四章『勝者は抜きになるそうです』4
お待たせしました。マイコプラズマと格闘中です
「なんであんなにもあっさりと了解したんだ!」
桜の声が噴水広場に響く。校舎から校門の間にある噴水広場だが、ほとんどの人が帰宅を終えたか、部活動やらで今の時間は通る人が少ない。
「そんなこと言われてもなぁ……別に向こうに迷惑をかけるつもりはないし、出なくても問題はなかったしさ」
「問題大有りだ!私はこのトーナメントでお前と戦えると楽しみにしていたのに」
「私もですわ!」
なるほど、だから怒っているのか。なんで自分のことなのに怒られていたのか分からなかったが、理由が分かった。
「けど、お前らすでに一回負けてるだろ?」
桜は上級生が襲ってきた時に、アリスは昨日の組み手の授業で。桜の方は勝負で勝ったわけではなかったが、魔刀が効かなかった時点でほぼ暁の勝ちと言ってもいいはずだ。
「「うるさい!」」
そんなことは関係ないらしい。2人に声を揃えて怒られてしまった。お前ら仲良すぎだろ。
「私も悔しいです。暁様〜」
「!?」
背後から急に首に腕を回された。いつも通り周囲に纏った風で外郭が分かり飛鳥だということまで理解出来たが、回避までは至らなかった。
能力の対象内になったものは、無駄に体力を使いたくないので動かないという癖のせいでもる。
「急に瞬間移動してくるな!そして、離れろ!」
後ろから抱きつく形になっているので、暁の背中にはふくよかで柔らかい2つの膨らみが押し当てられている。
しかもわざと当てているようで、フニフニとして感触がよく分かる。
「え〜だって約束したじゃないですか」
飛鳥が耳元で呟く。吐息が耳に当たってこそばゆい。
「にしても近すぎだ」
「私は大丈夫ですよ〜」
「お前ら何してるんだ!」
急に現れた飛鳥に固まっていた桜だったが、状況を理解して叫ぶ。
「いちゃいちゃしてるんですよ」
「してねぇよ!面倒くさいから一回降りてくれ!!」
「むう……仕方ないですねぇ」
飛鳥は腕を解いて地面に降りる。乱れた制服を正すと、暁の横に並んで立った。
「どうも初めまして、上井草 飛鳥です。あなたたちと同じ一年生。クラスはD組です」
一年生にクラスはA〜Fまであり、暁達はB組に所属している。というかこいつ同じ一年生だったのかよ。
「確か昨日、暁を追いかけてた人ですわよね?」
「はい!」
「暁のファンなんでしたっけ?」
「ファンというか、好きなんですよ!LIKEではなくLOVEで!!」
そう言うと飛鳥はキャー言っちゃった〜、と顔を隠して二人から顔を背けた。昨日性的に抱いてくれとか言っていたやつが何を今更言ってやがる。
そんなことは知らない桜とアリスがこっちを睨んできた。
「いや、俺は昨日ちゃんと断ったぞ?」
「本当か?」
「疑わしいですの」
二人は訝しげな視線をこちらに向けながら質問する。
「だよな、飛鳥?」
「ええ、確かに私は暁様に昨日振られましたよ」
すでに何ともない顔で立っていた飛鳥が言う。やっぱり演技だったか。昨日の交渉での切り替えといい、飛鳥は演技が上手い。てか、こいつ本当は俺のこと好きじゃないんじゃね?
