憧れの人 幼馴染の人 1
気が付くと美緒は強烈にベッドの角に頭をぶつけていた。
「いったー。何だ?」
夢から覚めた美緒は呆然とする。しばらく考え込んだのち、怒りを爆発させて、シャドウボクシングを激しくしてみせる美緒。
「何なんだ! あの夢は! 何って! 腹が立つガキなんだ!」
美緒にとっては一夜限りの夢での交流と言っても、手玉に取られた事実。それが彼女には不愉快だった。
「だけど」と一度立ち止まって美緒は考える。
「それにしても妙にリアルな夢だったなぁ。まっ、いいか。一夜限りの悪夢。軽く洗い流してしまいましょう」
そうあえて畏まった口調で、気持ちを落ち着けると、美緒は朝食もそこそこに学校へと向かう。
授業中。教室で美緒はぼんやりと顎に手をついている。脳の仕組みについて担任の安藤が話をしているが、それもやけに退屈だ。
美緒が授業に関心なさげに、ぼんやりと見つめた窓の外では、澄み切った青空へ雲がゆったりと流れている。するとどこからか美緒に語りかける声が届く。
「こら、美緒。面白い授業だろ? しっかり集中しろよ」
「誰?」と美緒は辺りを見回したが、それらしき人はいない。美緒は不思議がりながら、空耳かと一人納得すると、両頬を両手でパンパンッと叩いて、少し姿勢を正す。
だが美緒は今しがた、不意に自分に呼びかけた声が、そう、あの子。「薙」に似ているのを感じ取っていた。不穏な予感。薙は夢の中だけの人ではない、という直観に近いものを感じながら。
昼休みになると、美緒は教室のゴミを焼却炉に運んでいく。美緒が白い煙をあげる焼却炉にゴミを放り込んでいると、彼女の視線の先、向かい側の渡り廊下に、彼女は釘づけになる。
そこでは三組の川崎が歩いていた。整った顔立ちの川崎。鼻筋も通り、典型的な美男子。川崎と一緒に楽しげに歩いている女の子を見て、美緒は嫉妬と憧れに近い感情を膨らませる。
美緒は川崎に見惚れて作業をしていたせいか、手からゴミ箱を滑らせて、落としてしまった。散らばるゴミ。川崎は遠のいていき、美緒はゴミを拾い上げていく。美緒はつい強く感情を吐き出す。
「何っか! 惨め!」
美緒は腹立ち紛れに、手にしたゴミを地面に投げつけようとして、すんでの所でやめた。ここで当たり散らしても仕方ない。惨めな気分に拍車がかかるだけだ。そう美緒が思うと、先に教室で美緒に語りかけた少年の声がまた響く。
「はーん。美緒はああいうタイプの男が好きなんだ。清潔感があって、人当たりがいい。なるほどね」
その声、よくよく聞いてみるとやはり聞き覚えがある。「薙」の声に近い。というより薙の声そのものだ。美緒は声の主を問い咎めてみる。
「もしかして、あなた、薙? あなたは夢にしか出て来ないんじゃないの? まさか私の頭に住みついたとか?」
考えあぐねる美緒は、思わず大声をあげる。
「ちょっと! 薙!」
誰もいない焼却炉。何も反応はない。
「ただの空耳かな? ストレス? まさか! げんちょーう!?」
そう言って美緒がゴミを拾い上げながら、両頬に両手をあて、薄気味悪がると、もう一度先の男の子の声、薙のものと思しき声が響く。
「結構、結構。優等生していて上出来、上出来。ほんじゃまた夜、会おうな」
そう聞いて、美緒は声の主が、やはり薙であったのに気づく。彼女は今一度大声をあげるしか抵抗の術はない。
「おい! 薙!」




