名もなき酒 2
“ラーク・ルーキー”
・・・それは、俺の名“ラル”のこと。
でも、それは本当の名なのかは自分でも知らない。
洒落好きのバーデンダーは随分と面白いことをする。
「・・・マスター、それじゃぁ“俺みたいな”じゃなくて“俺”じゃん。」
昔、俺を拾ってくれたのは、ヒバリという一人の有名な詐欺師だった。
どこかの小さな島国の、鳥の名前『雲雀』の英読みを洒落て“ラーク”と名づけたらしい。
そのため、今さらながら名乗ると俺も一応は名の知れた詐欺師だ。
俺には四人の仲間がいる。
通称、詐欺集団『カクテル』。
そこで俺は、「ラル」という名前になった。
まぁ、仲間のことは後で話すとしよう。
マスターはグラスを少し揺すってこう言った。
「“みたい”でいいんだよ。ラル。
お前は“名もなき”じゃない。」
「・・・。」
でも、詐欺をするたびに俺に名前が増えてくんだ。
ほら、やっぱり同じじゃんか。
心の中で少し自分を笑ってみる。
「お前には、仲間に呼んでもらえる名前がある。
・・・この世界の人間なんだ。
最高の名前だよ。」
その言葉の意味は、すぐにわかった。
名前というのは人間にとって装飾品に過ぎない。
それをブランドと呼ぶのならば、きっと鉱山からたまたま出てきた石ころと同じだ。
「マスターの名前って・・・。」
「はは。俺はこれでも情報屋だ。
今の俺にはそんな立派な名前は・・・」
「“ジン”。」
なぜ?というように目を見開くマスター。
俺はカクテルをまた一口飲むと、口元を少し吊り上げて小さな笑みを浮かべた。
「俺は詐欺師ですよ、マスター。
あなたの失った名を詐欺る(ぬすむ)なんかお手の物です。」
そう。
詐欺師・ラルにとってこんなのはお手の物だ。
俺が、マスターと初めて会ったのは数年前。
情報屋としてここをヒバリに紹介されたのがきっかけだった。
それから、仕事が終わると俺は必ずといって良いほどここに来るようになっていた。
それは俺だけでなく、他のカクテルメンバーも同じらしい。
そのせいか、マスターのことを俺達はヒバリ同様、父親のように慕っている。
いつだったかは覚えてないけど、自然に知ってしまっていたんだ。
「・・・元殺し屋、“ジン”。」
その一言によってマスターの目の色が変わった。
今までのマスターとは全く別人のような“この世界”特有のオーラを感じた。
「・・・ふっ、流石、ラーク・ルーキーだ。
最近、お前らの情報が頻繁に聞こえてくるわけだ。
・・じゃあ、俺とヒバの関係、
知ってるか・・?」
聞きなれない裏のマスターの声に、一瞬背筋がゾクッとした。
恐怖に近い感覚に襲われた。
その感情を隠し、質問に否の答えを出した。
。