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29話目 教会

教会を作ると決めた瞬間、胸の奥に静かな覚悟が灯った。


――これは、もう“仮の拠点”じゃない。

人が生きていく場所になる。


「……ポイント、全部使うか」


画面に表示された数値を見て、俺は一度だけ深呼吸をした。

貯めてきたダンジョンポイント。

本来なら防衛施設や罠に回すべきものだ。


けれど――今は違う。


「人が生きる場所を作るのが、先だ」


そう決めて、実行を選択する。


《建築:聖堂区画 展開中――》


地面がゆっくりと震え、淡い光が地中から立ち上る。

石が組み上がり、柱が立ち、天井が伸びていく。


無機質ではない。

どこか温もりのある、祈りを受け止める空間。


柔らかな光を取り込むステンドグラス。

簡素だが清潔な礼拝堂。

奥には治療と祈りを行うための祭壇。


そして隣接する形で、小さな居住区――

孤児院として使える居室も自動的に形成された。


「……すごい……」


思わず声が漏れる。


フロースが周囲を見回しながら、感心したように頷いた。


「構造も安定してる。

魔力循環も、かなり優秀……長期運用に向いてる」


マリーは腕を組みながら、口笛を吹く。


「いやー、これはガチだね。

もう“隠れ家”じゃなくて“街の核”じゃん」


アイリスも静かに頷いた。


「主の選択は、理に適っています。

この場所は、人を守るための拠点になります」


そして――


数日後。


ダンジョンの入口から、小さな足音が聞こえてきた。


不安そうに、しかし必死に前を向く子どもたち。

年齢はばらばらで、服もまちまち。

中には、手を握りしめて泣くのを堪えている子もいる。


――孤児院から連れてきた、十人の子どもたちだった。


「……ここが、これから住む場所だよ」


そう声をかけると、子どもたちはきょろきょろと周囲を見回した。


「……おうち?」


「……こわくない?」


小さな声が、胸に刺さる。


俺はしゃがみ込んで、目線を合わせる。


「大丈夫だ。

ここは、誰も君たちを傷つけない場所だ」


一瞬の沈黙の後――


「……ほんと?」


そう聞かれて、俺は強く頷いた。


「約束する」


その言葉に、少しずつ表情が和らいでいく。


雪が優しく子どもたちを迎え入れ、

マリーが「こっちだよー」と手を振り、

アイリスが静かに周囲を見守る。


フロースは早速、植物を配置して環境を整え始めていた。


――この場所は、確かに“生きている”。


夜になり、子どもたちが眠りについたあと。


俺は一人、教会の中央に立った。


静まり返った空間。

淡く灯る光。


ここに集まった命。

守るべきもの。


「……簡単じゃないな」


誰にも聞こえない声で、呟く。


それでも――


「守るって決めたんだ」


この場所を、

この子たちを、

そして、ここに集った全ての命を。


世界がどう変わろうと、

ここだけは、絶対に奪わせない。


そのためなら――

どれだけ強くなる必要があっても、構わない。





「衣、かぁ……」


俺は腕を組みながら、少し考える。


「アイリスに聞くより……マリーのほうが詳しそうだな」


そう思って視線を向けると、案の定マリーは床に座り込んで、子どもたちと何やら話していた。


「ねー、あーしが子どもの頃はさー、服とか全部自分で直してたんだよね」


「えー、すごーい!」


「まあね。センスはともかく」


軽い調子で笑いながらも、どこか懐かしそうな目をしている。


俺が近づくと、マリーは顔を上げた。


「ん? どしたの、主」


「服のこと、相談したくてさ」


「お、いいとこ聞くじゃん」


マリーは顎に手を当てて考え込む。


「本気でやるならねー、エルフかアラクネ系がベスト。

糸も布も、質が段違いだし」


「……やっぱりか」


「でもどっちもランク高いし、今のポイントじゃ無理っしょ」


俺は苦笑する。


「だよな」


「ま、とりあえずは外で仕入れるしかないね。

既製品でも、子どもには十分だし」


現実的で助かる。


「ありがとう、助かった」


「いーってことよ。

あーし、そういうの考えるの割と好きだし」


そう言って、肩をすくめた。



次は“食”。


これは比較的順調だった。


ジャングルに果樹を増やし、フロースの助言で土壌を調整。

さらに、結衣や子どもたちにも手伝ってもらって畑を拡張した。


「わー、芽出てる!」


「ほんとだ! 昨日より大きい!」


子どもたちは目を輝かせながら、土を覗き込んでいる。


「すご……こんなに早く育つんだ……」


結衣も驚いた様子で、芽をそっと撫でていた。


「ダンジョンの土は栄養が濃いからね」


フロースが誇らしげに説明する。


「ちゃんと手入れすれば、普通の畑の何倍も早く育つ」


子どもたちは「すげー!」と声を上げてはしゃいでいた。


水やりも、草むしりも、遊びの延長みたいに楽しそうだ。


――こういう時間が、きっと大事なんだ。



そして、もう一つ。


子どもたちが遊べる場所が必要だった。


「……よし、作るか」


俺は決めた。


本格的じゃなくていい。

危なくなくて、笑える場所。


ダンジョンの一角を整地し、簡易的な公園を作った。


木で作ったブランコ。

丸太を並べただけの遊具。

滑り台の代わりに、なだらかな土の坂。


完成すると、子どもたちは目を輝かせた。


「え、いいの!? 遊んで!」


「もちろん」


次の瞬間、歓声が上がった。


走り回る子、笑い転げる子、転んで泣いて、すぐ笑う子。


その光景を眺めながら、胸の奥がじんわりと温かくなる。


「……よかったな」


ぽつりと呟くと、隣にいたマリーが肩をすくめた。


「だね。

ここ、もう完全に“住処”じゃん」


「……ああ」


俺は頷いた。


戦う場所じゃない。

守る場所だ。


この場所で、子どもたちが笑っていられるなら。

それだけで、俺は――


「……どれだけ強くなっても、守りきる」


静かに、そう誓った。







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