第六話
外は真っ暗だ。まぁその方が逃げるのは都合がいいけど。家を出て暫く歩くと刈り入れの終わった畑が広がっていて、その後はただ平原だけが広がる。月あかりに照らされて地面に映るのは二人の影だけ。ザッザッザッと草を踏む音だけが辺りに響いた。そして僕は急に足を止める。
「アニス、君はいつまでそうやってるの??」
厳しい顔を彼女に向ければ彼女の服をグイッと掴み持ち上げる。彼女の首はクタリと横に倒れた。
「君だってもう一度家族に会いたいだろう?だったら今は頑張って逃げ延びるしかないじゃないか!」
彼女の頭を両手で支えれば彼女の目を見つめる。彼女と一瞬目が会うも彼女の瞳から再び僕の顔は消えていった。一瞬見えた彼女の瞳は絶望と虚無の混合色に彩られていた。
「絶対に、逃げ延びて新しい地で僕らの日常を取り戻すんだ。先は見えないけど歩みを止めたって何も見えてこないよ。」
「うん…」
アニスは蚊の鳴くような声でそう呟いた。まだ元気はないけど、何とかまともに歩くくらいはしてくれるようになったので、少し安心した。
洞窟にたどり着いた頃にはもうクタクタだった。地平線からの光は空に浮かぶ雲を照らして空を真っ赤に染めている。
この辺りはずっと昔に父と来た頃と全然変わっていない。まるで人間のような形の岩の傍ら、その坑道はある。
「ほんとに…ここに入るのコーネフ。」
坑道に入ろうとするとアニスが不安げにそう言った。
「なんだ、もしかして怖いのかい?アニス?」
「そ、そんな事ないけど。」
そういえばアニスは子供の時から暗い所が苦手だったな。アニスは子供の時は女の子とお人形ごっこと言うよりも、むしろ男の子と冒険ごっこに出かけるようなタイプだった。
彼女は木登りも棒切れを使ったチャンバラごっこも得意だったけど、暗い廃屋に入るのだけは本当に嫌がって無理やりその中に彼女を入れようとした僕は力いっぱいグーで殴られた事がある。
「大丈夫だよ。この坑道はほとんど一本道だから迷う事もないし、それにここはいくら暗い場所が嫌いな君でも気に入ると思うよ。」
「どういう意味?」
「まぁ、ついてきなよ。」
そう言って彼女の手を引くと、坑道の中へ入って行く。狭い坑道の中を歩いて行くと急に広い空間に出る。
「わぁ〜…すっごぉい」
今まで不安そうな表情をしていた彼女は目を大きく開くと辺りを見渡し興奮した様子でそう言った。
「だから、気に入るって言ったろう? しかしこうやって久々に来ると圧倒されるなぁ。」
この広い空間には強い光を放つヒカリタケが自生していて、まるで星空のように見える。彼女は感嘆の声を上げてそれに魅入っていた。これで少しは彼女の気が晴れてくれればよいのだけど。
もう少し書くつもりだったのですが、いい所でうまく切れそうだったので区切りました;;




