表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
想勇伝  作者: 山猿
11/12

第十一話

 退屈な草原が続いている。ユフラナとアニスは肩を寄せ合ってスースーと寝息をたてていた。ジャックは自分の大型の折りたたみ式のボウガンに鼻歌を歌いつつ油を注し、伍長は兵法か何かの書かれた本に目を走らせている。

 「あのぉ…、首都まであとどのくらいかかりますかねぇ?」

 「あと一日といったトコですかね」

 あまりにも暇で僕が伍長へそう訊ねると伍長は本に目を走らせたまま答える。

 「うまくいけば…の話だけど。」

 ジャックがニヤリと笑ってそう言うと伍長がジャックの頭を手の平で叩く。

 「不吉な事を言うんじゃない。ったく縁起でもない。」

 伍長は小さくため息をついて叩いた方の手を撫でた。

 「でも、伍長。この辺りだって弱いとはいえグラスウルフの群れが襲ってくる事もあるし、油断できないスよ。」

 ジャックは頭を撫でながら不満気に文句をいうと、馬車の幌へ凭れかかる。

 「そういえば、ユフラナさんとジャックさんは皆さん互いに名前で呼んでるのに、なんで伍長さんだけは階級で呼んでるんですか?」

 「ああ、それは伍長が自分のチェロチェロって名前が恥ずかしいからって、普段は階級で呼ぶように…むぐっ、むぐぐぐ。」

 伍長がジャックの口に手を当てて、寄りかかるとナイフを首元につきつけた。

 「ジャックぅ?あんまり余計な事を言うんじゃないよぉ?いいコだからね??」

 「ごっ伍長っ。危ない…危ないですってっ。」

 ジャックはひきつり笑いを浮かべ伍長の手をペシペシと叩く。結構怖い人なんだな、この人。そう思っていると馬車の後ろから、ものすごい砂埃をあげて何かの物体が近づいてきた。

 砂埃をあげているのは黒い体毛に包まれた物体。緑色の目が五つあり印象としては毛むくじゃらの巨大な蜘蛛。高さは6mくらいはあるだろうか。

 「あっ、姉さんっ。マズローですっ。」

 ジャックが慌てたような声で叫ぶ。

 「ちっ、わかってるよ。おい御者ぁ!スピードあげろぉ。追いつかれるぞ!」

 伍長が顔を赤くして大声で怒鳴る。

 「そんな事を言ったって馬だって随分と疲れてるんだ、これ以上スピードなんてでねえよ!」

 御者も同じくどなり返す。

 「おいユフラナぁ!いつまで寝ている?戦闘だぞ!!」

 そう言ってこれだけ馬車内が騒がしくてもアニスにもたれスースーと寝息を立てているユフラナに伍長が蹴りを入れるとユフラナは眉を八の字にして眠そうに目を擦った。

 「いったいなぁ…もうついたんですかぁ??」

 「馬鹿っ!敵だ配置につけ!」

 そう伍長が叫んだ瞬間馬車が横倒しになった。目の前が真っ暗になり、馬の悲鳴とみんなの悲鳴が喧騒のコーラスを奏でている。

気づくと僕の顔はアニスの貧相な胸に押し付けられていた。足ににぶい痛みが走る。僕の足は木箱に潰されていて身動きすらとれない。

 「おい、くたばってない奴は自分の名前を言え!!!」

 そう伍長が怒鳴る。

 「ジャック健在っス」

 「ユフラナ健在です…。」

 呻き声とともに崩れるような物音がした。

 「ジャックと私は外の状況を確認。ユフラナは自分の装備品を捜索しろ。魔法が使えても丸腰じゃやられるぞ。コーネフさんアニスさん聞こえますか?非武装の二人はそこでおとなしくしておいてください。」

 僕らの上に覆い被さっていた幌が引き剥がされる厚い日差しが照りつけてそのまぶしさに思わず目を細めた。

 マズローと呼ばれた化け物は黒い毛に包まれた触手で幌を口へと運んでもぐもぐとほお張っている。

 「う…うん…キャー!」

 アニスは目覚めて、そう呻き声をあげた後、悲鳴をあげ喚きながら僕の顔を引っかき殴る。身動きがとれないから動くことすらできやしない。

 「ちょ、ちょっとアニス!!いくら殴っても僕は荷物に潰されて動けないんだったら!」

 必死の声でそう叫ぶと、ようやく彼女は手を止めた。

 「もう、そんなトコにいるあなたが悪いんだからね。それより目がさめたらこの様は一体どうなってるの。コーネフ。」

 そういいながら彼女は自分の胸と僕の顔の間に手を入れて僕の首をグイと引き上げる。変な体勢になって首が痛い…。

 「今から音響弾を投げて奴の気をそらすジャックは触手の届かない場所からやつの目を狙撃しろ。」

 伍長の叫び声が聞こえる。が、このポジションが彼らが何をしているのか検討がつかない。

 「ユフラナぁ!装備が見つかったなら長槍で奴を牽制しつつ使える最高レベルの炎魔法の詠唱をはじめろ!撃つ時には合図を忘れるなよ。よし音響弾を投げた耳を塞げ!!」

 しばらくの間が開いた後、ものすごい音があたりを走り抜ける。キーンという音が耳の奥でうるさいくらいに鳴り続けている。

 巨大な黒い毛糸球のようなモンスターは触手をくねくねと動かしている。その毛糸玉に矢が次々と突き刺さって行く。

 「ジャック、全然目に当たってないぞ!もっと落ち着いて狙え!」

 「そんな事いったって姉さん!あっ!姉さん危ない!!」

 そう二人が怒鳴るような声の掛け声が聞こえたと思ったら、伍長に黒い毛の生えた触手がクルクルと巻きついて、伍長の体を宙へと攫っていった。


仕事がかなり忙しい感じですが少しづつでもがんばって連載していこうと思ってますので、気長に待っていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