7話目 ダンジョンとは
果実を食べ終えたハーピーが、口元を整え、いつもの表情に戻る。
その姿を見て、俺は改めてメニューを開いた。
【ダンジョン生成ポイント:0】
「……全部使い切ったな」
覚悟はしていたが、数字で突きつけられると、さすがに実感が湧く。
「なあ」
俺は、秘書ハーピーに視線を向けた。
「ポイントは、どうやって増やすんだ」
彼女は、少しだけ間を置いてから答える。言葉を選んでいるというより、事実を整理しているような間だった。
「方法は、いくつかあります」
メニューが反応し、項目が表示される。
「第一に」
淡々とした声。
「外部から侵入してきたモンスター、もしくは人間を、排除することです」
排除。
つまり、殺すということ。
その言葉の重さに、胸の奥がわずかに軋む。
「ダンジョンは、領域を侵された際、その対価としてポイントを得ます。防衛行為の一環です」
感情はない。
仕組みとして、そうなっている。
「……他には」
「第二に、他のダンジョンを攻略すること」
別の項目が浮かぶ。
「ダンジョン同士は、競合関係にあります。他のダンジョンを制圧、もしくは中核を破壊することで、大量のポイントを獲得できます」
世界中に、すでにダンジョンは存在している。
つまり、避けては通れない道でもある。
「そして、第三に」
ハーピーは、周囲のジャングルを一瞥した。
「このダンジョン自体を発展させることです」
「発展?」
「環境の安定、魔力循環の効率化、階層の追加、住人の増加。それらが一定の基準を満たすと、定期的にポイントが付与されます」
つまり。
守り、奪い、育てる。
どれか一つだけでは、成り立たない。
「……簡単には増えないな」
「はい」
即答だった。
「特に、殺傷を伴わない方法は、時間がかかります」
俺は、息を吐いた。
人を殺してポイントを稼ぐ。
モンスターとはいえ、命を奪うことで得る力。
それは、できれば避けたい。
少なくとも、最初は。
「このダンジョンを、育てる」
俺は、そう呟いた。
「それが、一番遠回りでも、一番安全な方法だ」
ハーピーは、わずかに目を細めた。
「……ダンジョンマスターとしては、非効率です」
「でも、人間としては、こっちの方がいい」
少しだけ、笑って言った。
円頓寺ダンジョンは、まだ生まれたばかりだ。
ここで稼ぐポイントは、誰かを殺した数じゃなくて、守れた時間であってほしい。
そう思いながら、俺はもう一度、ジャングルを見渡した。
この場所を、ちゃんと育てよう。
カレンが、ここで息ができるようになる、その日まで。




