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桜の花よ

作者: 荻雅 康一

 ああ、桜よ!


 そのたった一週間で散り去り、僅かばかりなその輝きを。


 薄紅の色合いを、幾百の瞳に焼き付けていく桜の花よ!


 如何にその鮮やかさを刻みつけたか。


 その美しさ、優美さを身につけたのか。

 淫美な香りに震わせる激情の愛おしさよ。

 列島に咲き荒れる薄紅の花弁の嵐よ。


 ああ、どうしてこんなにも狂おしいものなのか。


 一年ひととせの周期は、あまりにも長くあまりにも切ない。


 幾年幾年、時を刻めど辛く溌剌とする夏の香りを越え、純、とする哀愁の秋を越え、侘しく耐える冬を越え、その美しき一週間を目指し生きようぞ!


 かの記憶は、目が醒めるような瑞々しく若きを称えるうなじの記憶よ。

 結い上げ、纏まる黒き髪の感動は、今も目を閉じれば、浮かび上がる。

 さもすれば、その映像は愛おしく恋しくものになるものよ。


 求めた春は、年々強く思い浮かぼう。あの朝日を拝むは、希望の桜よ。

 強く焼き付く、焦がれる枝振りよ。


 桜よ、誇れ。桜よ、乱れよ。


 古き時を刻み、その八重の花弁を開き切れ。

 望まぬ雨を越えて行け。

 僅かばかりの栄華のために、僅かばかりの情念のために、みつる花を燃やしておくれ。


 おもいは届かぬ、年月の果て。悠久までも咲き誇れ。


 もう一度、もう一度、あの姿を見せてくれ。

 花嵐は、爛漫に。


 忘れ形見の横顔に、黒く立派な睫毛に想う。

 瞳に映る桜色。咲き溢れる樹木の道を。

 薄紅色の土手の上、絨毯映える舞台には、鮮やか見える桜陰。


 ああ、美しき春の日よ!



 花筏はないかだにはまだ早い。名残を見せて、楽しませてくれ。


 月夜に満ちる桜の花よ。その怪しげな光の星よ。

 ぼんやり映る花の雲。妖艶見える花篝(はなかがり)

 歩く姿は天女のようで、震える心は、童心憶え。

 舞う花びらが、羽衣みたく、夢現の境の中ようで浮き立つ足取り、初恋の鼓動。


 逃げ水如く、霞んで追わず。留まる想いは、鉛の味で。見たくはないと、血の涙を流す。


 桜を想う。花の名残は、投げ打つほどに沈み込み、荒波起こる愛おしさ。


 さぁ、望まれよう。


 想わぬ限らぬ、果てを求めん、花の浮き橋空まで続け。

 (こぼ)れ桜に君を想おう。


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