その後
Nightmares(不可触悪魔ズ:utb 4th)の後日談です。そちらを見ないと分かりません。
愛佳と悠馬がイル・モンド・ディ・ニエンテに戻ってきたとき、そこは愛佳の部屋だった。悠馬は白だらけの部屋に圧倒されながらも、愛佳の手前表情に出さないようにする。そんな同級生を微笑ましく思いながら、愛佳は力を使って菓子を出し歓迎した。
「飲み物はいいかな?」
「コーラある?」
「なんでも出せるさ。僕はチョコレート・ティーでいいか」
「簡単に済ませるには大胆な飲み物だな」
「そうかい」
てきとうに流し、愛佳はそれを口に含んだ。口の中で甘く溶けていく。久しぶりの〝旅行〟に気分がよくなり、今は頗る落ち込むための時間だ。
愛佳は、愛情が分からない。人と接していて、感情の起伏が徐々に薄れていくことを恐れ、久しぶりに会った人間と別れた後はわざと落ち込んでいる。そうすれば、その感情が本当になるのではないかと思って。
悠馬はそんな愛佳の様子を見て、気遣いまた会える、と言った。本当に落ち込んだのだと、勘違いしたのだ。
「悠馬」
「ん?」
「楽しかったかい?」
「んー、……まあ、色々あったけど、楽しかったぜ」
悠馬は頭を軽く掻いて、笑みを見せて言った。シナガワと飽浦も、悠馬を弄って楽しんでいたのだろう。愛佳は想像し、少し笑った。
だが、きっとこれは嘘だ。すぐに消えてしまう、つかの間の幸せ。憎いはずの神様が用意した、快楽の一種なのだ。
「そう。―――――ねえ」
「何?」
「何が、楽しかったんだい?」
愛佳がそう言うと、悠馬は目を見開いて驚くが、その後視線を逸らし、そっと呟いた。
「何だっけ……?」
悩む少年に、もういいと遮った少女の表情は、決していいものではなかった。
つかの間の幸せは、不幸が飲み込んでしまうのだ。知っている。ずっと、経験してきたのだから。あの二人のことも、彼は神によって消されてしまった。
自分が覚えているのは、きっとあの快楽の神に見逃されているからだろう。
「そう言えば悠馬、僕を名前で呼んでいただろう」
「え、いつ?」
「――覚えてないのなら、いいさ。ただ、僕も愛佳でいいと言っている」
「ああ、って、え!? まじで!」
飛び上がりながら喜ぶ彼に、愛佳は小さく微笑んだ。その眼差しに、いつか思い出さないと、期待を乗せながら。
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