第十話
「で、あんたらの名前は?」
彼女は指で万年筆をくるくると回しつつ首を傾ける。
「えっと、僕はコーネル・ゼフィレッリ」
「私はアニス・グッドマンです。」
僕たちがそう答えると伍長とジャックは目を大きくして僕らの方へ視線を向け、声を揃えた。
「ゼフィレッリだって!?」
ユフラナだけは特に大きなリアクションもせずに「へー、コーネルさんとアニスさんとおっしゃるんですかぁ。よろしくおねがいしますねぇ。」とにこにこ笑ってるだけだったけど。
「どうしたんですか?」
僕らが二人のリアクションに困惑してると、伍長がため息をつく。代わってジャックが僕らに説明した。
「ゼフィレッリっていうのは、カマラに住む司教様の血筋しか名乗っちゃいけない姓なんだよ。」
「どういうことですか?」
アニスがそう訊ね、ジャックが説明しかけると伍長がそれを遮った。
「ジャック、後は私が説明するから、お前は作業を続けろ。」
ジャックは肩を竦めると、僕ら同様に状況が飲み込めていないらしいユフラナに説明をせがまれ小声でそれに答えていた。
「つまりな、あんたが司教様の血筋の可能性が高いって事さ。もしかして、あんたカマラに知り合いか何かいないか?」
「ええ、おじさんがいるらしいんです。最も僕は会った事すらないんですけどね。今も父に其処へ行けと頼まれたんです。」
「やっぱりか…。」
伍長は額を押さえた。そうして伍長はしばらく黙って何か考え込んだ。沈黙が続いてアニスはかなり居心地が悪そう。
「あの…それで私達は、どうなるんでしょうか?」
アニスが限界を超えて沈黙を破ると、伍長は顔を上げた。
「ん…ああ…すまない。いや、すみません。そうだな、司教の血筋である可能性が出てきた以上、私の上司に報告をしなきゃならない。悪いですが、面倒はおかけしませんので本国まで、ご同行いただきますですよ。」
伍長がそういい終わると横からジャックが口を挟む。
「あー、駄目ですよ伍長。久しぶりに敬語や丁寧語使ったから、言葉めちゃくちゃじゃないスか。」
「うるさいぞジャック。作業に戻れっ!」
伍長は恥ずかしさを隠すようにジャックを叱り飛ばすと、バツの悪そうに頬を掻いた。
「いや、そんな改まらなくたっていいですよ。僕だって司教だのなんだの訳が解らないし、丁寧な言葉を使われたって伍長さんが使いにくかったらしょうがないですから。」
僕が苦笑していうと、伍長は顔を赤くして「申し訳ない」と俯いた。
それから、僕はいままでの事情を洗いざらい話した。別に言わなくてもバレないとは思ったけど、あとで何か発覚した時に気まずいからね。
「隊長、出発の準備終わりました。隊商の責任者の方がタイムスケジュールが遅れてるんだからさっさと乗ってくれとのことです。」
ユフラナは敬礼してそう言うと、重そうな装備類を担ぐ。あんなに細い身体の何処にあんな力があるんだろ。僕らは隊商の小さな馬車に乗り込むと、一路アウグスト王国の首都であるラザを目指した。
こちらの都合で忙しく更新する暇が中々ありませんでした。来月半ばまでは忙しいのですががんばってチョコチョコは更新していこうと考えています。




