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60話 ギルドの見解



深淵の森ダンジョンが消失してから数日後。

ギルドは、ようやく事態の異常さを公式に認識せざるを得なくなっていた。


最初の違和感は、

熱々の火山ダンジョンの攻略報告だった。


攻略を成し遂げたのは、

Bランクパーティ――オリジンワン。


実績も信頼もある、現在最も勢いのある若手パーティだ。


だが、提出された報告書の内容は、

ギルド上層部を静かにざわつかせた。


「……モンスター数が、明らかに少なすぎる?」


火山ダンジョンといえば、

本来ならば溶岩系・火属性モンスターが大量発生し、

長期戦を強いられる危険度の高いダンジョンのはずだった。


しかしオリジンワンの報告には、こう記されていた。


――道中の敵影が薄い

――中層以降、ほとんど抵抗らしい抵抗がない

――ボス到達までの消耗が、想定の半分以下


「罠や環境は健在だったが、

 戦力が抜け落ちたような印象を受けた」


それが、剣聖である中村桜の所感だった。


当初、ギルドはこう結論づけた。


「偶然だろう」

「直前に別の冒険者が潜っていた可能性もある」


だが、その判断は――甘かった。


ほどなくして、

寂れた洋館ダンジョンの消失が確認される。


こちらは攻略記録すら存在しない。

入口そのものが崩れ落ち、

内部への侵入が完全に不可能になっていた。


そして追い打ちをかけるように――


Bランクパーティ オリジンワンが攻略を諦め、撤退した深淵の森ダンジョンが、ダンジョンブレイクを起こした末に消失。


この三つは、すべて同一地域。

そして、この地域では他にダンジョンは一切確認されていなかった。


つまり――


・熱々の火山ダンジョン(攻略済・モンスター激減)

・寂れた洋館ダンジョン(記録なし・消失)

・深淵の森ダンジョン(ブレイク後・消失)


