36話 火山①
1か月の時がすぎ準備は終わった。そして
――地鳴りが、開戦の始まりだった。
遠く、地の底から響くような低い振動。
それは一度きりでは終わらず、規則正しく、確実に近づいてくる。
「……来た」
監視水晶に、赤い反応が次々と浮かび上がる。
火山ダンジョン――侵攻開始。
空気が熱を帯び、ダンジョン全体がざわめいた。
「第一波、墓地エリア侵入を確認」
アイリスの声が冷静に響く。
「フレイムゴブリン多数。後方にマグマリザード、さらに奥に大型反応……」
俺は拳を握る。
「想定通りだ。第一防衛線、展開」
◆
――墓地階層。
霧が立ち込める中、赤い光が揺らめいた。
炎を纏ったゴブリンたちが、叫び声を上げながら雪崩れ込んでくる。
「ギィィィッ!!」
その瞬間。
地面が、動いた。
ガシャリ、と土中から白骨の腕が突き出し、ゴブリンの足を掴む。
「グ、グギャッ!?」
次々と地面から這い出るスケルトンたち。
盾を構え、槍を突き出し、静かに進軍する。
火球が飛ぶ。
骨が焼ける。
だが――止まらない。
「アンデッドは止まらない……!」
フレイムゴブリンたちが動揺した瞬間、背後から音もなく影が伸びる。
――ゴースト。
冷気を纏った霊体が、背後から絡みつき、体温と魔力を奪っていく。
「ギ、ギィィ……!」
動きが鈍ったところへ、スケルトンアサシンの刃が突き刺さる。
次々と倒れる火の軍勢。
しかし――
地面が、赤く割れた。
「マグマリザード来るぞ!」
巨体が、炎と共に這い出る。
溶岩の鱗がきらめき、骨の剣を弾く。
だがその瞬間。
「今だ!」
ワイトの詠唱が終わる。
冷気を帯びた呪詛が空気を凍らせ、マグマリザードの動きを鈍らせた。
「グォォ……!」
そこへスケルトンタンクが突進。
重量と数で押し倒す。
火と骨がぶつかり合い、墓地全体が戦場と化す。
「第一防衛線、機能中です」
アイリスの声が、冷静に状況を伝える。
「損耗はありますが、想定内」
だが、その時――
監視水晶が大きく明滅した。
「……来ます」
一段、空気が重くなる。
「巨大反応、侵入開始」
地面が、割れた。
溶岩を纏った巨大な脚が、墓地の端を踏み潰す。
「インフェルノジャイアント……!」
火柱が吹き上がり、墓標が溶ける。
骨が砕け、霊体が焼かれて消える。
「くそ……!」
だが、その歩みは――遅い。
地面が凍り、ぬかるみ、拘束されている。
「効いてる……!」
「ええ。墓地の呪いと冷気が、確実に効いています」
アイリスの声が、わずかに高揚を帯びる。
「ですが……このままでは、持ちません」
巨体が咆哮し、火柱を噴き上げる。
防衛線が、きしみ始めた。
「次の段階へ移行します」
俺は拳を握りしめた。
「廃遺跡へ誘導しろ。
ここは“削る場所”だ」
シャドウウルフが影に溶け、誘導を開始する。
戦場は、次の段階へ――。
そして、戦いは本格化する。
ダンジョン全体が、唸りを上げていた。




