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俺より強いのをやめてもらおうか!  作者: イノカゲ
第一部『彼は勝者だそうですよ?』
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三章『正義と悪は紙一重』7

「あー終わった終わった」


 暁は行きに自分で蹴り抜いた壁の穴を通って外に出る。先ほどまで何もなかった空き地には、救急車やパトカーが何台も止まっていた。

 砕いた地面はすでに直され、元通りになっている。

 警官と話していた男と水嶋の二人組が、暁が出てきたことに気づいたのか、話を止めてこちらに来る。


「眩しくて星も見れねぇなぁ」

「そういうなよ、暁。今回は大きな獲物だったんだ。もう中はいいのか?」


 先に口を開いたのは、上着のボタンを全部開けたスーツ姿で、顎に無精髭を生やした男の方だった。久我くが 雅和まさかず──水嶋との会話にも出てきた暁殺害計画の代表にして、最も世話を焼いてくれた人間だ。

 久我に対して、暁は親しげな雰囲気で答えを返す。


「ああ。中は淵城を含めた組織全員を気絶させた。多分死者はいないと思うが、気にしてないから分からん。置いてあった戦車は全部潰した。あと防御システムのマシンガンは玉切れになってるはずだ」

「了解。よくやったな」


 久我は振り向いて、後ろに待機する武装した警官達に手で指示を送る。


「ただ……」

「ただ?」

「フレガル・トレーミスを逃してしまった。油断していた俺のミスだ」

「フレガルか。あいつには何度も逃げられているんだ。別にお前だけって訳でもない」


 警官達に指示を終えたのか、久我は再びこちらに向き直る。


「正直そこは問題じゃない。お前に聞きたいのは、今回の交渉において何か不自然な点はなかったか?」

「それならいくつかある」

「水嶋、メモを取れ」

「は、はい!」


 水嶋は慌ててポケットからメモ帳を取り出し、次にペンを探しているのか胸ポケットや内ポケットをポンポンと叩いている。


「まったく……ほら、これを使え」

「すいません、久我さん……」


 久我に呆れられながらペンを渡された水嶋は、落ち込んだ様子でメモ帳を開く。


「まず一つ目は、国の予想数だったとはいえ、実際に用意されていた武器の量があまりにも少なかったことだ。確か戦車の予想数は30台くらいだったはずだが、俺が潰したのは7台だけだった」


 それは集まっていた人数にも同じことが言えるけどな、と暁は付け足す。水嶋は必死にその話をメモ帳に書き写し、久我は顎に手を当てて色々と考えている。

 メモを書き終えたのを確認し、暁は次に入る。


「2つ目は、違和感というかフレガルと話してみて思ったことなんだが」

「なんだ?」

「淵城の後ろに謎の組織があって、その援助でフレガルから武器を買ったんじゃない。おそらくだが、フレガル自身が謎の組織の1人だ」

「なぜそうだと?」

「最初に疑問に思ったのは、フレガルが自分のことを「悪の組織ですから」と言っていたことだな」


 この時は少し気になっただけだ。武器商人が組織的に動くことはよくあることだし、何か不審な単語を言ったわけでもない。

 ただ、わざわざそんなことを言う必要があるのかと思う程度だった。


「それから、フレガルが逃げる時に言った淵城に対して「頑張ってくださいね」の一言。武器商人としては「ありがとうございました」とか感謝の言葉を述べるもんだと思うが」


 少なくとも暁の見てきた武器商人は全員そうだった。そもそも武器商人は面倒ごとに巻き込まれることを嫌う。

 逃げる手段があるならば、暁が地下入ってきた時に逃げたほうが効率的だ。


「淵城が自慢して今回のことをフレガルに言っていた可能性もあるし、言わないタイプの可能性もあるから全くもって俺の想像でしかないのだがな」

「なるほどな。しかし、フレガルってやつもお前から逃げるってことは相当なやり手なんだな」

「くっ……」


 確かに暁は、今まで一度も犯人を逃したことはなかったので歴代で1番と言えるのかもしれないが、それだけ言われると悔しい。


「俺の専門は戦いだけだ。それに、フレガルに逃げられたってよりは、護衛についてた2人に逃げられたんだよ」


 逃げられたことには変わりないが、なんだか悔しいので少しだけ訂正しておく。


「護衛の2人?」

「ああ。フレガルに2人護衛が付いていて、リベルアス出身らしいそいつらが手練れだったってわけだ。平然と最上級魔法を使ってやがったし」

「顔は?」

「マスクをしていて分からなかったな。マントをしていて体格もイマイチ分からなかったし、強いて言うなら小柄だったな」

「分かった。水嶋、メモはしっかり取れてるか?」

「はい!大丈夫……なはずです」


 弱気な水嶋の答えに、しっかりしてくれよと久我は笑って励ます。水嶋が顔を赤くしているのを見ると、好きだというのは本当らしい。

 このおっさんは鈍感だから、気付いてないんだろうなぁ。

 2人のことを見ていると、奥から一台の救急車がサイレンを鳴らして空き地から出て行くのが見えた。


「もしかして、あれは九ノ江か?」

「そうだ」

「容態は?」

「多少の骨折はあったようだが、自分で治癒魔法を使っていたようで特に問題はない」

「なら良かった。それで、対応はどうなったんだ?」


 暁の質問に、久我は驚いた表情を浮かべる。


「なんだよ」

「いや、お前が人の事を気にするなんて……なんか悪いもんでも食ったのか?」

「失礼な……一応知り合いなんだよ」


 暁はバツの悪そうな顔で頭を掻く。それを見た久我は、我が子の成長を喜ぶ父親のように微笑む。


「悪い悪い。とりあえず逮捕という形になっている。詳しい事情を聞いてからこれからの対処は決めるつもりだ」

「そうか」


 頑張った人間は報われるべき。

 それは暁が昔から持っている考え方であり、未だに変わらぬ価値観の1つだ。

 とりあえず、今日で淵城の組織は潰れたわけで、借金うんぬんは無くなった。あとは、国の対処次第といったところか。


「じゃあ、俺はもう帰るぜ?」

「おう、お疲れさん」


 暁は2人の横を通って家に帰ろうとすると、久我が何かを思い出したようにもう一度声をかける。


「そうだ、暁」

「ん?」

「学校生活は楽しいか?」

「急にどうしたんだよ。今まで一度もそんなこと聞いたことなかっただろ」

「なんか丸くなったみたいだから。学校が関係あるのかなってな」


 世話を焼いてくれていたとはいえ、一度もプライベートについて聞かれたことはなかった

 離れてしまったのでしっかりと表情を見ることが出来ないが、さっきと同じように微笑んでいるに違いない。


「さあな。ただまあ、退屈ではなくなったよ」


 そう言って暁は再び歩き出す。

 暁自身、自分が笑顔を浮かべていることに気づいてはいなかった。

これで三章は終わりです


次回からはアリスや桜達が活躍しますよ!

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