楽しみは2週間に1度
中学3年生の私―石川七海は
2週間に1度の委員会を毎回とても楽しみにしている。
だって、真田くんがいるから。
私が密かに想いを寄せている真田くん―真田彬とは、出身小学校も部活も違うしクラスだって1度も一緒になったことがない。でも委員会は2人とも3年間同じ美化委員会。
真田くんは背が高くて口数が少ないから最初は大人っぽく見えたけど、話してみると普通の男子生徒と大して変わらなかった。
私と真田くんは委員会がある度に仲良くなっているけど、なかなか告白できずにいた。真田くんはモテる方だと思うけど、本人は全く恋愛になんて興味無いって感じ。だからきっと私のことだって何とも思ってないんだろうな。
でも今日の委員会が終わった後に、もうひとつの楽しみがあった。
恋愛に興味の無い真田くんをからかってやろうと思ったんだ。
「真田くんって好きな人いるの?」って。
どうせ返ってくる言葉は「いるわけないじゃん」に決まってるけど、1度は聞いてみたかったから聞いたんだ。
でも返ってきた言葉に私は落胆した。
「いるよ、オレにだって好きな人くらい」
私たち2人だけになった静かな教室に真田くんの声が響いた。
私は今にも涙が溢れそうだったけど、何とか笑顔をつくった。
「私…応援するからね」
これが精一杯の言葉だった。
私はこれ以上真田くんの顔を見ることが出来なくて教室を飛び出した。
「石川っ」
しかしすぐに真田くんが私の腕を掴み、教室へ引き戻された。
なるべく顔を見せないようにしたが、私の目に涙が浮かんでいることが真田くんに気付かれた。
「…何で涙目なんだよ」
慌てて下を向いたが、無理矢理両手で顔を上げられて目が合い、涙が止まらなかった。
もう隠せないよ……
「私……真田くんが好きなの……さっきは…応援するとか言っちゃったけど……好きなの……真田くっ……」
最後まで言う前に、真田くんに抱きしめられた。
「えっ…!?」
「オレも好き」
本当なの?
真田くん……嬉しい…
私も真田くんの背中に腕を回す。
「…七海」
「え…」
突然“七海”と呼ばれてどうしたら良いか分からないでいると、顔を上げられて真田くんにキスされた。
「ッ……真田…くん!?」
「ダメ、名前で呼んで」
耳元で囁かれるように言われて心拍数が増えたような気がした。
気が付けば私は壁と真田くんに挟まれている状況で身動きがとれない。
名前で呼ぶなんて恥ずかしすぎる…
でも…ここから動けないし…
私は聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で言った。
「……彬…くん…」
…馴れないなあ……
彬くん…は私の頭を軽く撫でるとまたキスをしてきた。
さっきよりも長くて息が続かない…
やがて彬くんは一旦キスをやめて私を強く抱きしめた。
「…分かる?オレの気持ち、好きな子に『応援する』って言われたんだぞ……七海も入ると思って去年も今年もこの委員会にしたのに」
え、そうだったの…?
私も美化委員会に入ったのは彬くんが入ると思っていたから。1年の時はジャンケンで負けてしょうがなく美化委員に入ったけど、彬くんがいてすごく楽しかったから。
「嬉しい…私もだよ」
そう言ったら彬くんの顔が真っ赤になったけど、それを見て私が笑ったのは秘密…(笑)
今までは2週間に1度の楽しみだったけど、この日からは毎日が楽しみになった。