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ヒューマンバード 2

 量販店から出た美緒達三人が、空を仰ぎ見ると三体のヒューマンバードが飛んでいる。美緒達とは違う「別の誰か」を狙っているのか、彼女達に気付く様子はない。その姿は猟奇性に満ちた鷹か鷲のようで、異様な様相を呈している。美緒達が「彼ら」の視界を逃れながら歩みを進めていると、どこからか銃声が響き渡る。


 狙われたヒューマンバード三体は、軽い身のこなしで弾丸を避けると、どこかしかへ降下していく。ヒューマンバードが特殊機関と闘っているのだろうか。しばらくの間、響き渡る銃撃音と叫喚。銃声が束の間、途絶えたあと再び舞い上がってきたのは二体だけだった。


 美緒は一体ヒューマンバードが倒されたのだと気付くと、下唇を噛みしめるしかない。大海もここが「戦場」であることをあらためて自覚して、警戒を強めると、表情を引き締める。


 大海と川崎は、あのナイフだけで、狂暴なヒューマンバードと闘うつもりらしい。銃撃音から察して、弾丸は相当「彼ら」に撃ち込まれたはずだ。それで倒されたのは僅か一体。美緒は握り締めたカッターナイフを見つめる。



(私のカッターナイフよりはいいけど、頼りないことに変わりはない。一斉に襲われでもしたら)



 美緒はそう思うと思い詰める。ヒューマンバードは、無差別に人々を襲う。そう。彼らは「猛獣」でもある。だから美緒達にも容赦はしないだろう。大海と川崎のナイフで太刀打ち出来る可能性は、極端に低い。美緒は幾つもの条件を考えると暗く表情も沈む。


 その時、ナナリスの艶やかで、それでいながら深い憂いの滲んだ顔が美緒の心をよぎる。



(彼女もヒューマンバード? 深い嫉妬心にとらわれた? 誰に対して? 誰に向けて?)



 美緒が想いを巡らせていると、ふと薙が零した言葉も蘇る。



「ホントに、困った人だ」



 そう。ナナリスはやはり薙の旅の「共連れ」である、美緒に深い嫉妬心を覚えているのだろう。だがなぜナナリスがそこまで薙に執着しているのか。薙にナナリスが濃厚な愛着を持つ理由はなにか。薙とナナリス、二人の関係をまだ断定出来ない美緒には、それはまだ分からない。


 それに、このルマルデでは「絶対悪」とされているヒューマンバード。彼らでさえ好き好んで猛獣になったのではない。誰かを愛する余り、心身に変異と異常をきたし、人々を攻撃するようになった、悲しむべき存在だ。



「攻撃的機制ですよ」



 パブリックビューワーで見た若い博士の言葉が、美緒の頭を掠める。「彼ら」は追い詰められた余り、自分を傷つけるわけにも行かず、他者に矛を向けた哀れで逃げ場のない人々。「彼ら」は迫害され、自分自身をもコントロール出来ずに人類に牙を剥いたのだ。それならば、美緒がナナリスに同情した理由も彼女には理解出来た。


 だが美緒は心を定めなければならない。同情の余地があろうとも「彼ら」は、人々を襲い、美緒達をも襲おうとしているのだ。



「同情だけではどうしようもない」



 美緒は、ナナリスが自分のような小娘の言葉には、耳を傾けないだろうことを知っている。ならば答えは一つ。美緒はナナリスと向い合うしか道はないと心に決める。するとその美緒の決意と相前後するように、大海が大声をあげる。



「おい。見ろよ! 虹だ!」



 美緒達三人が視線を遠方に送ると、虹色の巨大な光の柱が、地面から空の彼方まで伸びている。美しく不可思議な光景。その虹の周囲で何が起こるのかも分からない脅威。だがそれにも関わらず大海は駆り立てられるように走り出す。見ると、ヒューマンバードも虹の柱に引き寄せられている。


 危険だと分かってはいても、美緒達は無意識に、虹へと向かって走り出していた。何か激しい衝動に突き動かされるように。虹の柱は決してヒューマンバードにも自分達にも「幸せ」をもたらしてくれるのではないと知りつつも。


 ここで美緒の記憶はまた途切れている。曖昧でお朧げなイメージの彼方に美緒の記憶は消えてしまっている。何が起こったのかだけでなく、その時の心情まで思い出した美緒は、少し憔悴していた。


 人が訪れる気配のない部屋の、ベッドに腰掛ける美緒が、自分の左手を見ると、甲に傷痕がある。大した怪我ではないが、それはヒューマンバードに美緒が襲われた証のようでもあった。美緒は、大海と川崎が同じ病室にいないのを不安に思いながらも、取り乱してはいけない、と心に決める。彼女はもう一度ベッドに腰掛け、途絶えた記憶を思い出していく。



「あの虹の近くで、何かがあったんだ。私達にも、ヒューマンバードにも」


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