ…………仕方ない!分かった。ダクソスは要求を受け入れる」
ファディスは悩んだ挙句、決断して情報の開示に同意する。それに続いて白峰、成宮も
「ギルラミナ、了解しました」
「ザーミットはもとよりオッケーだよ!」
と要求の承諾を言う。それを聞いたガリウスはゆっくりと立ち上がった。
「ミルフィリアもOKだよ。武器の情報は僕の所に集めてくれれば、明日の詳細と共にまとめて配らせてもらうから」
それに合わせて他の全員も立ち上がる。
「それでは、これにて会議は終了。みなさん、明日は頑張りましょう!」
その一言によって天使、悪魔、侍、科学者、能力者による円卓会議は終了を告げた。
★
会議は終わり、時計は午後8時を指そうという頃。会議の行われていたビルの屋上で暁は月を眺めていた。
体に纏う風を弱め、わざと冷たい夜風に当たる。冷たさに引き攣る頬に自分がまだ生きていることが感じられた。
「おーい、暁〜」
背中からかけられた声に振り返ると、久我が屋上への入り口で紙束を片手に手を振っているのが見える。
どうやらガリウスの言っていた明日の詳細な内容と暁の要求した武器の情報が配られたらしい。
「何を見てたんだ?」
「あの地図にあった岩壁はここから見えないかなってな。あんな大きなもんがあったら気づくと思うんだが、1度も見た覚えがねぇ」
地図にあった岩壁は4つ。つまり本来なら28階ほどの高さに値するこの屋上からならどこを向いても一つは見えるはずだが、影も形もない。それどころか、リベルアスで過ごしてきたこの15年間一度もそんなものを見たことがない。
「当たり前だ。リベルアスの周りには、特殊な魔法がかけられていて内側から外の景色を見ることは出来ない。許可なしに近づくことさえ不可能だぞ」
「国を覆う魔法って……1人でか?」
「流石に1人ではないらしいが、俺も詳しくは知らないんだ。地脈がどうとかって言ってたが全く分からなくてな。そういうのは成宮に聞いてくれ」
「つまり、明日はその魔法を抜けられるってわけか」
(幻覚とは違う不特定多数に対する魔法ねぇ……1人じゃないってことは固有能力ってわけではなさそうだな)
色々な考えを巡らせながら暁は目線を空から下ろし、久我のいるドアの方へ行って紙束を受け取る。
「他の情報は家の方に持っていくつもりだが、一回家に帰るだろ?」
「そうだな。もう少し動きやすい服にも着替えたいし、どうせ今夜は徹夜することになるだろうからな」
暁は手に持った紙束を振って皮肉を込めたセリフと共に笑う。
「……大丈夫そうか?」
それを見た久我は少し間を空けて優しく微笑んで、だが心配そうな声で尋ねた。暁はその様子に少し驚きながらも、変わらぬ口調で答える。
「なに言ってやがる。俺が死ぬわけねぇだろ?どんな卑怯な手を使ってでも勝つのが俺の信条だ。そうじゃなきゃ『絶対勝者』の名が泣くってもんだろ?」
「それもそうだな。どうする、車で送って行こうか?」
「いや、大丈夫だ。それじゃあ、また明日な」
暁は足元に魔法陣を展開し、『跳躍』を使って高く跳んで街の明かりの中へと消えてゆく。
かつては殺さなければならないと思っていた存在を、今では都合よく使っているという罪悪感は確かに少なくはない。だが、この心配は罪悪感とは違う。死んで欲しくないと思っている自分がいる。
「無茶すんなよ」
久我は、暁が見えなくなってからも夜空を眺めて小さく呟く。
「最弱王さんよ……」
今年は受験生なので更新が遅くなるかと思いますが、引き続き応援していただけると幸いです
時間があれば、設定集をまた作ろうと思います
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