35話 偵察結果
会議室に集まった空気は、いつもより張り詰めていた。
アイリスが一歩前に出て、淡々と報告を始める。
「偵察の結果を報告します」
指先を軽く振ると、魔力で簡易的な立体図が浮かび上がった。
「火山ダンジョンの主力は、火属性モンスターで構成されています」
まず映し出されたのは、小柄な影の群れ。
「フレイムゴブリン(下級)。
火属性の投擲武器を使用。集団行動を得意とし、数で押してきます」
次に、鱗に覆われた中型の影。
「マグマリザード。
高熱の鱗を持ち、物理耐久が高い。近接戦では厄介です」
続いて、俊敏な影が跳ね回る。
「ファイアウルフ。
高速移動型で、炎をまとった突進を得意とします」
溶岩のようにうねる影が現れる。
「ラーヴァスライム。
通常攻撃が通りにくく、接触による火傷が主な脅威です」
最後に、杖を持った影。
「フレイムシャーマン(推定)。
後方支援型で、広範囲の火属性魔法と強化魔法を使用します」
そこまで聞いたところで、結衣が口を開いた。
「それ……ギルドでも噂になってた」
全員が彼女を見る。
「火山ダンジョンは“新人殺し”って言われてる。
特にあのシャーマンと……」
少し言葉を選んでから続けた。
「“あいつ”が出てくると、パーティが丸ごと消えるって」
アイリスが静かに頷く。
「恐らく、それが――」
少し間を置いて、はっきり告げる。
「Aランク・インフェルノジャイアントです」
空気が一段重くなる。
「巨大な火山型モンスター。
物理・魔法ともに高耐性を持ち、持久戦になるほど不利になります」
俺は腕を組んだ。
「……正面から殴り合うのは無理だな」
「はい。正攻法は推奨できません」
アイリスは即答した。
「では、どうする?」
「――削ります」
淡々とした声だった。
「ジャングル階層と墓地階層で消耗させ、
廃遺跡で分断。
最終的に地下二階で殲滅します」
結衣が小さく息を飲む。
「そんなに、段階を踏むんだ……」
「はい。
火山ダンジョンは火力特化ですが、持久力と柔軟性に欠けます」
一拍置いて、アイリスは続けた。
「それに――」
ほんの一瞬、視線が揺れる。
「主がいらっしゃいますので」
「……?」
「想定外が起きても、立て直せます」
言い切った直後、わずかに目を逸らす。
「……多分」
マリーが吹き出した。
「そこ最後に不安出すのやめよ? 秘書さん」
「事実です」
即答。
そのやり取りに、張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。
俺は拳を握る。このダンジョンの主は俺だ。せっかくなら期待に応えたい。
「よしなら配下のみんなの期待に応えようかな。とりあえず結衣、冒険者ギルドにこの手紙をどんなふうにでもいいから渡して置いてくれないか?」
「え、うん別にいいけど」
あくまで念のためだ。ギルドがどう動くかはわからない。
「火山ダンジョンが来るなら、迎え撃つ」
アイリスは静かに一礼した。
「準備を進めます」
こうして――
火山ダンジョンとの戦いは、静かに幕を開けた。




