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憧れの人 幼馴染の人 3

 美緒は一瞬気を失ったあと、別の場所にいた。夢の続き、はたまた幻覚だろうか? 美緒は、どこかの街の片隅で、巨大モニターに映るニュースを眺めている。


 そのニュースでは司会者とアシスタントが、何かの専門家の意見を聞いている。その専門家はまだ若い。司会者が足を組み、思わせ振りにその専門家に尋ねる。



「博士。最近の『ヒューマンバード』の増加についてどう思われますか?」



 「博士」と呼ばれた専門家は、身振り手振りを交えてやや大げさに解説する。



「ヒューマンバード。その発生の原因は、たしかには分かっていないものの、『深い嫉妬心』に関わりがあるのはたしかです」


「深い嫉妬心」



 相槌を打つ司会者のせいで博士は機嫌が良さそうだ。彼は小気味良く応える。



「ええ、そうです。ヒューマンバードは深い嫉妬心なくして発生しえなかったんです。彼らの身に起こったことはある種の悲劇だが、同時に彼らを処理するのもやむをえない」



 司会者は少し偽善めいた悲嘆を滲ませる。



「やむをえない。するとそこで『討伐隊』が必要になってくるわけですね」



 美緒はその「博士」と司会者のやり取りに魅入られていた。美緒には二人が話をしている中身の意味合いはほとんど、あるいは全く分からなかったが、「ヒューマンバード」というキーワードには惹きつけられるものがあった。

 

 博士は激しいアクションを交えて、得意げにテレビカメラを指さす。



「そうです。ほら、今あなたのいるその街にも! ヒューマンバードは生まれえるんです! ほら、だから今そこでも! 討伐隊が!」



 博士が、モニターから指差したその先を美緒が見ると、そこには羽根の生えた人間のような生命体が空を舞っている。鳥人間。まさに「ヒューマンバード」とでも形容するに相応しいような生き物だ。


 遠くからで美緒にはよく確認は出来ないが、その鳥人間に向けて弾丸が一斉に掃射されているようだ。機関銃の撃ち鳴らされる音にも似た音が聞こえる。


 その弾丸は、博士と司会者が話題にした討伐隊のものだろうか? 彼らはしきりに、鳥人間を狙っている。響く銃撃音。そのけたたましい音に、美緒は思わず耳を塞ぐ。



「ヒューマンバード? 深い嫉妬心? 何よそれ!? それより何とかしてよ! この音」



 美緒はそう甲高い声をあげると、あることに気づく。



「にしてもこの銃の音、目覚まし時計の音に似てる。目覚まし時計? 目覚まし時計? ……どわっ!」



 気が付くと美緒は、自室のベッドから転げ落ちると、目覚まし時計のベルを慌てて止めていた。


 銃撃音と思っていたのは、どうやら目覚まし時計のベルの音だったらしい。「うるさいやっちゃ」と目覚まし時計を指でひと弾きする美緒。


 美緒は夢と現実が混ざり合い、区別がつかない、不可思議な感覚にとらわれていた。

 

 朝食の間中も、美緒の頭から薙のこと、そして「ヒューマンバード」という謎の生命体のことが頭を離れない。そのせいか自制を失った美緒は食パンを丸々一斤食べ終えてしまった。


 唖然とする家族の視線を尻目に、美緒は身支度を終えると、登校する。家を出て十分弱、校舎が美緒の視線の先に見えてくると、そこへ自転車のベルが、美緒の背後から鳴り響く。


 立て続けに届くあけすけな男の子の声。



「羽々根、何だか後ろ姿が疲れてるぞ。老け込んだか?」



 美緒が「ムッ」と顔を一瞬しかめて、振り向いた先には、美緒のクラスメート、鈴鹿大海がいた。自転車通学は禁止されているのに、大海は気にする素振りさえ見せない。美緒は、瞳を閉じて眉をしかめると、俯きがちに清楚な乙女を演じてみせる。



「うるさくてよ。大海君? 自転車通学を先生方に言いつけてもよろしくて?」


「ムリムリ。羽々根。お前はどっちかつーと、俺サイドの人間なんだから。先生に媚びても信じてもらえないって」



 美緒からすれば、大海は本当に一々失礼なクラスメートだが、大海の指摘があながち外れていないところが美緒には怖い。


 美緒は思わず考え込む。「『俺サイドの人間』。自分も大海同様ドロップアウト街道まっしぐらなのだろうか」と。


 やけに真面目になって、唇を指先で触れる美緒を放っておいて、大海は自転車のスピードを上げて、滑るように学校へと向かっていく。



「それじゃあ、先行くからな!」



 大海は自転車で走り抜けていく。その瞬間、美緒はふっと思い返す。


 あの馴れ馴れしさ、ずけずけと人の心に踏み込んでくるところ。


 美緒にはどこかで覚えがあった。誰かに似てる。そう。それは薙だ。


 なぜ夢の中の住民である薙と、現実世界の大海のイメージがシンクロしたのか、美緒には分からなかったが、どちらも自分にちょっかいを出してくることには変わりない。


 美緒は、薙と大海の二人を煙たがりながらも、朝のチャイムが鳴り響く校舎へと向かった。

 

 美緒の集中力は長持ちする方ではない。四時限目。美緒の集中力は大体この辺りで途切れる。放心状態になり、教師の声にも応じなくなる。授業への関心もほぼ途絶えてくる。


 するとぼんやりとする美緒の心に薙の声が響く。



「美緒。もっと集中しろよな。それとも今すぐ眠って『こっちの世界』に来るか?」



 美緒は、薙の誘惑にはたと気づいて襟を正す。美緒は、薙が一々意識に介入してくるのは煩わしい上、彼に居眠りへまで誘われたらたまらない。


 美緒はもうひと踏ん張りと気合いを入れる。だがやはりその意思を残念にも眠気が脆くも挫く。



「あれ? あれ?」



 隣の席に座る女の子の声が、美緒から遠のいていく。



「先生、羽々根さんが眠ってます。具合が悪そうです」



 教師は仕方なさそうにクラスメートに指示を出す。



「じゃ、誰か保健室に羽々根を」



 美緒はそうして三度目の薙とのミーティングに備えるべく、睡魔に飲み込まれていった。


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