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カクテル ~名もなき酒たち~  作者: 名口 慎
2/15

名もなき酒 1



カラン・・・。


店の扉に付いたベルがゆっくりと音を立てた。


「いらっしゃい。」


「どーも、マスター。」


シックでレトロ感が漂うカウンターの奥。

口髭を薄っすらと生やした少し丸い顔。

紳士的で落ち着いた雰囲気でカウンター日立つ“マスター”が、こちらを向いた。


そのがたいは、五十歳を過ぎているとは思えないくらいに、

相変わらずしっかりしている。

誰もいないカウンターの真ん中、俺はいつもの席に座った。


「今日はどうだったんだ?」


マスターはグラスをふきながら、心配そうな声で言った。

でも、相変わらず表情は変えようとしない。


「あぁ、もちろん。」


うまくいったと言う代わりに小さく口元を歪ませた。


「・・・そうか、確か今日は・・・

有名な財閥・・・だったっけか。」


その声がどこか寂しそうに感じた。

でも、俺は気づかない振りをして答える。


「うん、大企業の御曹司。」


「・・・へぇ。」


返事と同時に、コトンと目の前にグラスが置かれた。


淡いコバルトブルー色のカクテル。

小さな泡が音もなく静かに浮上する。

おそらく、マスターのオリジナルカクテルだ。


「今日のは?」


照明の光に当てると綺麗にその光を反射させた。


「“名もなきカクテル”。

お前みたいな酒さ。」


マスターは低めの声でフッと静かに笑みを浮かべた。

優しいその声は、やけに響いて聞こえた。


「“名もなき”・・・か、良い名前だね。」


俺は、グラスを口へと運び、ゆっくりと一口含んだ。


「うん、いい味。甘くもないし、辛くもない、癖になりそう・・・。」


ニコッとマスターを見ると、マスターもこちらを見て小さく笑い返してくれた。


「そうさ。一番辛い酒を隠す為にいくつかの甘い酒でカモフラージュさせてるんだ。」


マスターは同じカクテルを作り、自分でもそれを飲み出した。

壁に掛かっている時計の短針は、英数字で書かれた2より少し下を指していた。


もう一般客は訪れない時間だった。

来るとしたら、俺のような社会という世界から捨てられた裏の連中だけだろう。


「ブレンドによって、全く別の味になる。一滴でも、結構違うんだ。」


俺のグラスの隣に並べられると、確かに色付き方が少し違った。


「ホントだ。

そんなすごい酒なのに、どうして“名もなき”なわけ?」


マスターは、ふっと小さく笑みを浮かべた。


「こいつはな、いろんな名前があるからだよ。


“ブルー・スイット(青い英知)”、

“タクト(指揮者)”

、・・・それと、


“ラーク・ルーキー(いたずら坊主)”。」



>>

(※実際には存在しないカクテルの名前を使用しています。)

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