二章『今日も今日とて最強です』8
更新が遅れてすいません
二章の最終話になります
「ん?ちゃんと見てたのか?」
「見てましたわよ!それでも全然分かりませんでしたわ!」
不思議そうな顔で振り向いた暁の顔を見て、アリスが叫ぶ。
アリスはずっと暁の動きを目で追っていた。だが今、月見が飛んでいく時に暁が何か動いたようには見えなかった。
「こんなのも分かんなかったのか〜」
「いいから教えて欲しいですわ!!」
「まあ、ちょっと待て」
今にも噛みついてきそうなアリスを制する。そのすぐ後、ドカンッと空から月見が降りてきた音がした。
「おかえり」
「うるさいわね。そんなことより何をしたのか教えなさい」
月見は、乱れた制服を直しながら立ち上がる。俺の方が優位に立っているはずなのだが、なぜか口調は上からだ。
「焦るなよ。別に急ぐことでもないだろ」
「早く教えなさい!」
「せっかちだなぁ。はいはい、言いますよ。俺が使ったのは『跳躍』だよ」
「…………??」
「え?『跳躍』ってあの『跳躍』ですの?」
月見は言葉の意味を理解できていないのか首を傾げ、アリスは理解した上で疑問の声を上げる。
『跳躍』──下級魔法にして魔力の消費が多いのであまり使用されない魔法の1つ。
用途の一例としては、地面に魔法陣を展開して、踏むと高く跳ぶことができる。
「けれど、『跳躍』は魔法陣の耐久力が弱くて、地面に展開してやっと自分を跳ばすことが出来る程度だったはず……」
「だからお前の脚力が俺の魔法陣の耐久力に勝てなかったわけだ」
「くっ……」
月見は唇を噛む。このままでは倒すどころか触れることさえ出来ないと気づいたのだろう。
「まだ続けるか?」
余裕そうに言う暁だが、内心はそこまで余裕はない。
先も述べたように、『跳躍』は魔力の消費が多い。暁の特訓と研究で消費魔力を減らしているとはいえ、そうホイホイ使えるものではない。
「ん?」
自分に向かって飛んできた何かを目もくれずに掴む。
暁は常に自分の周囲に風を張り、自分への攻撃を感知している。風は便利なもので、攻撃の場所、大きさ、形まで分かる。その情報だけで何かが分かるなら、もはや目視は必要ない。
特に博識な暁は、武器など自分への攻撃手段に対する知識量は多い。
今回の場合、それは銃弾だった。
「ん〜流石に見えねぇなぁ」
暁は飛んできた方を見る。場所としては校舎の屋上だろうが、流石の暁にもグラウンドからでは人影らしきものを見るのが限界だ。
だから、
「よっと」
暁はその銃弾を同じ軌道で投げ返した。使った魔法は『投擲』。これまた魔力の消費が多い下級魔法だ。
「流石に音は聞こえねぇか」
屋上から人影がいなくなったところを見ると、どこかしら近くには当たったのだろう。
すると、耳に手を当てて何かを聞いた月見が銃を持ったままの両手を挙げた。
「降参よ」
「今のは仲間だったのか」
「ええ。あの距離でスコープを撃ち抜かれたと通信が来たわ。どうやら私達はあなたの実力を見誤っていたようね」
月見は銃をしまう。
「優しい三神くんは見逃してくれるのかしら?」
「もちろんだ。だが1つだけ聞きたいことがあるんだが」
「何?」
「間違いないとは思うんだが、最後の攻撃の時に空中で跳んだのはお前の固有能力か?」
今日何度目になるか分からない驚きの表情を浮かべた月見は、諦めたように笑った。
「そんなところまでしっかり見られていたなんて……ええ、そうよ。さっきのは私の能力の『宙遊躍乱』よ。みんなは私の銃を見て、斬られるのか撃たれるのかを見るから普通は、一回だけじゃバレないものなのだけれど」
確かに、言われてみれば剣と銃を兼ね備えた剣銃では、戦闘中は月見の手元ばかりに意識が集中する。
斬られても、撃たれても関係ないからこそ、一回目で見破れたというわけだ。
「もういいかしら?」
「ああ」
「それじゃあ失礼するわ」
月見は軽くお辞儀をしてから、校舎に向かって帰っていく。
そういえば今は授業中だった。向こうも授業があるはずなので、サボってこっちに来たに違いない。
「あ、そうだ」
「?」
月見が半身で首をこちらに向けて振り返る。
「お前のお仲間に伝えてくれ。三神 暁にやられたって言えば国から金が出るってな」
月見は頷くと背を向けて、そのまま高く手を振る。なんとも男らしい返事の仕方だ。
最近知ったのだが、暁が壊したものにはある程度なら国がお金を出すらしい。基本的には自分から攻撃した場合はダメだが、今回は暁が攻撃を仕返したので対象内だろう。
「暁!」
「ん?」
歩いていく月見の背中をぼんやりと眺めていると、後ろからアリスに声をかけられる。
「さっきの魔法。無詠唱どころか何も言ってませんよね!?」
「まあ、その通りだが」
「どうやったらそんな事が出来ますの!!」
アリスは興奮して胸を隠すことも忘れ、胸を揺らして暁に詰め寄る。
皆もわかっているだろうが改めて1つだけ言っておこう──眼福だと。
「特訓と研究だな。みんなはすぐ上級魔法ばかり使うようになるけど、俺は下級魔法で十分だから」
上級魔法なんぞ使ったところで魔力を無駄に使うだけだ。
逆に『絶対勝者』における「自分より」の値が上がってしまって下級魔法で対処しきれなくなってしまう。
だから、メリットはなく、デメリットしかないので、暁は上級魔法以上は一切覚えようとはしなかったし、覚える気もなかった。
「まあ、下級魔法も使いようってこった」
「あなたにしか出来ませんわ!」
アリスの叫びがグラウンドに響き渡った。
─────
「蓮、いる?」
「いるよ」
校舎の屋上、ドアを開けた月見を出迎えたのはスナイパーライフルを持った1人の青年だった。
三津茅 蓮は、2年生で狙撃手をしていてかつ、月見の彼氏である。
制服の色は紺色、黒みを帯びた青い髪に、月見と同じ兎と月の髪留めがつけられている。
「怪我は?」
「いや、大丈夫。銃弾が当たったのはスコープだけだったから」
「ならよかったわ」
ゆっくりと近づいてくる月見の頭に三津茅は手を乗せて撫でる。
「なによ」
「悔しそうな顔してるなってね」
「彼氏面しちゃって」
「一応、彼氏なんだけど……」
そんなことを言われても頭を撫でることは止めない。止めれば怒ることはよく知っているからだ。
「次のチャンスは来週の親睦会かしらね」
「遊奈はまだ諦めてないのか」
「もちろん。無様に負けたまま終われないじゃない」
月見は三津茅から離れるとグラウンドの方に向かう。そこからはまだ授業中の暁達が見える。
自分達が負けた相手が笑って楽しそうにしているのに、不思議と怒りは湧いてこない。
圧倒的な力の差を見せつけられ、勝つイメージさえできない相手。そんな相手に出会えたことに喜びを感じているのかもしれない、と月見は思う。
「それに、うちの学年にもあんな奴をほっておけない人がたくさんいるでしょ?負けていられないわよ!」
「お手柔らかに……」
「あら?私の彼氏ならしっかり付いてきてよね」
「善処します……」
項垂れる三津茅を横に、月見は空を見る。雲の少ない晴天の空に、授業終了のチャイムが鳴り響いた。
感想、評価 良ければお願いします
今週中にもう一度投稿できるように頑張ります