第七話
ヒカリタケの淡い光を浴びつつしばらく歩くと、また坑道が狭くなって行く。
「ねぇ、コーネフ。本当に大丈夫なんでしょうね?」
アニスは不安げに僕の腕を掴めば、そう僕に尋ねた。
「大丈夫だって。心配性だなぁ。あ、ほら、遠くに光が見えてきただろう?」
遠くに白い光が差し込んでいる。アニスも歩き疲れていて相当にへばっているみたいだけど、そんな事よりも坑道から早く抜け出したいらしい。休憩しようか?と聞いたけれど、大丈夫だから早くと、せかされてしまった。
坑道から出ると其処は猫の額程の川原。上を見上げると高い崖が切り立っていて、狭い空が見える。川の流れだけがその殺風景な光景に彩りを与えていた。川原には古い舟が何艘か置いてある。昔、父から聞いた話によれば150年程前にここがずっと昔に坑道として利用されていた頃はここから隣国のアウグスト王国まで鉱石を舟に乗せて運んだりしたんだそうだ。
川に舟を浮かべる。船は大分昔のもののようだけれど丈夫に出来てるようで、僕とアニスは協力して、その船を川沿いへと移動させた。
ズボンの裾をまくって川へ足をつける。冷たい流れが僕の皮膚を通して身体へと伝わってきた。ほんと冬じゃなくてよかったよ。
「さぁ、アニス乗って。」
舟の半分を川の中へと引き込むとそうアニスへと呼びかけた。
「乗った瞬間に船底が破れる…なんて事にならないでしょうね。」
アニスは不安そうな顔をしつつ、船へと乗り込む。船底は僅かに軋んだが、アニスの身体を受け止めた。
「アニスは心配性だなぁ。それとも最近体重でも増えた??」
アニスはむっとした表情をして僕の頭をオールで叩く。
「無駄口叩かないの。ほら、さっさと船を引っ張って。」
はいはい。船を引っ張るとガリガリガリと嫌な音をたてた後、すっと水面に浮かんだ。舟に飛び乗ると船は川を下りはじめる。川を下るだけだから、オールで漕ぐ必要はないけれど、舵は取る必要がある。はじめは慣れなくてアニスにも結構どやされたりもしたけれど、慣れてしまえばこっちのもの。1時間たつ頃には、船をすっかり自分の手足のように操れるようになっていた。
「静かだね…」
アニスは腕を川へとつけ、その流れを見つめながら呟いた。
「うん…」
周りから聞こえる音と言えば崖に根付いた木々のざわめきと鳥の声、川の流れ。そしてアニスの声。
「私達、これからどうなっちゃうんだろうね。国を捨てて逃げて、向こうでちゃんと暮らしていけるのかな?」
そんな事、僕には解らない。でも僕達には選択の余地なんか最初から無かった。
「不安なの?今、色々考えたって仕方ないよ。今から川を上って皇国へ帰るなんて事も不可能だからね。だから今は僕らができる最大限の事をしようよ。」
「うん・・・。」
アニスは小さく頷く。次の瞬間船が急にひっくり返った。
「アニス!!!」
必死に水面から顔を出して彼女を呼ぶけど返事はない。気づかないうちに川の流れも急になっていたようだ。くそっ、何でこんな事に。
もう波立つ川の音しか聞こえない。僕の視界には黒いカーテンがゆっくりとかかって行き、何も考えられなくなってしまった。
少し話のテンポが遅いと考える事もありますが、少し長い話になると思うので勘弁してやって下さい。