三つのダンジョンが、

極めて短期間に連続して姿を消したことになる。


ギルドは、ついに動いた。




ギルドの2階にある魔力遮断結界の張られた会議室。



壁面に貼られた地図には、消失した三ダンジョンの位置が赤く示されている。


そしてその中心部――

今まで空白だった場所に、新たな反応が浮かび上がっていた。


「魔力感知機の最新解析結果です」


研究担当が、淡々と説明する。


「三ダンジョン消失後も、

 魔力は完全に消えていません」


「むしろ、一定の場所へと集束しています」


画面が切り替わり、

山岳地帯の航空映像が映し出される。


「位置は――円頓寺山周辺」


ざわ、と会議室が揺れた。


「円頓寺……?」


「人の立ち入りが少ない山だな」


「だが、確かに妙だ。

 今までダンジョン報告はなかったはずだ」


統括責任者が、静かに頷く。


「調査班の現地確認結果も一致している」


「地下深部に、大規模な魔力循環を確認」


「人工物に近い構造反応――

 ダンジョンの可能性が極めて高い」


ここで、判断が下される。


「未確認ダンジョン、では通用しない」


統括責任者は、重く宣言した。


「位置が確定した以上、

 正式名称を付与する」


一瞬の間。


「――円頓寺ダンジョン」


その名が、会議室に響いた。


「円頓寺山に存在するダンジョンとして、

 ギルドは本日付で正式登録する」


誰も反論しなかった。


すでに三つのダンジョンが消えている。

偶然ではない。

無関係でもない。


「円頓寺ダンジョンが、

 三ダンジョン消失と関係している可能性は極めて高い」


「火山ダンジョンの戦力減少も、

 このダンジョンによる事前介入の可能性がある」


ギルドは、次の段階へ移行する。






沈黙を破ったのは、支部長代理だった。


「……まず、前提を確認する」


「このギルド支部には、現在Aランクパーティは存在しない」


その言葉に、何人かが渋い顔をする。


「だからこそだ」


別の幹部が即座に続けた。


「この案件は、他エリアからAランクを派遣してもらうべきだ」


「ダンジョンが三つ消えている。

 これは異常事態だ」


「探索などと言っている場合ではない」


「最悪、Sランク級の脅威が潜んでいる可能性もある」


会議室がざわつく。


だが、すぐに反論が飛んだ。


「待ってください」


冷静な声。


調査部門の責任者だった。


「確かに危険性は否定できません」


「しかし――」


一拍置く。


「“探索”という目的に限るなら、

 Bランクで十分です」


「何だと?」


強硬派の幹部が声を荒げる。


「相手は未知だぞ?」


「未知だからこそ、です」


調査責任者は淡々と続ける。


「Aランクを投入すれば、

 その存在自体が“刺激”になります」


「相手がダンジョンマスターだった場合、

 威圧と受け取られ、即座に敵対行動に出る可能性が高い」


「探索は、見つかることが目的ではない」


「“気づかれずに知る”ことです」


別の幹部が腕を組む。


「だが、Bランクでは対応力が足りない」


「不測の事態が起きたら?」


「だから、オリジンワンです」


その名前が出た瞬間、

会議室の空気が微妙に変わった。


「……また、あそこか」


「最近、やたらと名前を聞くな」


「火山ダンジョン攻略、市街地防衛、避難誘導……

 確かに実績はある」


「だが、Bランクだ」


「それに、火山ダンジョンでモンスターが少なかった件……

 偶然とは思えん」


支部長代理が、指で机を叩く。


「疑念だけで判断はできん」


「オリジンワンは、

 これまで一度も市民被害を拡大させていない」


「これは事実だ」


「しかも、彼女たちは“戦闘”より“判断”が上手い」


「無駄に突っ込まない」


「無理だと思えば、即座に引く」


「探索任務において、これは重要だ」


強硬派が食い下がる。


「それでもだ」


「この支部にAランクがいない以上、

 他エリアに派遣要請を出すべきだ」


「時間がかかります」


調査責任者が即答した。


「Aランクの移動、調整、承認……

 最低でも数日」


「その間に、

 円頓寺ダンジョンが動かない保証は?」


会議室に、重たい沈黙。


誰も、否定できなかった。


「……つまり」


支部長代理が、ゆっくりと結論をまとめる。


「今すぐ動ける戦力で、

 “探索のみ”を行う」


「刺激しない」


「深追いしない」


「危険を感じたら、即撤退」


「その条件なら、Bランクが最適」


一人の幹部が、最後に念を押す。


「もし、想定外の事態が起きた場合は?」


支部長代理は、はっきりと言った。


「即座に全体を引き上げる」


「その時点で、Aランク派遣を正式に要請する」


「――探索は、Bランク」


「制圧は、その後だ」


最終的に、全員が黙って頷いた。


こうして決定された。


円頓寺ダンジョン調査任務。

主担当――Bランクパーティ・オリジンワン。



支部長代理は、ひとつ深く息をついた。


「……Bランクだけでは、厳しい」


その一言で、会議室の空気が再び張り詰めた。


誰もが薄々感じていたことだった。

未知のダンジョン。

しかも、短期間で三つのダンジョンが消失しているという異常事態。


オリジンワンが優秀なのは事実だが、

それでも**“単独”で送り込むには、情報が足りなすぎる**。


調査責任者が、慎重に言葉を選ぶ。


「……探索の精度を上げるためにも、

 複数パーティによる分担行動が望ましいですね」


「一隊が囮になるわけじゃない」


「役割を分けるんだ」


強硬派の幹部が、意外にも頷いた。


「Bランクを主軸にするのは構わん」


「だが、目と耳は多い方がいい」


「索敵、後方警戒、緊急時の救援……

 全部を一つのパーティに任せるのは無理がある」


支部長代理は、端末を操作し、

支部所属パーティの一覧をスクリーンに映し出した。


「円頓寺支部の戦力は限られている」


「Aランクはいない」


「だが――」


画面が切り替わる。


Bランクパーティ

・オリジンワン


Cランクパーティ

・マッスルボディ

・トレジャーソウル


Dランクパーティ

・コンマのエリア


「この編成なら、役割分担が可能だ」


会議室が静まり返る。


一人が口を開く。


「Dランクを連れて行くのは、危険じゃないか?」


支部長代理は、首を振った。


「前線に出すつもりはない」


「彼らは後方担当だ」


「入口付近の監視、撤退ルートの確保、

 通信と連絡の中継」


「戦闘はさせない」


調査責任者が補足する。


「Cランクは、Bランクの補助と独立探索」


「マッスルボディは耐久と制圧力がある」


「トレジャーソウルは罠解除と地形把握に長けている」


「オリジンワンは、全体の判断と最深部への到達を担う」


強硬派の幹部が、腕を組みながら言った。


「つまり……」


「表向きは“合同探索”」


「実質的な指揮は、オリジンワンに任せる形か」


支部長代理は、はっきりと頷いた。


「そうだ」


「彼女たちの判断力を、信じる」


「だが、万が一に備えて、

 “逃げ道”と“保険”を用意する」


誰かが、小さく笑った。


「ずいぶん慎重だな」


「慎重でなければ、生き残れない時代だ」


支部長代理の言葉は、重かった。


「これは討伐じゃない」


「英雄を作る任務でもない」


「――生きて帰るための探索だ」


最終確認が行われる。


・オリジンワン:先行探索・判断役

・マッスルボディ:前衛補助・緊急時の盾

・トレジャーソウル:罠・構造解析

・コンマのエリア:後方監視・撤退支援


全員が黙って了承した。


こうして決定された。


円頓寺ダンジョン調査隊――合同編成。


B・C・Dランクを束ねた、

異例の“慎重すぎる探索”。


だが、それでもなお――

この判断が甘かったのかどうかは、

まだ誰にも分からなかった。


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