エピローグ
大学構内のカフェテラス。
春の日差しの心地好い昼下がり。
私は書きかけの歌詞カードを片手に、のんびりと紅茶を飲んでいた。
高校を卒業して、私は音楽大学へと進んだ。
大学へ行きたかった理由は、もちろん歌を続けるためでもあったけど、「歌う」ということをもっと真剣に考えてみたかったから。
キャンパスライフやアルバイトを楽しみながら、オリジナル曲の作成に明け暮れる……。
それは、以前の私からはとても想像できない、前向きで充実した日々。
「それまで」の私は、自分の生い立ちにコンプレックスを持っていて、とても臆病だった。
ずっと、一人ぼっちだと思い込んで生きてきた。
そんな私を変えた、あの歌。
遠い思い出の中に忘れていた、大切なきっかけ。
舞台の上から歌を通して送られた、温かいメッセージ。
他人と違っていても決して一人じゃない、ということ。
他人と違っていても人と人は繋がっている、ということ。
あの時、私の心を満たしてくれた想い……。
そんな歌を歌いたくて、そんな想いを届けたくて、私は今も歌を続けている。
大事なのは、何のために歌っているのか。
何を表現したくて、何を伝えたくて歌っているのか。
一人ぼっちだった私だから分かる、人と繋がることの喜び。
それを気付かせてくれたあの歌との出会いと再会は、偶然じゃなかったのかもしれない。
臆病だった私。
一人ぼっちだと思い込んでいた私。
歌に戸惑いを覚えた日もある。
悩んで眠れなかった夜もある。
怖くて逃げ出そうとした日々がある。
それでも私は、過去を忘れたいとは思わない。
「それまで」の私も、今の私にとっては大きな糧になっているから。
自分の居場所は、自分で見つけるもの。
ずっと、自分のために歌を歌ってきた私だけど。
今は、それよりもずっと大事なものが見え始めてきているから。
今はただ、自分のできること。
自分にしかできないことを、一つずつ積み重ねていくだけ……。
今、私には一つの夢がある。
それは努力では叶わない、儚い理想なのかもしれないけど。
生涯を懸けて叶えたい夢がある。
それは、この町で歌を歌い継いでいくこと。
忙しく、流れの速い現代社会。
飽きられることのない歌を歌い継いでいくことは、困難なことなのかもしれない。
でも、私は思う。
歌う時代を選ばず。
歌う場所を選ばず。
伝える言葉を選ばず。
聞く人を選ばない。
そんな歌手がいたなら、きっと歌い継いでいけるはずだ、と。
だから私は障害を、人種を、宗教を、ありとあらゆる個性を差別せず。
全ての人のために、歌うことができる人になりたい。
この町で教えられた、人と人との繋がりを伝えていきたい。
他人と違っていても、決して一人じゃないって伝えていきたい。
いつまでも変わらずにこの町と、人々が温かくあってほしいから……。
私は自作の歌の歌詞を書き終えると、ゆっくりと立ち上がる。
これから先、道の険しいこともあるかもしれない。
辛くて、逃げ出したくなることもあるかもしれない。
けれど、私は諦めない。
もしも辛くなったら、きっといつでも思い出すだろう。
「それまで」の私を変えた、そんな町を。
fin
長文、お付き合いくださりありがとうございました。
趣味でちまちま書いているので、かなりの時間が掛かってしまいました。
振り返ってみれば、この物語を書き始めたのが約4年前…。
デリケートな内容を多く含んでいたので、悩みながら書いていたのを思い出します。
何度も挫折しかけましたが、無事に完結することができました。
このまま腐らせておくのももったいなかったので、公開に踏み切りました。
ちなみに、「きっかけ(ターニング)」となった歌のタイトルですが、実在する歌で、本文中にさりげなく書かれています。
内容も文章も稚拙ですが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。




