表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/69

43話 ダンジョン会議

ダンジョン中枢の会議室。


円形のテーブルを囲むように、いつもの顔ぶれが揃っていた。

石造りの床は静かで、どこか張りつめた空気がある。


俺は一度、全員を見回してから口を開いた。


「……ポイントは、まだかなり余ってる」


その言葉に、全員の視線が集まる。


「だから今日は、遠慮なしに言ってほしい。

 “今、必要なもの”を」


一瞬の沈黙のあと、最初に口を開いたのはフロースだった。



■ フロース


「研究施設が欲しいです」


即答だった。


「植物、生態、魔力循環……今の設備では観察できないことが多すぎます」


眼鏡の奥の瞳が、いつになく熱を帯びている。


「このダンジョンは、自然進化の宝庫です。

 きちんと記録し、制御すれば……ここは“世界の基準”になります」


少し早口になりながら、資料を広げ始めた。


「……わかった。研究所、作ろう」


即答すると、フロースは一瞬きょとんとし、それから静かに微笑んだ。


「……ありがとうございます。全力で成果を出します」



■ アイリス


次に口を開いたのは、腕を組んでいたアイリスだった。


「居住区の拡張を提案します」


即答。表情は真剣そのもの。


「今は最低限の居住空間しかありません。

 将来的に人もモンスターも増えるなら、生活基盤の整備は必須です」


少しだけ視線を逸らし、


「……休める場所がないと、心が摩耗します」


その言葉に、誰も反論しなかった。


「よし。居住区、拡張だ」



■ マリー


次に、椅子にもたれながら手を挙げたのはマリーだった。


「はいはーい。じゃあ次あーしね」


気楽な口調だが、目は真剣。


「アイリスにはハーピー部隊がいるでしょ?

 でもさ、あーしには直属の配下いないんだよね」


肩をすくめる。


「ダークエルフの部隊、欲しい。

 斥候でも狙撃でも、使えるやつ」


「……なるほど」


「じゃないと、なんか立場的に寂しいし?」


半分冗談、半分本気。


「了解。ダークエルフ部隊、用意する」


マリーは満足そうに笑った。



■ 雪


次に、控えめに手を挙げたのは雪だった。


「……えっと、私は……」


少し言い淀んでから、柔らかく微笑む。


「食材を保存できる、大きな倉庫が欲しいです」


「冷蔵や冷凍ができる場所があれば、料理の幅も広がりますし……」


少し照れながら、


「みんなが、ちゃんと美味しいものを食べられるように」


その言葉に、場の空気がふっと和らぐ。


「了解。大型食糧庫、作ろう」


雪はほっとしたように微笑んだ。



■ 結衣


「……じゃあ、次は私」


少しだけ姿勢を正して、結衣が言う。


「修練場がほしい」


その声は、真剣そのものだった。


「戦うためだけじゃない。

 自分の力をちゃんと制御できるようになりたい」


少しだけ視線を落とす。


「……守られるだけは、嫌だから」


その言葉に、胸が少し締めつけられた。


「わかった。ちゃんとした修練場を作る」


結衣は、小さく頷いた。



■ エーデルワイス


最後に、静かに立っていたエーデルワイスが口を開いた。


「私からは……地下四階に、雪原エリアを」


「火山とは相性が悪いので……」


淡々とした口調だが、どこか期待が混じっている。


「管理は、私が引き受けます」


「わかった。雪原エリア、作ろう」


そう言うと、彼女は静かに頭を下げた。



■ 彩乃


最後に、控えめに手を上げたのは彩乃だった。


「……子供たちのために、小さな教室が欲しいです」


「読み書きとか、計算とか……戦い以外のことを、ちゃんと教えたいんです」


その声には、揺るがない優しさがあった。


「いいな。ぜひやろう」


そう答えると、彼女はほっとしたように微笑んだ。



全員の要望を聞き終え、俺は一度深く息を吸った。


「よし。全部やろう」


ポイントは減る。

手間もかかる。


それでも――


「ここは、ただのダンジョンじゃない。

 生きる場所だ」


誰かが笑い、誰かが安心して眠れて、

誰かが明日を楽しみにできる場所。


そのための投資なら、惜しくない。


俺はメニューを開き、次々と項目を選択していく。


新しい施設。

新しい命の居場所。


ダンジョンは、ゆっくりと――

“街”へと変わっていった。






それから、さらに一か月が過ぎた。


ダンジョンは静かに、しかし確実に姿を変えていった。

戦いのためだけの場所ではなく、「生きるための場所」として、少しずつ形を整えていく。


その変化の中心にあったのが――

エーデルワイスの提案によって造られた雪原エリアだった。



地下四階の奥、火山エリアとは真逆の気候。


足を踏み入れた瞬間、空気はひんやりと澄み渡り、白い息がふわりと浮かぶ。

視界の先には、どこまでも続く白銀の大地。

柔らかな雪が音を吸い込み、静寂が支配している。


「……いいですね、ここ」


エーデルワイスはそう言って、ゆっくりと雪を踏みしめた。

この場所は、彼女にとって“居場所”と呼べるものだったのだろう。


雪原エリアには、すでにいくつかのモンスターが定着している。



❄ 雪原エリアのモンスター


・スノーマン(Fランク)

丸い雪の体をした、どこか愛嬌のある存在。

戦闘力はほとんどないが、周囲の温度を安定させる役割を持ち、雪原の維持に貢献している。


・イエティ(Eランク)

白い毛に覆われた大型の魔物。

見た目は荒々しいが性格は比較的温厚で、主に雪原の巡回や警備を担当。


・スノータイガー(Dランク)

俊敏で獰猛な捕食者。

雪の中では音もなく獲物に近づく。戦闘能力が高く、外敵への抑止力として機能している。


・ペンギンソルジャー(Eランク)

丸い体に小さな槍と盾を持つ兵士。

隊列を組んで行動する習性があり、見た目に反して統率が取れている。



雪原の中央には、エーデルワイスの魔力で作られた氷晶の塔が立っていた。

冷気を均一に循環させ、環境を安定させる中枢施設だ。


「ここなら、雪も、風も、私の管理下にあります」


そう言って微かに微笑む彼女の姿は、どこか誇らしげだった。


「この場所がある限り、火山と対になる力として、ダンジョン全体のバランスが保てます」


確かにそうだ。

炎と氷、相反する二つの極が拮抗することで、全体の安定性は飛躍的に高まる。


俺は静かに頷いた。


「いい仕事だ。エーデルワイス」


その言葉に、彼女は一瞬だけ目を伏せ――


「……お役に立てて、光栄です」


と、小さく答えた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