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プロローグ

 中性的な顔つきをしている彼、栗野時雨(くりのしぐれ)は喫茶店『狐火』の若き店主である。……ただし、この喫茶店は普通の喫茶店ではない。

 そう、この喫茶店は妖怪時々陰陽師が集まる、人間世界と妖怪世界の狭間にあり、二つの世界が一つに重ならないように作った扉を管理している場所でもある。

 この喫茶店の店主、時雨も非凡さのある男だ。とある力が覚醒したせいで、自分の意志でもないのに“成長”することを奪われ、不老不死となった。

 それに時雨は、人魚と人間……と言っても陰陽師だが、半妖でもある。


 時雨は一部を除く陰陽師が嫌いだ。

 自分の立場を守るため、幼い時雨の母親を目の前で殺害し……、自分の義父の陰陽師としての力を奪ってまでも、成り上がることしか考えていない陰陽師達が心底大嫌いだった。

 時雨は義父に助けられたから、奥底に眠る“可能性”を陰陽師に奪われることなく、狐火の元へと転移させられて、たくさんの妖怪に育てられた。

 そのためか一時期、妖怪しか信じることが出来なかった時期もある。

 が、今では数こそは多くないものの、信頼出来る人間の親友もおり、幸せに毎日を過ごしていたある日。


 そんな時雨の親友である春先紀一(はるさききいち)は慌てた様子で喫茶店に現れて、どうしたものかと事情を聞こうとキッチンから出てきた時雨を抱きしめた。

 ここまで走ってきたのか少しだけ呼吸する回数が増えているせいか、呼吸を整えるためにしばらくの間は無言のまま、……何かを喋ることはなかった。

 その間、時雨は抱きしめられたままの状態だったが、前に来た時には感じ取ることのなかった紀一の変化に気づいていたからか、営業時間中なんだけどなと内心ではそう考えながらも、大人しく抱きしめられていた。


 紀一は正真正銘の人間だ。そのため、この喫茶店に来るためには時雨の力が込められた“鍵”を持ち歩かなければ、来ることすらも不可能に近いと言うのに、今回はその“鍵”すらも持っていない状態でこの喫茶店に来ている。

 だが、“鍵”を持たずに来れるようになる方法があるのは事実である。

 望んでもいないのに代償を払い、魔力を手に入れることが出来れば、魔力を使うことによってここに来ることは可能になる。狐火に助けられてから、たくさんの妖怪達に育てられたことで力のある人をずっと見てきた時雨にはわかる。

 紀一は自分(時雨)と同じ代償を払い、魔力を手に入れてしまったんだと。


 ――いつか、紀一が魔力を手に入れることはわかっていました。だから、どんな能力と相性が良いのかもわかっていますけれど……、出来るなら覚醒して欲しくはなかったのに。

 と、そう時雨は考えていながらも本当は、同時にこうも考えていた。

 ――運良く自分と同じ代償で、同じ時をこれから過ごすことが出来る。

 そんな矛盾した思いに、時雨はそんな自分が嫌になってきながらも、未だに黙り続けた状態にいる紀一の懐に収まってから数十分が経った頃のことだった。

 紀一はボソリと呟くようにこう言う。


「……良かった、お前と同じ代償で。シグに寂しい思いをさせなくて済んだ」


 ひと安心したような声で、……何処か嬉々としているような声で、紀一がそう伝えてきたその言葉を聞いた時は時雨は嬉しくて、嬉しくて堪らなかった。



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