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ひとりぼっちは寂しい

 辺り一面翠色に塗り潰されている。そんな感じに草葉が視界に入る。

「はぁ、まさか、俺だけハブられたのか?」

 溜息しか出ない。俺、林道りんどうはるかは今、考え得る一番の可能性を思案した。

 今から少し前、弟の勇者召喚テンプレに巻き込まれた俺はここの森に移動させられた。

「んで、目の前の刀は何?」

 問題……という訳では無いが目の前には全身黒色の刀が鞘ごと地面の土に刺さっている。

「こんな世界(場所)に来たんだし、勝手に持って行っても構わないだろ」

 そう言って刀に触れる。

『はぁ、また私の力を求めに来た阿呆か』

 刀に触れた瞬間、女性の声が頭に響いた。辺りを再度見渡すが先程の景色から何もかわっていない。

「………幻聴か?」

 当然ながら、この問いに答える人はいない。

『そんな訳が無かろう。ほれ、前を見ろ。私が居るぞ』

 幻聴に言われた通り、前を見るが誰も居ない。

 ハッ!もしかして精霊!?精霊ってヤツか!

『はぁ、お前は阿呆の中の阿呆だな……』

 幻聴が呆れたような声で言う。

『私はお前が今、触れている刀だ』

「あ、これ?」

 幻聴に言われ、刀を見る。

『私をこれ呼ばわりするとは度胸があるようじゃな。私の銘は村正だぞ?その黒髪黒眼、お前は日本出身だな?』

 この良く喋る刀(自称村正)は俺が日本人という事を言い当てた。

「よく分かったな」

『私とて少しの間だが、日本に居たからな。まぁ、後々、妖刀や曰く付きなどと呼ばれた挙句、複製を作られ、この世界に追い出されたがな』

 村正のその言葉はどこかしら寂しそうだった。

「んで、俺、丸腰だからお前を持って行きたいんだけど。良いか?」

『なんだ?お前は大刀はおろか脇差すら持って居らんのか?』

 俺の時代じゃ刀なんてとうの昔に廃れてるんでな。

『ほぅ、お前の時代には我らは廃れていると』

「ん、そうだけど。俺、言ったか?」

 村正に問いかけながら俺は村正を抜こうと両手で鞘を握る。

『所有者の心を読む事など私には造作もない事だ』

 読心術使えるのか、刀って。

『いや、自然と伝わるんだ』

「そうか、不便だな。お互いに」

 そう言って村正を抜くが、刀身が長い様で一回では引き抜けなかった。抜いた時には村正の刀身は大体二メートルぐらいある。

「長いな……」

 しみじみと言うと村正は『むっ?』と発した。

『私は槍には負けたりしないぞ?』

「何の対抗意識だよ、それ」

 まぁ、長い分だけリーチはあるか。ってか、気を悪くさせる気は無かったんだけどな。

『ところでお前の名前を教えてくれ。何時迄も主をお前呼ばわりするのはどうかと思うのでな』

「あ、あぁ、わかった。遥って名前だ。いつまで世話になるかわかんねえけど。よろしくな」

『あぁ、よろしく。私としては遥が死ぬまで一生よろしくしていたいがな』

 その後、俺は村正の案内を元に近くの街に移動した。



「うわ、すっげ」

『フッ……』

 始めて街に訪れた最初の感想は村正に鼻で笑われた。

「笑わなくてもいいだろ」

 村正にそう告げて俺は再び街を見渡した。まず最初に見えるのは城だ。あの無駄に豪華で無駄に大きい門を構えている、無駄に税を高くさせるであろうあの城。まぁ、ボロクソ言うのは偏見だが。

 次に見えるのは賑わう街の様子と様々な店。誰も彼もが笑顔でいる。いい街だ。

『いい街だろう。ここは』

「そうだな」

 さて、今の俺にはゆっくりと街を見て回る余裕は無い。金だ、金がいる。

 村正、この世界での金はどうやって稼ぐんだ?

 声には出さずにそう思う。思うだけで村正には聞こえると村正が最初に言ったからな。

『ふむ、まぁ、基本的にはギルドに入るか、騎士団養成所に入るか、傭兵団に入る、が稼ぎの基本だな。店を出しているのは下級貴族、または事業が成功した行商人。一般の民が店を出すことは余り無いな。ま、小さな店はそうだな』

 なるほど、今の俺が稼げるのはギルドか傭兵団か。てか、その二つの違いはなんだ?

