三章『正義と悪は紙一重』3
〜同日 PM 11:50 廃ビル前〜
「あのラーメン屋は失敗だったなぁ。くそ、喉が渇く……」
飛鳥との交渉を終えた暁は、面倒くさくなり家に帰ろうとしたところで桜とアリスに捕まった。
抵抗する気力もなかったので午後の授業に出てから、放課後はショッピングモールに行ったり、ラーメン屋に行くなどして時間を潰し今に至る。
「さて、そろそろ時間になるわけだが……」
辺りを見回す。廃ビルの前には空き地が設けられていて、暁はその前に立っている。
空き地には車どころか何も止まっておらず、人のいる気配がない。
これだけの大仕事をするのに、まさか徒歩で来るってことはありえないだろう。ヘリだと目立つし、相場は車といったとこだが、近くにも車が止められている様子はない。
「ここで合ってるよなぁ。政府が不確実な情報を持ってくるとは思えないが」
水嶋から受け取った紙を、ポケットから取り出して確認する。場所はやはりここを指していた。
「とりあえず見に行ってみるか。違ったら違っただしな」
暁は紙を片手にビルの空き地に足を踏み入れる。
その瞬間──持っていた紙がバラバラに切り裂かれた。
「お!」
もちろん暁は認識出来ていたので傷一つないが、紙を能力対象内にするのを忘れていた。
常に周囲に展開している風壁に入ってきたのはいずれも大型の武器の形をしていたのだが、そのものを投げられたわけではないらしい。
「防衛用の装置か?だがそれならわざわざ戻す必要はないと思うが……人の気配を感じられないからなんともいえないか。けどまあ」
この廃ビルで正しいことは分かったな、と暁は思う。
たった一歩踏み入れただけだが、さっきの攻撃は一つの身体を二桁にする回数は斬りつけてきている。
廃ビルなので明かりなんてあるわけもなく、周囲数メートルが見える程度。風を張り巡らせている範囲内にも特に人はいない。
「そうだ。あれが使えるな。まだ完全じゃないし、室内以外でつかえるか分からないが試すにはいい機会か」
両手を広げて伸ばす。
パンッ
そして、強く両手を叩いた。闇の空間に多少なりともその音が響く。
目的は、周囲の物に当たって返ってくる音波。反射した音波を聴いて、周囲の物の形と場所を把握していく。
いわゆるエコーロケーションというものだ。
「1、2と……3か。怪しいのはこの3箇所だな。いや〜やっぱ難しいなぁ。まだまだ全然分かんねぇ。それじゃあまあ」
空に向かって手を伸ばす。
「姿を現してもらおうかな!」
放つ魔法は『氷弾』
3箇所を狙った氷の弾丸は、弧を描いてそれぞれの場所へ飛ぶ。
そのうち2つからはコンクリートを砕く音が、もう1つからは何か硬いもので砕かれた音がする。
「そこか!!」
音を聞くとほぼ同時に『跳躍』を横に展開し、空中の魔方陣を踏みしめて直線的にそこに飛ぶ。
「……ツ!!」
黒いマントを纏った気配のなかった何者かは、 隠密のベールを脱ぎ捨てて回避行動をとる。
突っ込んでくる暁を避け、再び闇に溶けるように消えようとした。
「逃がすか!こっちは今日、十分なほど追いかけっこはしたんでなぁ!」
今度は手を伸ばして雷撃を放った。だが、それは何か黒いものによって遮られる。
暗いために、闇と混ざり形まで見ることができない。
「ちっ、魔法を間違えたな」
舌打ちをして周囲を見る。見失ってしまったようだ。
電気を放てば気絶させられるので楽だと判断したのだが、選択を間違えたようだ。
「魔力の消費が怖いが、人ってことがわかれば」
目を閉じて両手を合わせる。
風域を広げ、感覚を風へ。
「どこだ〜」
どんどんと風域を広げていく。相手にバレないように。周囲のものを包み込むように。
「そこ!」
再び見つけた相手に、鋭く風で攻撃を仕掛ける。
バキンッ ガキンッ
闇の中に、金属とは違う何かが風を弾く音が響く。正体がわからず弱体化出来ていないため、下級魔法の力では、砕くまで至らない。
「どうする……」
相手の前後左右から攻撃を仕掛けているが、全て対応されてしまっている。
時間をかけて相手の凌ぎを削っていっても良いのだが、なんせ時間がない。
手っ取り早いのは、自分から近づいていって捕まえることだ。そのためには相手を照らす光と一瞬で捕まえられるほど近くなければならない。
「いや、こんくらいなら出来るな。魔力もまだ半分くらいはあるし」
手を離して、風での攻撃を止めた。そして次は右手を握りしめ、
「だらぁ!」
力強く地面をぶん殴る。空き地の地面がひび割れ、あまりの勢いにところどころ盛り上がる。
そんな色々な音が聞こえてくる中、暁は布の擦れる音を聞く。
「よし、それじゃあお前!」
そこに標準を合わせ、『跳躍』を再度発動する。今回はそれだけではない。
数秒だが強い光を放つ下級魔法『閃光』を飛ぶ前に後ろに放った。
「ッ!!」
強い光は一瞬で辺りを全て明るく照らす。
黒いマントの何者かが盛り上がる地面の上に立ち、驚く姿が見える。
暁には相手を認識できればそれだけで十分。
あとは『跳躍』で距離を詰めるだけ。そんなことは光が消える前に済ませられる。
「俺より強いのをやめてもらおうか!」
黒いマントの何者かは、黒い何かを体の前に重ね防御態勢をとる。
だがもう遅い。暁に認識された今、なにをしようとも守ることは出来ない。
「おら!」
黒い何かを砕いて、相手を殴りつける。相手は無力にも吹っ飛ばされた。
一応バトルシーンですが、本番はまだまだこれからです!
お付き合いください!