卒業したら婚約する予定の幼馴染みが会わせたい人がいると言ってきました
「エリザ様、最近、殿下が編入してきた元平民の男爵令嬢と懇意にされているという噂、お聞きになりました?」
貴族の子弟教育のための学園、王立カンパール学園の高位貴族専用テラス席でのお茶会にてある令嬢の発言に、わたくしは微笑みを崩さないように気をつけて答える。
「殿下は学園在籍中に勉学のため様々な方と交流されていると伺っていますわ。」
成人前の子女のお茶会とはいえ、隙を見せれば噂という形で足を掬われる。他者の前で表情を露わにする時点で負けなのだ。だからといって、知らないというのは情報把握力が問われるので、知らないフリをすることもできない。
「件の令嬢とは勉学仲間というよりも、何と言うか距離が近すぎるとか…その恋愛関係にあるのではという噂もあるようですの。王族の伴侶となるにはやはり相応しい身分が必要、つまり筆頭公爵家令嬢、エリザ様において他ならないですわ。それでエリザ様のお考えを伺えればと。」
いくつもの目がわたくしに集中している。わたくしの様子を親に伝えるため、言葉、表情、一挙足を見逃さないようにする姿勢にウンザリする。そんなにギラギラした表情、貴族にふさわしくなくてよ、と顔には出さずに答えることにした。
「殿下との週一回のお茶会で勉強会や交流されている方々のお話を伺っておりますの。身分の低い方との交流は常識も違って新鮮だそうですよ。面白い話が多く、わたくしも楽しく伺っています。」
噂ではなくて殿下直々に話を聞いていて関係良好ですよ、というスタンスでこの話を終わらせようとした。
「でも、殿下と件の令嬢二人きり人払いをされて生徒会室で過ごすこともあるそうですよ。」
「それは事実ですか?殿下がその様な貴族にあるまじき事をするとは思えないのですが…」
「……」
だが、下世話な方向で続けようとするので、不敬罪にあたると匂わせ黙らせた。
これで今日のお茶会の面倒な話題は終わり。その後はいつもの通り、最近流行りのドレスやアクセサリー、香水などの話で終始した。今日のお茶会の噂話は殿下と男爵令嬢の事だけ、他の噂話がでない程大きくなっている事と内容もかなり進展していることがわかった。このまま放置することはできない。
ーーー
わたくしは、王国筆頭公爵家であるランベール家の長女、エリザ・ランベール。話題にでた殿下とは幼馴染兼、婚約者候補として周知されている。
殿下こと アルベルト・シャリガンは、我がシャリガン王国の第三王子、金髪碧眼の童話の王子様を体現している方だ。上に優秀な王太子、第二王子がいるためランベール公爵家に婿入りすることが、王家、公爵家の暗黙の了解になっている。
ただ、かわいい末っ子王子ゆえか、正式な婚約は学園を卒業後の18歳と猶予を持たせている。王家としては政略結婚の必要がないからだ。
幼馴染であるアルベルト様との交流は週1回のお茶会という形で10年近く続いている。
長い付き合いでお互い気心の知れた仲の為、お互いを愛称で呼び、建前のない素で話をしている。関係良好である事は嘘ではないのだ。お茶会で男爵令嬢との噂に対する真意を直接聞いてみることにした。
「アル、男爵令嬢と懇意にしている噂、だいぶひどくなってるわよ。二人きりで一つの部屋にこもっているとか。」
そんな噂話、くだらないと一刀両断すると思ってたが。
「……そうか、見られてしまったか。」
あれ?否定しない、しかも眉を寄せた深刻な表情だ。
「え、本当に二人きりになっているの?」
未婚の男女が一つの部屋に二人きりという醜聞だけで貴族の娘は終わりだ。事実でない場合なら対策もうてるが、この答えは事実と言う事だ。
「事実ならアルは責任を取らないといけないわ。相手の娘と結婚したいと思っているの?確か生徒会で一緒に活動している所は何度か見たことあるけど、グループの中の一人だと思っていたわ。」
「二人きりになってもやましい事は何もしていないよ。彼女は光の魔力、癒しの力を持っていて、その力を訓練するために二人になったことがある。彼女は健気に頑張っているんだよ。今度、エリーにも会わせたいと思っている。きっと気が合うと思うよ。」
は?光の魔力?彼女と会わせたい?