『ギルドと言うのは一言で言えば万屋だ』

 万屋、よろず、何でもするって事か?

『あぁ、そうだ。もしかするとだが、この言葉も遥かの時代には廃れたのか?』

 いや、廃れたっていうか一般的には使ってないな。

『……そうか。話を戻すが傭兵団は対人の戦闘を得意とするヤツらの集まりだ。要は用心棒と言う訳だ。ついでに言うと騎士団は……』

 養成所を出て、王宮に使えるんだろ?

『そうだ。遥の時代にはあるのか?』

 いや、そういったラノベ…いや、書物を読んだことがあるだけだ。

『そうか、因みにだがギルドなら真っ直ぐ行った酒場にあるぞ』

 村正にそう言われ、俺は真っ直ぐ前へすすんだ。

 次第に見えて来た酒場に入る。そこには筋肉達磨が室内一杯にいた。そしてヤツらは一斉にコッチを見る。

「………あ、スンマセン。間違えました」

 軽く会釈して酒場から出る。

『怖気付いたか……』

 そりゃ、な?

『情けない…』

 二十三にもなって情けない話だが、あの筋肉達磨共にコッチを見られた時、本気でビビった。

「お、兄ちゃんまだ居たか」

 さっきの筋肉達磨の一人が出入り口からでてきた。

「どーも」

「仕事の依頼なら受付嬢がいるところまで連れて行ってやろうか?」

 筋肉達磨はそう言って親指で中を指差した。

「それじゃ、お言葉に甘えて」

 筋肉達磨はニッコリと笑顔を見えると直ぐに中へと戻った。俺もその後を追って中に入った。そして再び一斉にコッチを見られた。こぇーよ、視線を一気に持ってる来るな。

『小心者め……』

 うるせー、ゆとりなめんな。

「どうした?早く来いよ!」

 さっきの筋肉達磨が奥のカウンターで手を振ってくる。

「いらっしゃい、依頼ならこの紙に内容と報酬を書けばいいわ」

 受付嬢は笑顔のまま水と何かの紙を出した。

「あー、スンマセン。ギルドに登録したいんすけど」

 そう言うと筋肉達磨はスキンヘッドの頭をペチッと自ら叩いてから周りを見ながら言った。

「あー、なるほどな。兄ちゃんは新参者か。ま、こぇーよな。ここの連中は……」

「ダレンさん、マスターに頼んで改修した方がいいんじゃない?」

 筋肉達磨……ダレンの言葉に受付嬢がいい事思い付いたといった笑顔で提案した。

「いや、まぁ、そうだが。見た目はあぁだが根は良いヤツらなんだよな」

 が、ダレンはその提案に乗ろうとはしない。

「じゃあ、このギルドのメンバーはみんな女装するって事で」

 受付嬢な腰に手を当て、人差し指で頬を押さえ、可愛らしく新たな提案をする

「悍ましいな、それ」

 あの厳つい筋肉達磨達がバッチリメイクでフリフリレースのドレスを………うぇ、考えただけで怖気が……

「全くだ。アイナちゃん、もうちょいマシな事を言ってくれ」

 全くだ、ダレンの言う通りだ。

『遥、登録はしないのか?』

 するよ、するから。しないと今夜の宿が無いだろ。

「はい、じゃあ、名前言ってね?後はそれだけだから」

「あ、名前はハルカ。歳は二十三。よろしく」

 受付嬢はいつの間にか黄色の紙にいろいろ書いていた。

『あの娘、やるな。私も気づかなかったな』

 意外そうに村正は言う。

「ほぉ、兄ちゃんは二十三か、なら今夜、俺と飲もうや」

「お、いいね。物凄く魅力的な誘いだけど、今の俺は一文無しでな。出来れば今夜の宿代を稼ぐ程度の仕事をしたいんだけど」

 そう言うとアイナはニッコリ笑って言った。

「なら、私のお手伝いして貰おっかな?それなら一週間ぐらいの宿代は出せるけど?」

「それは凄く助かる」

「じゃあ、こっち来て」

 アイナの紹介を快諾した俺はカウンターの方に行き、夜までずっと働いた。

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