奪ったモノ 2
「・・・ヒバの右腕、見たことあるか?」
マスターの言葉は、さらに空気を重くした。
俺の頭の中に見慣れた“あの”腕の残像が映し出される。
もう五年は前のことなのに、はっきりと覚えてる。
その右腕を俺に見せて、こう言った。
『これは俺の勲章だ。
俺が生かされてるっつー証だ。
ラル、これだけは覚えておけ。
俺たちはプロだ。どんな依頼も忠実こなすのが仕事だ。
でもな、自分や仲間を傷つけるような依頼だけは忠実にやるな。』
・・・
やっと今、この言葉の意味が分かった気がした。
幼かったからわからなかったんじゃない。
事実を知らなければ知りえない意味だった。そうだったんだ。
「あの傷・・・・」
そう、ヒバリのあの傷はマスターが着けたんだ。
分かった途端、僅かに身震いがしたのを感じた。
「そうだ。俺があいつの利き腕と・・・」
・・・“世界一の詐欺師”の称号を奪った。
微かに漂わせる殺気がそう言っていた。
詐欺師がターゲットに詐欺だと気づかれること。
それは、殺し屋がターゲットを殺さないことと同様、“死”を意味する。
あの日を境に、ふたりの名は裏の世界から姿を消した。
そして、いつしかヒバは俺たちの前からも去った。
「・・・あいつ、元気にしてるか?」
少し寂しそうな、悲しそうな声で俺に問う。
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