第一話
初めてなので読み辛い部分もあるとは思いますがよろしくお願いします
「起きてったら、もう朝だよ。」
瞼を開けると白色のレースのオーロラが眼前に舞った。それと同時に風が開かれた窓から部屋の中へと入ってきて、澱んだ空気を浄化していく。
僕が小さく呻き声をあげて枕を抱きしめると布団を剥ぎ取られてボクの身は冷たい空気に晒される。
「ったっくもう…。寒いじゃないか。」
なさけない声で姉に抗議しつつ僕は朝のまどろみと柔らかなマットレスの海から身を起せば手を天井に向かって腕を伸ばして関節を解した。
眼を擦りつつ、僕の目の前で仁王立ちして僕を睨んでいる姉さんに時間を訪ねると、彼女はいっそう不満げな表情を僕へ向けた。
「もう9時をまわってるわ!学校が休みだからってのんびりしすぎなんじゃないの?さぁ、さっさと起きて朝ごはんを食べて頂戴。いつまでたっても片付けらんないでしょ。」
そう言った後に、わざとらしく彼女は大きくため息をつくと、部屋から出て行き乱暴に扉を閉めた。扉を閉めた時の余りの音の大きさに僕は身体をビクリと震わせると、肩を竦めてモップ付きのスリッパに足を突っ込んだ。
階段を下りていくと食器を洗っている姉の姿が見えた。僕が席へとつこうとすると、「手は洗ったの?小さい時からあなたは何度言っても…。」と説教が始まりかけたので、すぐに手を洗いに水が溜めてある桶のある家の裏へと向かう。外へ出ても彼女がまだ何か言ってる声が聞こえる。クドクドクド、こうなったらホント長いんだよな。
手を洗い改めて席につくと父がいないのに気づいて「父さんは?」と彼女に尋ねる。 彼女は僕に背を向け食器を洗いながら「早朝に何かバタバタ出てったみたいよ?たぶん新しい鉱脈でも出たんじゃない。」と素っ気なく言った。僕の父親は鉱山の上級管理職で早朝に出て行く事は滅多にない。暇だったし、何があったのか興味もあったので、一刻も早く出かける為に急いで朝食をかきこもうとしたんだけど彼女の味付けの濃い事。すべてを胃に納めるのに随分と時間がかかってしまった。
寝巻きを着替えて外に出て歩き始めると、荷台を積んだ馬車が後ろから近づいてくる。後ろを振り向くとすぐに解った。あんなくたびれた馬を今でもコキ使ってるのはルドルフじいさんしかいない。 これで馬車の運賃をいくらか節約できる。郊外にある僕の家は鉱山までは遠いのでかかる運賃も馬鹿にならない。
「やぁ、それ鉱山までの届けものだろ?? ついでに僕も鉱山まで乗せてってよ。」
ルドルフじいさんは僕を一瞥すると「ゼフィレッリのセガレか…乗りな。」と一言。止めるどころか、速度も落とさずに荷台を指で指す。まぁ、主人と同様に荷台を引いてる馬も老いぼれて大したスピードも出ないから容易に乗れるんだけどね。
荷台に腰掛けて、流れていく麦畑を眺めると、所々で刈り入れに精を出す人々の姿が見える。そうしていると、だんだんと瞼のカーテンが僕の視界を遮って行く。気づいたら僕はいつの間にか寝入ってしまっていた。
不意に身体が倒れて衝撃で目を覚まして眼をあけると目の前には色あせた荷台の床が見えた。ルドルフのじいさんは僕の身体を押して退かすと、さっさと荷台の荷物を下ろし始めたようだ。借りを返すつもりで下ろすのを手伝う。彼は荷物をすべて下ろすと、礼を言う僕を見もせずに行ってしまった。まあ、ルドルフのじいさんはいつもこんな感じだから笑って礼を返されたら逆にジンマシンが出るけどね。
鉱山の事務所にいくと、アニスの母親で事務員のセリスさんがいて、部屋の端にある椅子では眼鏡をかけて幼馴染の赤毛のアニスが額に皺を寄せて分厚い本とにらめっこをしていた。
「あらコーネフちゃん、珍しいわね?一体どうしたの?」
僕に気づいたセリスさんが、心が晴れやかになるような笑みを浮かべて僕に尋ねた。
「いや、父に会いにきたんですが、父は何処にいますか??」
そういうと彼女は困ったような顔をして顔をしかめた。
「うーん…今、会議室で会議に出席しているのだけれど…。いつ終わるかは私にもちょっと解らないわ。」
彼女が悪い訳でもないのに、そうとてもすまなさそうに言った。
「では、父が帰ってくるまで待ちます。どうせ暇で来ただけですから。」
そう言って、僕はアニスの隣の椅子に腰を下ろした。
「やぁ、アニス。元気?」
いつまでたっても、まるで僕が存在してないように振舞う彼女に流石に業を煮やして、そう話かければ、彼女は眼鏡のズレを治し眼を本から僕の顔へと向けた。
「ヒトが本を読んでるのに、うるさいわねぇ。 少なくとも、あなたがくる前までは元気だったわ。」
母親と違って彼女には、まるで愛想と言うものがない。僕がもし、彼女は橋から拾われた子だと聞いたら、まず疑わないだろう。やさしいセリスさんの子供とはとても思えない。
「そういえばコーネフ。宿題は終わったの?まぁ、あなたの事だから、まだだとは思うけど、この前みたいに見せてなんかあげないんだからね。」
この街は農業と鉱山で成り立っていて、刈り入れの時期は農家の子は家の仕事を手伝わないといけないので、学校が2週間程休みになるのだ。僕やアニスは親を手伝う必要が無いので、宿題をどっさり出される。その休みが、あと三日程で終わるのだが、まだ僕は完全に終わらせてはいなかった。
「そんな事、言わないでよアニスだけが頼りなんだからさ。」
僕は苦笑し手を合わせて、お願いすると、彼女は僕を一瞥して再び目を本に向けた。僕が小さくため息をつくと、扉を開けて父が入ってきた。
「なんだ来てたのか?」
父は入ってくると、そう僕に声をかけた。早朝から働いていただけあって大分疲れている様子だ。横のアニスは本から目を離すと、「こんにちは。おじ様。」と一言、頭を下げた。
「姉さんに聞いたら日の出前に出勤したようだけど何かあったの?」
そう父に尋ねると父は肩を竦めて、目を泳がせつつ水差しから水をグラスに入れた。
「実は、他言しないように言われてるから答える訳にはいかないんだ。まぁ事故って訳じゃないから安心してくれ。」
父は困ったような笑みを浮かべてそう言うと、グラスの中の水を一気に喉に流し込んだ。
結局、しつこく聞いて父を困らせるわけにもいかないし、特にする事もないので適当に雑談を交わした後、僕は事務所から出た。ふと鉱山の入り口を見ると皇国の役人が鉱山の中へと入って行くのが見えた。鉱山周辺に広がるサウスサイドの町は大きいんだけど皇国の役人様が来る事なんて珍しかった。大規模な金脈でも見つかったのかな、なんて僕は気楽に考えていたのだけど、それが違う事が解ったのは後になっての事だった。
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