彼は何を言っているのだろうか。数十秒頭が真っ白になり固まってしまったけど、兎に角このおかしな話について質問することにした。
「光の魔力って何?魔法は物語の中のことで、現実にはないものだと思うの。」
この世界に魔法なんてない。アル、大丈夫なのかしら。
「それを説明するには長い話になるし、信じてもらえないかもしれないけど、聞いてくれるかな。」
「ええ、質問はしたのはわたくしだし、聞くわ。」
「えーと、僕には前世の記憶があって、この世界とは違う世界を生きた記憶っていうのかな、それがあるんだよ。その前世の記憶で読んだ物語が、今の世界とそっくり、登場人物の名前も特徴も同じでね。その物語では、今から半年後に太古に封じられた魔王が復活し、僕が勇者となって魔王討伐を行うことになるんだよ。そのパーティに参加するのが男爵令嬢でありながら光の魔力を持っている彼女なんだよね。彼女は回復系魔法で支援する役割、後は、辺境伯の娘にして騎士団の女性剣士、攻撃魔法が得意な異国の少数民族の少女 との4名で戦うことになる。エリーは心の支え、守るべき婚約者として王都で僕の無事を祈りながら待っているというポジションだよ。まずは、男爵令嬢の彼女が回復系魔法が使えるように訓練しているという訳。」
「…………………………」
どうしましょう。どこを取って何と言っていいのか分からない。厳しい淑女教育を受け、王族に嫁いでも問題ない様に受けてきた教育の範囲では対応できない。アルは疲れて幻覚でも見ているのかしら?魔王?魔法?、処理出来ないわ。それに辺境伯の娘に異国の少数民族の娘って、何、どうやって知りあったの? と、とりあえず男爵令嬢の話に戻してと。
「質問したいことは沢山あるけど、その、もう一度繰り返しになるけど、その男爵令嬢の娘のことはどう思っているの?」
「正直、健気に努力する姿に好感を持っている。だから、未来の妻になるエリーと仲良くしてほしいと思っているんだ。」
爽やかに当たり前の様に話す姿と内容のギャップにまた、放心状態になった。いけない、自分の将来に関わることなんだから戻らないと。
「えーと、わたくしとは婚約も結んでいないから、その男爵令嬢の娘と結婚もできると思うわ。陛下も王妃様もアルの気持ちを大事にしたいからまだ婚約していないわけだし。」
そう、未来の妻はその娘にしてくれればいいと思う。アルとは長い付き合いで友情の方が強いけど、結婚してもいいかと思っていた程度なので、ぜひ好きな人と結婚してほしい。
「うーん、それはちょっと違うというか、幼馴染の令嬢は心の支え、且つ本命の奥さんで他のメンバーは時々いい感じになりつつ、恋愛未満ギリギリのじれじれストーリーが展開するんだよね。それで、最終的には四人の妻に囲まれ国の発展に尽くすことになる。」
はぁ?何言ってんの?もう一回、はぁ?いやいやもう一回 はぁ?
わたくしを妻にしながら、他のメンバーと時々いい感じ?四人の妻?公然と複数の不貞を宣言するような不誠実で荒唐無稽な話、これ以上の会話はしたくない。この場はこのまま撤退。
「わたくしにはちょっと理解できないわ。今日はこれでお暇いたします。」
その日のお茶会から帰宅後、お父様に相談し、関わりを断つため、定期お茶会の廃止、隣国に留学の手配をお願いし、翌々週には隣国に旅立つことができた。
一夫一妻が常識の国でどうしてあんな事を考えたのか、末っ子で甘やかされてきたからというのは理由にならない程の話を堂々とする神経がわからない。
アルに甘い王家は、魔法だなんだというのは、若気のいたりだろうと大事にせず、お気に入りの男爵令嬢との婚約に向けて話を進め始めたそうだ。
わたくしも友愛の情はあったので残念だったが、留学先で他国の文化に触れたり、色々な国の学生との交流の中で徐々にアルの事を忘れていった。
ーーー
あのお茶会から半年後、驚くべきことにアルが言った通り魔王が復活したのだ。
更に、アルは勇者の称号を与えられ、あの時の男爵令嬢と辺境伯の御息女である女性騎士、遠方の少数民族で筆頭巫女している女性との四名で先発隊を結成し、国の兵士を引き連れ討伐にでたのだった。
ーーー
魔王討伐がどうなったか… 結果は討伐成功し、母国に平和が訪れた。
勇者パーティと呼ばれた先発隊は、当初4名の連携から連戦常勝で道を切り開いたが、徐々に連携が綻び失敗を重ね最後にはパーティ全員重症を負い、戦線離脱。
