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44話  強くなりたい 星ヶ丘 結衣視点



――私星ヶ丘結衣はやっぱり弱かった。


インフェルノジャイアントとの戦い。

あのときの光景が、何度も頭の中で繰り返される。


剣を握って前に出た。

役に立ちたかった。

せめて、足を引っ張らない存在でいたかった。


でも現実は違った。

一方的に叩き伏せられて、何もできなかった。


ゴブリンダンジョンの時もそうだ。

囲まれて、逃げ場を失って、恐怖で身体が動かなくなって――

もし助けが来なかったら、どうなっていたか分からない。


「……私、弱い」


ぽつりと零れた言葉が、胸に突き刺さる。


守りたかった人がいる。

守られてばかりじゃ、いたくない人がいる。


――大門くん。


ダンジョンの中で、何度も背中を見てきた。

傷だらけになりながらも、迷わず前に立つ姿。


あの人は、いつも“守る側”だった。


「……私も、ああなりたい」


戦士というスキルを持っているのに、私はまだ何もできていない。


悔しくて、情けなくて、それでも――諦めたくなかった。


その日の夜、私はマリーちゃんを訪ねた。


「ねえ、マリーちゃん……」


ダークエルフの彼女は、いつもの気だるげな様子で振り向く。


「んー? どしたの、そんな真剣な顔して」


私は正直に話した。

戦えなかったこと。

怖かったこと。

そして――大門くんの背中を見て、何もできなかった自分が悔しかったこと。


話し終える頃には、胸の奥がじんと熱くなっていた。


「強くなりたい」


自然と、そう口にしていた。


「誰かの後ろに隠れるんじゃなくて……ちゃんと、隣に立てるくらい」


マリーちゃんはしばらく黙って私を見ていたけど、やがて小さく笑った。


「……いいじゃん。そういうの、嫌いじゃない」


立ち上がって、私の額を指で軽くつつく。


「覚悟はいるよ? ダンジョンでの訓練は本気だし、甘くない」


「それでもいい」


即答だった。


「強くなりたい。大門くんの……足手まといになりたくない」


マリーちゃんは少しだけ目を細めて、うなずいた。


「オッケー。じゃ、明日から地獄ね」


「えっ……」


「冗談。……半分くらい」


そう言って笑う。


その笑顔を見て、胸の奥が少し軽くなった。


――私は、まだ弱い。


でも、前に進むって決めた。


次は、守られる側じゃない。

隣に立てるように。


そのために、私は剣を握る。


大門くんの背中を、追いかけるために。それからの日々は、目まぐるしく過ぎていった。


朝はお姉ちゃんの手伝いから始まる。

カフェの仕込み、配膳、片付け。

忙しいけれど、誰かの役に立っている実感があって嫌いじゃなかった。


合間には、教会の子どもたちと遊ぶ。

鬼ごっこをしたり、絵本を読んだり、剣ごっこに付き合わされたり。

子どもたちの無邪気な笑顔を見ていると、不思議と心が軽くなる。


それから冒険者学校。

座学も訓練も容赦ないけど、確実に体は動くようになってきた。

剣を振る速度、踏み込み、呼吸――

少しずつ、確実に「戦える身体」になっていくのを感じていた。


そして、夕方からは農業の手伝い。

土を耕して、苗を植えて、水をやる。

単純な作業だけど、地に足がついている感じがして落ち着く。


けれど――

どれだけ疲れていても、私は欠かさなかった。


夜の修練。


ダンジョンの修練場。

薄暗い空間に、剣の音だけが響く。


「……はぁっ!」


振る。

斬る。

踏み込む。


汗が床に落ちる。

息が乱れる。


でも、止まらない。


「まだ」


「もう一回」


自分にそう言い聞かせながら、何度も剣を振った。


そこに、いつもマリーちゃんがいた。


腕を組み、壁にもたれながら、冷静に私を見る。


「重心が高い。あと半歩、踏み込め」


言われた通りにやってみる。


――空を切る。


「遅い。無駄な力が入りすぎ」


歯を食いしばる。


「剣は振るもんじゃない。流すの」


何度も、何度も。


腕が上がらなくなっても、足が震えても、やめなかった。


でも――


一度も、当たらない。


マリーちゃんは、軽く体を傾けるだけで、私の剣を避ける。


「……っ!」


「はい、隙だらけ」


指で額を軽く弾かれる。


「また外し」


私は、悔しさで唇を噛んだ。


「……どうして、当たらないの?」


「当てようとしてるから」


マリーちゃんは淡々と言う。


「相手を見るんじゃなくて、“流れ”を見るの。

動きの先、呼吸、癖。そこを読む」


簡単そうに言うけど、できない。


「これが……Aランク、か」


呟くと、マリーちゃんは少しだけ目を細めた。


「そう。あーしは、まだ本気出してない」


その言葉に、胸が熱くなる。


――でも。


「……いつか、当ててみせる」


そう言うと、マリーちゃんは一瞬驚いた顔をしてから、ふっと笑った。


「いいね。その顔」


そして、静かに言った。


「じゃあ、死なない程度に鍛えてあげる」


それは、優しさなのか、地獄への招待なのか。


分からない。


でも――


私は、剣を握り直した。


大門くんの背中に、追いつくために。


まだ遠い。

それでも、確実に一歩ずつ。


私は、強くなっていく。

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