奪ったモノ 3
これが本当に、その名を盗られた人間の言葉だろうか。
マスターとヒバの関係ははっきりとは知らないけど、多分俺たちカクテルのような関係だったのは間違いないと思った。
その証拠に今二人は生きている。
「元気みたいだよ。たまに手紙も来るし。」
「ははっ。そりゃぁ、相変わらずな親バカぶりだな。」
子供残して、姿消した意味あんのか、それ。とマスターは笑った。
さっきの顔が嘘の様、とても愛しそうに、柔らかな笑みで。
その顔が俺は好きだった。第二の父親の顔。
「うん。ほんと、ヒバらしいよ。」
マスターもね。と心の中で付け足した。
それを聞いて、マスターは残っていたカクテルに口をつけた。
また、喉仏が波打つように動いた。
「・・・なぁ、ラル。ちょっとした噂なんだがな。
オヤジの戯言だと思って流してくれ。
・・また、詐欺師に目を付け始めた奴等がいるらしい。
お前らだという確証はないが、
・・・くれぐれも気をつけてくれよ。」
その時、冷たい風が通り過ぎたのがわかった。
嫌な予感がした。
気のせいであってほしいと思うけど、
長年の勘とは嫌なもので・・・。
「うん。ありがと。」
気にせず、流すようにして答えてカクテルをいっきに飲み干した。
立ち上がって、ポケットからチップを出してカウンターの上に置く。
「おいしかったよ。ありがと。」
俺は席を立ってマスターに言った。
「ああ。良い晩酌をありがとう、ラル。
・・・・good-luck.」
扉に向かう俺の後ろからする声は、俺を落ち着かせる。
その言葉の重みは、まだ子供の俺には気づけなくて・・・。
「・・・ねぇ、マスター・・・?」
何かに不安になって、振り返る。
でも、そこにあったのは、昔から変わらないマスターの優しい笑顔。
「・・・ううん、ごめん。なんでもない。ありがと。
・・・んじゃぁ、また。」
何かが変だ。
そんな言葉を喉の奥に留めた。
「・・・・あぁ。カイ達によろしくな。」
後ろのマスターの小さな呟きは、切なく響いた扉の鈴によって消された。
。