残った兵士達による奮戦にて討伐成功したそうだ。重症を負ったメンバーは現在それぞれ療養しているらしい。
途中から留学という名の疎開だったが母国が平和になったので、一時帰国がてらアルを見舞うことにした。久しぶりの母国が荒廃していたら、と心配したが意外に王都は変わりはなく、アルが療養している王宮の部屋に向かった。
「アル、体調はどう?」
「エリー、来てくれたのか。もう大分良くなって、日常の生活もできるようになったよ。」
ベッドから起き上がったアルは少し痩せ、以前の自信溢れた表情ではなく、か細くなった表情を和らげた。
「良かった。あの時アルが話した事が現実になって驚いたわ。」
「そうだね。でも、エリー、君がいなかった。」
それは当然のことだと思うけど…何を言っているのかしら。話が噛み合わない。
「勇者パーティも始めは大活躍だったと聞いたわ。お疲れ様。」
「始めは良かったんだよね。それがメンバーとのイベントが発生する毎に僕以外のメンバー間がギクシャクし始めてさ、それぞれが僕に誰が一番なのか、とか聞いてくる様になってくると、いざ戦いの時に連携ができなくないどころか、足を引っ張り合うこともあったりしてもう散々だったよ。」
わたくしとの久しぶりの会話に気持ちも以前に少し戻ったのか、邪気のない目で話すアル。
はぁー。生死が掛かった状況で何をしていたのやら。自分が原因だとわかっているのかしら。
「それで、他のメンバーとはどうなったの?」
「最後に、僕に向かって『はっきりさせて!』と迫ってきたから、エリーが一番だと、そう答えたところで、魔王軍の急襲があって、ほぼ全滅。でも九死に一生を得てそれぞれの実家で療養中だよ。」
「…………………………」
これははっきり何が悪かったのかを一つ一つ教えないといけないということね。はぁ。
「恋愛感情がある場合、相手を独占したい、と考えるのが普通なの。曖昧にそれぞれと親しくすると牽制し合うから、連携して戦うなんてできないのよ。現にできなかったでしょ。で、何、散々それぞれと関わってたのに、一番は他にいるって。もうね。何はなくとも謝れ。」
「え、誰に?」
「だーかーらー。メンバー全員にちゃんと謝りに行きなさい。一人に絞れず、気持ちがある様な事してすみませんでしょ。ちなみにわたくしは複数の異性と付き合う方とは関わりたくないので。それで留学したのだし、アルの事は一友人としてしか見ていません。」
「そ、そんな。」
これで分かったかしら。なんでそんな情けない顔してるのかしら。正に自業自得よ。
「じゃ、わたくしは帰るから。友人なので、エリーが一番というのもやめてね。」
「ま、待って、エリー。行かないで。」
部屋を後にするため、立ち上がり去ろうとした所、いきなりアルが立ち上がり、床にすわり込み頭をつけるという形をとった。これは異国の奴隷がとるスタイルではないかしら。確かDOGEZAとか。
「エリー、僕が悪かった。他のメンバーにも謝りに行くから僕を捨てないで。」
えっ、ちょっ、王族がやってはいけない事をしている。当然二人きりではなく、従者の目もある中で何をしているの。わたくしが王子に頭を下げさせる悪女みたいになっているのだけど。
「アル、やめて。起きて」
「いや、最大限の謝罪を示してエリーに許してもらいたいんだよ。ごめん。エリーと結婚できないなんていやだ。許してもらうまではこのままの姿勢でいるよ。」
既にあのお茶会後にもう関係切ったと思っていたのに、婚約関係ではないから婚約破棄と明確なものもしていないし、伝わってなかったということね。それともお父様が故意に有耶無耶にしていたのかもしれない。
うかうか見舞に来てしまったわたくしも甘かった。しかもわたくし、婚約者はまだいないのよね。あぁ、留学先で誰かと婚約しておけばよかった…
頭を床にこすりつけるアルを見下ろしながら考える。
さて、他に余所見させない事を誓わせ、ここで躾けて関係継続するか、それとも完全に絶縁するか、どちらにしましょうか。
End
アルベルトは「ハズレ王子の俺が勇者だった〜チートな仲間達と魔王を倒します!」、略して「ハズ勇」、ハーレムファンタジーの主人公です。そういうハーレム物のパーティって結局揉めるよね、という話です。




