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30話 地下2階 廃遺跡エリア



ダンジョンが世界に現れてから、三か月が経った。


最初の混乱と恐怖は、少しずつ形を変えながら社会に溶け込み始めていた。

人々はもう、ダンジョンを「突然現れた災害」としてではなく、

新しい現実として受け入れ始めている。


各地では冒険者ギルドが急速に組織化され、

腕に覚えのある者たちが集まり、役割を分担し、秩序を作り始めた。


警察や自衛組織だけでは対応しきれない事態に備え、

政府主導で「対ダンジョン部隊」――通称・騎士団も結成された。


魔法と現代兵器を併用するその姿は、

かつての世界観を一変させる象徴だった。


そして――

世間を最も騒がせたのが、Sランク冒険者の誕生である。


単独でダンジョンを制圧し、

未知の階層を踏破したその様子は、リアルタイム配信によって世界中に広まった。


「ダンジョンは恐怖じゃない」

「攻略すれば、力と富を得られる」


そうした言葉が人々の意識を変えていった。


ダンジョン産の食材やポーション、装備品が市場に流れ始め、

“危険な異界”は“新たな資源”として扱われるようになった。


そして――


「ダンジョンを攻略すれば、そのダンジョンを得られる可能性がある」


この情報が決定打となった。


世界中の冒険者が動き出す。


小さな洞窟。

廃工場。

地下鉄の跡地。

森の奥、山の深部、海の底。


あらゆる場所に生まれたダンジョンへ、人々は挑んでいった。


もちろん、犠牲も増えた。


帰らぬ者。

心を折られた者。

全てを失った者。


それでも、人は前に進む。


なぜなら――

そこに“夢”があるからだ。


力。

名声。

富。

そして、世界を変える可能性。


こうして世界は、完全に新しい時代へと足を踏み入れた。


――ダンジョン時代。


秩序はまだ脆く、正義も曖昧で、

強き者が主導権を握る混沌の時代。


その裏で。


誰にも知られぬ森の奥、

ひとつのダンジョンが静かに呼吸していた。


大切な人を守るために生まれた、

異質なダンジョンが。






教会を作ってから、さらに一か月が経った。


子どもたちはすっかりこの場所に慣れ、朝になると自然と笑い声が響くようになった。

最初は怯えていた顔も、今では嘘みたいに柔らかい。


意外だったのは――結衣の人気だ。


年が近いからか、それとも元々の性格なのか。

子どもたちは彼女の後ろをひよこのようについて回り、畑仕事も遊びも一緒にやりたがる。


「結衣おねーちゃーん、これどうするのー!」


「ちょ、ちょっと待って! 一人ずつね!」


慌てながらも、ちゃんと向き合って答える姿は、もう立派なお姉さんだった。


一方で――

このダンジョンで一番忙しいのは、間違いなく雪だ。


星ヶ丘カフェは朝昼晩と休む暇がなく、

食事の準備、仕込み、後片付け、そして子どもたちへのおやつ。


「大丈夫ですから、気にしないでください」


そう言いながら、彼女はいつも楽しそうに笑っていた。


疲れていないわけがない。

それでも、“誰かのために働けること”が嬉しいのだろう。


――守るべき人がいる場所。


それが、このダンジョンの本質になりつつあった。



そして、俺は配下たちと話し合った。


「次は、防衛だな」


これだけ人が増えれば、危険も比例して増す。

守るためには、攻められたときの“地形”が重要になる。


「地下二階を改装する」


そう告げると、アイリスが即座に頷いた。


「賢明です。階層ごとに役割を分ければ、防衛効率は格段に上がります」


フロースも頷く。


「環境変化は侵入者にとって最大の敵。

慣れない地形は、それだけで命取りになる」


そこで決めた。


――地下三階を、生活と都市機能の中心に。

――地下二階を、新たな防衛階層に。


都市機能を下へ移し、空いた地下二階を全面改装する。



新たに作られた地下二階は――廃遺跡型フィールド。


かつて文明があったかのような石造りの構造。

崩れた柱、半壊した建物、複雑に入り組んだ通路。


視界は悪く、音は反響し、方向感覚を奪う。


まるで巨大な迷路だ。


そこに配置したのは――


・アイアンゴーレム

 無機質な守護者。鈍重だが圧倒的な耐久力を持ち、正面突破を許さない。


・吸血ウォンバット

 闇に紛れ、集団で襲いかかる厄介な魔獣。体力吸収能力を持つ。


・オーク

 統率された個体を厳選配置。知能は低いが、戦闘力は高い。


ゴブリンも候補に挙がったが、すぐに却下した。


「……あいつら、話通じねぇ」


命令を理解しない。

戦況を読まない。

何より、制御が利かない。


「戦力ってのは、強さより“扱いやすさ”だ」


そう判断して、採用しなかった。



完成した地下二階を見下ろしながら、俺は静かに息を吐いた。


「……これで、少しは安心だな」


だが、同時に思う。


この防衛は、“誰かが来る”ことを前提にしている。


つまり――


このダンジョンは、すでに“狙われる側”になったということだ。


それでも。


俺は、迷わない。


「守るって決めたからな」


子どもたちの笑顔。

仲間たちの居場所。


そのすべてを守るためなら、

このダンジョンを、どんな難攻不落の要塞にだって変えてみせる。


そして――

静かに、次の一手を考え始めていた。








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