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33話 宣戦布告

「おはようございます、主」


澄んだ声に、意識がゆっくりと浮上する。

目を開けると、そこにはいつものように背筋を伸ばして立つアイリスの姿があった。


朝の光を背に受けて、銀色の髪が柔らかく揺れている。


「……おはよう」


そう返すと、彼女は一歩下がって丁寧に一礼した。


「報告したいことがあります。よろしいでしょうか?」


その声音には、わずかな緊張が混じっていた。


「どうした?」


身体を起こしながら尋ねると、アイリスは一瞬だけ視線を伏せてから、はっきりと告げる。


「“熱々の火山【Cランク】”より、正式な通達がありました」


俺は眉をひそめる。


「……通達?」


「はい。

“宣戦布告”です」


その言葉に、空気が変わった。


「期間は一か月。

それまでに戦力を整え、応じるか、もしくは従属を選べ、と」


「……なるほど」


静かに息を吐く。


ついに来たか。


ダンジョン同士が互いを意識し、力を誇示し始める段階に。


「相手の規模は?」


「推定で中規模以上。

火属性主体。モンスターの練度も高いと見られます」


アイリスの表情は冷静だが、油断はない。


「恐らく、こちらの成長を察知したのでしょう。

特に、ここ最近の活動を」


――なるほど。

静かにやっているつもりでも、完全に隠れることはできない、か。


「一か月……」


短くも、長い。


準備するには足りないが、何もできないほど短くもない。


俺はベッドから立ち上がり、窓の外を見た。


ダンジョンの中は、いつも通り穏やかだ。

子どもたちの声、遠くで作業をする音、朝の匂い。


「……ゆっくりしてる暇は、なさそうだな」


アイリスが静かに頷く。


「はい。

ですが――」


少しだけ、微笑んだ。


「今の私たちなら、きっと準備できます」


その言葉に、胸の奥が熱くなる。


「そうだな」


拳を軽く握りしめる。


「迎え撃つ。

この場所を守るために」


火山ダンジョン。


初めて、こちらから正面切って向き合う“敵”。





会議は、星ヶ丘カフェの奥――簡易作戦室として使っている部屋で行われた。


机の上には、ダンジョンの簡単な地図と、これまで集めた情報が並べられている。

皆の顔には、自然と緊張が浮かんでいた。


「火山ダンジョン、か……」


俺は腕を組みながら呟く。


「予想通り、火属性中心だろうな」


アイリスが頷く。


「はい。高温環境に適応したモンスターが主軸になるはずです。

こちらのジャングル系・アンデッド系は相性が悪いでしょう」


「だよねー」


マリーが椅子にもたれながら、髪をいじる。


「炎系って、森系と相性最悪じゃん。

下手したら、焼け野原だよ?」


「……うん。正面からぶつかるのは、正直きつい」


俺は正直に認めた。


しかも――


「相手にはAランクがいる」


その一言で、部屋の空気が一段重くなる。


「……あー、それはヤバいやつだ」


マリーが苦笑する。


「火山系のAランクって、たいてい脳筋でゴリ押しできるタイプ多いし」


アイリスも静かに頷いた。


「単体戦闘力で言えば、こちらを上回る可能性が高いでしょう」


俺は視線を落とし、考える。


「だから、正面衝突は避ける。

まずは情報だ」


そう言って、二人を見る。


「シャドウウルフ、アイリス。

偵察を頼みたい」


「了解しました」


アイリスは即答した。


「影を使って内部構造と警備を調査します」


「任せて」


シャドウウルフも、低く鳴いて応じる。


次に、結衣の方を見る。


「結衣。ギルド側の情報を集めてほしい。

火山ダンジョンの噂、戦力、失敗例……なんでもいい」


「うん。任せて」


結衣は力強く頷いた。


「危ないことはしないで。

聞き込みだけにして」


「わかってるって」


それでも、彼女の目には覚悟が宿っていた。


最後に、俺自身の役割だ。


「……俺は、ダンジョンを整える」


地図に指を走らせる。


「火属性対策。冷却、遮断、地形操作。

それに、こっちの戦力も底上げする」


地下二階の改修。

新たなモンスターの配置。

罠と環境の再設計。


やることは山ほどある。


「一か月で、どこまでやれるか……」


だが、不思議と不安はなかった。


仲間がいる。

情報も、時間も、意思もある。


「……勝てるな」


誰に向けたわけでもなく、そう呟いた。


アイリスが小さく微笑む。


「はい。主なら」


マリーは肩をすくめて笑った。


「ま、死なない程度に頑張ろっか」


こうして、戦いの準備が本格的に始まった。


静かに、しかし確実に――

火山ダンジョンとの衝突へ向けて、歯車は回り始めていた。


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