三章『正義と悪は紙一重』6
更新長くなって申し訳ないです
炸裂のしない徹甲弾は、そのままの形で暁の手の中に収まる。
当の本人はというと、
「ん?」
首を傾げ、バツの悪そうな表情を浮かべてフレガルを見ていた。
「あんたか?」
「私というよりは後ろの2人ですが、そうですね」
暁が訊ねたのは、未だに鳴らない爆音と建物が崩壊しなかったことについてだ。
戦車の砲撃時の音は凄まじい。近さによっては、音による圧力波で即死あるいは内臓破裂を起こす。
圧力波の代表例に衝撃波があるように、影響を受けるのは人間だけではない。基本的に半径50mは危険区域となるので、このような地下空間ならば天井が崩れてきてくるはずだ。
だが、その両方ともない。いくら改良しようが、現在の技術ではそれを可能にする性能の戦車は作れない。
と、なると魔法による振動遮断が最も可能性が高い。淵城のグループは魔法の才能がない人が集まったものだとすると、あとはフレガルがやったとしか考えられない。
「『振動遮断』なんて最上級魔法だったはずだが……いや、悪いな。ザーミットの人間は魔法をあまり得意ではないって認識だったんでな」
科学の国であるザーミットは、魔法を得意とせず、そもそもとして魔法を嫌う人間も多い。
それはこの国リベルアスでも言えることだ。
「いえいえ、その認識は間違ってはいませんよ。やったのはリベルアス出身の後ろの2人であって、私は魔法が得意ではありませんから」
魔法は好きですけどね、とフレガルは笑って付け足す。
「こいつらを守るためっていうよりはお前を守るための『振動遮断』か」
「それもありますが、こちらとしてもあまり騒ぎにはしたくないので。なんせ、悪の組織ですから」
「なるほどな!」
暁は持っていた徹甲弾を構えると、『投擲』を使ってぶん投げる。徹甲弾はさっき飛んで来た軌道をそのまま戻り──主砲の中へ入った。
ドゴンッ!!!
鉄板の貫かれる音と共に戦車の主砲が大破する。
「なんだ。もう魔法は切っちまったのか」
残念そうなセリフとは裏腹に、楽しそうな声音で暁は言った。
それを見ながらフレガルは、何かを思い出すように顎に手を当てている。
「暁……ああ、もしかして三神 暁さんですか?」
「ああ、そうだ」
「やはりそうでしたか。どうりで強いわけだ」
「俺の事を知ってんのか?」
「フレガル、あんたこいつのこと知ってるのか!?」
暁の質問に重ねるように淵城が叫ぶ。先ほどの人間離れした光景を見て固まっていたようだったが、どうやら解放されたらしい。
「淵城さんはご存じないのですか?」
「しらねぇよ!こんなやつ」
淵城は暁の行動という言動にかなりイライラきているらしく、かなり口調が荒々しくなっている。いや、最初から口調は荒かったか。
「なら知っておくべきですね。この方は三神 暁。おそらく全ての悪の組織における最大の敵です」
「正義の味方か何かっていうのか?」
「おいおい、正義の味方は勘弁してくれよ」
2人の会話を止めた暁の口から出た言葉は、謙遜ではなく訂正だった。
「俺は別に悪を裁きたいわけじゃねぇし、正義を謳いたいわけでもねぇからよ。呼んでくれるなら、人類の敵と呼んでくれ」
正しくは、悪だろうが正義だろうが邪魔なやつは潰す。
誰かを裁く気も、誰かに裁かれる気もない。先に雅に言ったように、自分が満足出来るようにやりたいことをやるだけだ。
「噂通りの方ですね。いやはや、全くもって恐れ多い」
そう言うとフレガルは護衛の2人に並ぶように、一方後ろに下がる。護衛2人はお互いに同じ身長くらいで、フレガルよりは少し低い。
「そういうわけで、私はここで失礼させていただきますね。淵城さんも頑張ってください」
それから、その場で一礼。後ろの2人も合わせてお辞儀をする。
「ちょっ……」
暁が引き止めようと口を開いた時、3人の姿が薄くなり歪んで消えた。隠密系最上級魔法『希薄』の消え方と同じだが、『希薄』が使えるのは自身のみだけだったはずだ。
後ろの2人が使えるとしても、フレガルが使えるとは思えない。
(かといって科学技術にこんなことができるか?そういえば、あのビルの壁のことを聞き忘れたなぁ……)
逃した失態も大きいが、知らないことを聞きそびれた方が暁としてはデカい。
「やれ!」
自分のミスにため息をつく暁に、淵城が集中砲火の合図を出す。
二台の戦車による砲撃、ロケットランチャー、手榴弾など多彩な武器が放たれる。
「そういや、いたな」
そんな言葉と共に、大きな爆発が起きる。淵城達は爆風を受け、倒れる人もいる中で全員がそのそこから視線は外さない。
「……やったか!?」
フラグともいえるその一言を誰かが呟いてしまう。
「いいや?」
煙の中から答えは返された。瞬間、煙は払われ、傷1つなく徹甲弾を両手に1つずつ持った悪魔が姿を現した。
「あの二発を受け止めるっていうのか……」
「当然」
本当は、体に当たって止まった徹甲弾を取っただけなのだが、勘違いしてくれているなら余計なことは言わない。
「まずはお前達からだなぁ!」
暁は一旦考えるのをやめ、目の前の奴らを無力化することにする。
(とりあえず、めんどくさい戦車から潰すか)
地下にある戦車はさっき壊したのを含めて9台。まずは『跳躍』で真ん中の1台を踏み潰す。
それからまだ壊れていない右の3台と左の4台に『投擲』で徹甲弾を投げる。磨かれた『投擲』は、戦車よりも速い速度で徹甲弾を放つ。
徹甲弾は本来通りの役割を果たし、計7台の戦車を貫通し破壊した。
(そろそろ魔力がやべぇな……)
暁は、自分の魔力総量が半分を切ったことを感じる。訓練と研究で魔力使用量を削ったとはいえ、『跳躍』と『投擲』の多用は辛い。
だが、こうしている間にも後ろから撃たれているわけで
「撃て撃て撃て!!!」
「早く次のロケットランチャー持ってこい!」
「なんで効かねぇんだよ!?」
という具合に、パニックになりながらも何とか攻撃してきている。
そんな中、淵城は他のメンバーの後ろで腕を組む。
「どうした淵城?」
暁はポケットに手を入れて、ミサイルと銃弾の猛攻撃を受けながら淵城に尋ねる。
ミサイルの爆発による煙は、暁の風によってすぐに払われる。
「なぜこれだけの武器があるのに、これだけの味方がいるのになぜ勝てない」
淵城は絶望を顔に浮かべ、周りに倒れる仲間や必死に戦う仲間を見回す。
「理由は簡単だろ」
当然といった表情で、余裕のある声で、
暁は嘲笑う。
「相手が俺だからだ」
その表情に淵城は理性も何もかもを捨て、感情を爆発させる。
「死ねぇぇぇぇ!!!」
地面に落ちているマシンガンを拾って、叫びながら暁に向かって走り出す。周りのメンバーもそれにつられてナイフなり何なりを持って暁へと総攻撃を試みる。
「そうこなくちゃなぁ!!」
暁もそれに応えるように心から楽しそうな笑顔で叫ぶ。
その夜、犯罪グループが1つ壊滅した。
文化祭が終わり、これからまた頑張っていきます!
3章は次で終わり!




