五章『勝者はわりと働き者』2
国際会議はザーミット・ミルフィリア・ダクソリス・ギルラミナの4ヶ国に、今回は自国のリベルアスを加えた5ヶ国によって行われる。
この4ヶ国はリベルアスを四方から囲む国であり、今まで会議に参加してこなかったのはかなり異端なのだが、だからこそ会場の提供という形を取ってきた。
しかし、今回はわけが違う。攻撃対象のリストに暁達の通う学校があったように、リベルアスも対象に入っているのだ。
「ここだ」
久我がそう言うと、エレベーターが止まる。
ホテルのようなロビーを抜け、25階まで上がるとすぐ目の前に銀色の警備の厳重そうな扉があった。
「心の準備はいいか?」
「俺にそんな心配すんのはお前くらいだよ。まあ、問題ねぇ。早く開けろ」
はいはい、と久我が扉の横にある機器に手を当て、次に虹彩認証を済ませる。すると扉は重厚感のある見た目とは違い、軽く横にスライドした。
中は四方を装飾のない白の壁に包まれた部屋で、真ん中に丸く黒い1つの机のみ。それを囲うように4人が座り、それぞれ背後に控えが1人ずつ。
「あ!暁ちゃん久しぶり〜」
中に入るといきなり左側に座る少女に声をかけられる。長い黒髪をポニーテールに結って、Tシャツとチェックのスカートの上に白衣を羽織っている。体格および見た目は小学生くらい。
暁は彼女とは接点があった。名前は、成宮 調。ザーミット最高の科学者で、年齢は不明、自ら調合した薬の副作用でよく見た目が変わる。実際、前回会った時は暁と同じくらいの身長だったはずなのだが、今は頭一つ低い。
「久しぶりだな、成宮。また小さくなったのか?」
「一昨日までは大きかったんだけどね。新作飲んだら小さくなっちゃった」
「今度、大きくなった姿も見せてくれ。あと後ろのそいつはなんだ?」
暁は成宮の後ろに立つ少女を指差す。身長は暁と同じくらいだが、体に何本もの青い線がある。
「私はただの科学者だし、特に助手もいないからさ〜最近作った自動戦闘人形連れてきちゃった」
「またすげぇもん作りやがったな」
「今度、兵器の実験させてね?」
「暇だったらな」
そう成宮に言ってから暁は他のメンバーを見回す。そして改めて暁は、この空間に人間以外の存在がいることを認識した。
「どうも、こんばんは」
声をかけてきたのは机の1番奥に座る20代ぐらいの男性。短く切り揃えられた金髪に、真っ白な軍服のような服を身にまとっている。
そして本来人間にはない白い翼が、背中から生えていた。
「リベルアスの人間は時間も守れねぇのか」
次に声をあげたのは先ほどの男の左に座るこれまた20代ぐらいの女性。胸が大きく、さらにそれを強調するかのように露出の高い黒と赤を基調としたジャンパーとショートパンツを着ている。
両足を机の上に乗せ、短い紅色の髪の下から覗く金色に輝く瞳でこちらを睨んでいる。
そして、背中には黒て禍々しい尖った翼と腰あたりには尻尾が見える。
「ファディスさん、遅れたと言っても5分だけのこと。許して差し上げるのが淑女というものでありましょう?」
そう言ったのはさらに左隣に座る女性。綺麗な白髪は床につきそうなほど長く、スレンダーな体型を鮮やかな赤い着物で包んでいる。
腰には刀が二本あり、両方とも真っ白な鞘でよく目立つ。
「にゃはは、相変わらず雪姫は優しいなぁ。まあ、私も遅刻なんかで怒るほど器は小さくないけどねん」
「チッ……」
成宮が笑って陽気に言う。そう言われた紅髪の女性──呼ばれていた名前ではファディスがバツな悪そうな顔を浮かべた。
「まあ、座ってよ。遅刻のことは気にしなくていいからさ」
「はいよ」
遅刻は別に自分のせいではなかったのだが、気にしなくていいというので特には触れない。
翼を持つ男に促され、暁が空いている席に座るとそれじゃあ、と話が始まる。
「自己紹介といこうか。ではまず私から……えっと私の名前はヘルヴィム・プット・ガリウス。後ろの仕えているのはデュナミス・ミルア。ミルフィリアの代表として来ている。見ての通り、天使だよ。今回はよろしくね」
「よろしくお願いします」
ガリウスは優しく微笑み、暁に見せるように軽く翼を広げてお辞儀をする。後ろに立つ金髪のツインテールの女性も合わせて頭を下げた。
「どうも。ガリウスって呼んでいいか?」
「もちろんです」
ミルフィリア──リベルアスの北側に位置する天使の国。伝承によると、天界での生活に飽きた天使達が地上に住み着き、繁栄したとされている。背中から生える翼で空を飛び、上空からの攻撃を得意とする。
(機密文書で読んだことはあったが、本物を見るとなんかこう拝みたくなるな……)
「次は私か」
暁が思わずガリウスに対して手を合わせようとしていると、ファディスが声を上げた。
「ダクソリス代表のアエーシュマ・ファディスだ。こいつはボルフリー・ベリト。目的が同じだからここにいるだけで別に馴れ合うつもりはない、以上だ」
ファディスは尻尾を揺らしながらこちらを見ずに言う。ベリトと呼ばれていた従者は全身を赤黒い鎧で包み、後ろで腕を組んでピクリとも動かない。
ダクソリス───リベルアスの南側に位置する悪魔の国。伝承によると地上に住み着いた天使に対抗して、地から這い上がってきたとされる。黒い翼と尻尾を持つが、天使とは違い上空戦よりも地上戦を好む。
「ファディスさんはなんでいつもそうなんですか。仲良くしたらいいでしょうに」
先ほどと同じようにファディスの言葉に口を出したのは白髪の着物を着た女性。言動からだけだと優しい雰囲気が感じられる。
「どうも初めまして。ギルラミナ代表、白峰 雪姫でございます。こっちは青峰 静。私達はただの人間だからつまらないかもしれないけど、よろしゅうな」
「…………よろしく」
優しく微笑む白峰とは違い、青峰の方は右目を青い髪で隠し、ボソボソっと小さな声で挨拶をする。青峰の服装は、和服なのだが白峰のように着物というわけではなく、動きやすそうで丈が膝と同じくらいほどのものだ。
ギルラミナ──リベルアスの右側に位置するいわゆる『武士』の国。科学の国であるザーミットとは対照に、昔ながらの伝統と文化を大切にし、また他国にも負けないような進化を遂げた。
「これでこちらの自己紹介は終わったね。次は君の番だよ。あと、座っていいよ」
一通りの自己紹介が終わったところで、ガリウスが暁も、と促す。
「はいよ。そんじゃ、リベルアス代表の三神 暁だ。付き添いはいない。今回、リベルアスからは俺しか行かないんでそこんとこよろしく」
軽く必要事項だけを述べる。そこでまた、何がそんなに気にくわないのかファディスがつっかかってくる。
「1人って……貴様は舐めてんのか?お前1人がどれだけ役立つってんだ」
「少なくともお前ら全員よりは強えぇよ」
そう暁が軽口を叩いた瞬間、赤い鉤爪によって、椅子は壊れ、暁の体は音よりも早く白い壁へと叩きつけられた。
天使、悪魔、侍、科学
とまあ、突然の世界観爆発ですが
どうかお付き合いください!