「別に暁様じゃなくていいぞ?」
「みんな暁って呼んでるじゃないですか〜。被っちゃうんでしばらくは暁様でいきます」
いや、もう被るとか言っちゃってるじゃん……
「そういえば、お前は何で俺が出ないって話を知ってるんだ?もうすでに噂になってるとか?」
「何を言ってるんですか!好きな人の行動、会話を把握するのは当然でしょう!」
「お、おう。そうか」
よく考えたらそれってストーカーなのでは?という疑問が浮かんだが、力説する飛鳥の迫力に負けて言えなかった。
「当然ではないぞ!それはストーカーじゃないか!」
だが、その疑問は代わりに桜が答えてくれた。
「ストーカーでもいいじゃないですか。好きなことに変わりわないんですから」
「振られたなら諦めろ」
「あらあら、それで諦めては本当に好きとは言えませんよ!」
「なら好きな人のことを考えて諦めるべきだ」
飛鳥の力説は続く。それに対し、桜も負けじと反論を続ける。
口論まではいかないが二人の言い合いに口を挟むことも出来ず、同じく蚊帳の外にいるアリスに声をかけることにした。
「アリスは、好きな人のためならできるか?」
「私は誰かを好きなったことがありませんの。告白はされたことはありますけど。あなたはどうなんですの?」
「今までそんな余裕なかったからなぁ」
今まで自分の能力を検証したり、魔法の研究や練習でずっと忙しくしていたので、色恋沙汰は全く接点がなかった。そもそも、近づいて来る女子もいなかったので、そんな関係になるわけもなく。
安定した生活が出来るようになったのもつい最近のことだ。
「けど、誰かのためにそこまで出来るのは良いことだと思いますの」
「いや、ストーカーは相手のためにはならねぇよ?……ってなんだ!?」
飛鳥が急に左腕に抱きついてくる。腕に当たる胸の感触は、なんだかんだ言っても嬉しいものだ。
「私は今回のトーナメントで優勝して暁様を貰うのです!」
「いや、ちょっと待て。なんか話が凄いとこまで発展してないか?そもそも、貰うってそんなことできないだろ」
「チッチッチッ」
飛鳥がこちらを見上げ、暁の顔の前で人差し指を振る。あざとい行為だが、不覚にも可愛いと思ってしまった。
「ちゃんと前例があるんですよ!去年優勝した月見 遊奈先輩は優勝景品として三津茅 蓮という男子を彼氏にしたそうです」
「あいつ彼氏いんのか」
「あら、すでにお知り合いで?」
「一応な」
大企業の御令嬢に彼氏がいるとは驚きである。結構面倒くさそうな性格だったので、その三津茅とかいうやつは苦労していそうだ。
「と言っても、やったのは三津茅先輩をこの学校に転入させたことだけですけどね」
「三津茅ってやつはこの学校の生徒じゃなかったってことか?」
「はい!それどころか一度も学校には通ったことがないみたいですよ。けど、転入試験を余裕で合格。特に実技で見せたスナイパーとしての技術は国内でもトップクラスらしいです」
スナイパー……ということは昨日、月見の言っていた屋上から狙撃してきた仲間が三津茅 蓮なのだろう。
この国では、みんな魔法が大好きなので武器を使っても近接で魔法と併用する人が多い。いても中距離系の弓がせいぜいといったところだ。
だが、決して遠距離のスナイパーが不利というわけではない。不意のヘッドショット──それが有効なのは変わらないからだ。
「それは彼氏にしたのではなく、彼氏を連れてきただけではないか?」
口を挟まず話を聞いていた桜が、区切れで飛鳥に尋ねる。
「むむっ。やっぱり誤魔化せませんでしたか。では戦略をかえます!暁様、賭けをしましょう!」
「賭け?」
「はい。もし、私が優勝したら付き合ってください」
「じゃあ優勝出来なかったら?」
「暁様に可愛い奴隷が1人出来ます!」
それ自分のこと言ってんだろ……よくもまあ恥ずかしがらずに自分のことを可愛いと言えるものだ。実際、飛鳥は普通に美少女なので否定はできない。
「どっちも同じじゃねぇか。俺の方は、お前のどこでも抱きつく権利の剥奪な」
「つまり、賭けにはのってくれるのですか?」
「ああ。ただし」
ただし?と飛鳥は小首を傾げる。飛鳥の瞬間移動は、優勝するには十分な固有能力だ。実戦経験の少ないひよっこ高校一年生達に対応出来るレベルではない。だからこそ──
「おい。桜、アリス」
「なんだ?」
「なんですの?」
「もしどっちかが優勝したら、優勝した方と戦ってやるよ」
入学試験2位と3位に、本気を出してもらうことした。
これで少しは、面白くなるはずだ。
次回から超展開を予定しています
お楽しみに!




