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27話目 冒険者視点

俺たち――**銀翼のシルバーウィング**は、今やちょっとした注目株だ。


ダンジョンが発生して2ヶ月が経ち、ギルドも整っていき明確なランク認定もできた。


ついこの前までDランクだったが、実績は十分。

ギルドでも「次はCランク確定だろ」と言われている。


俺はリーダーの中山 颯太。

剣士職で、風魔法と俊足スキル持ち。前線で斬って走るのが役目だ。


「で、今回の依頼がこれか」


手にした地図を見ながら呟く。


最近、妙に魔力反応が濃くなっている地域――

“新興ダンジョンの可能性あり”という情報。


「ゴブリン系って話だよな?」


そう言ったのは、でかい盾を担いだ壁谷だ。

筋肉の塊みたいな男で、うちのタンク役。


「油断すんなよ。最近のゴブリンは進化してるって話もある」


それに続くのが、黒装束の闇野。

気配が薄く、いつの間にか背後に立ってるタイプのシーフだ。


「まあまあ。回復役もいるし、余裕っしょ」



視線の先にいるシスター。



最後尾を歩く東別院 彩乃。


白を基調とした法衣に身を包み、杖を持つ彼女は、

見た目だけなら完全に“聖女”だ。


正直、最初は疑った。


――なんでこんな優秀なシスターが、俺たちみたいな駆け出しに?


回復魔法の精度、詠唱速度、魔力量。

どれをとっても上位冒険者クラスだ。


でも彼女は言った。


「お金が必要なんです」


それ以上は語らなかった。






洞穴に入ると森になっていた。


森の中は、静かだった。


風の音も、獣の気配もある。

だが――どこか“整いすぎている”。


「なあ……静かすぎないか?」


壁谷が低く言う。


「確かに。ゴブリンの気配が薄い」


闇野が木の上から周囲を見渡す。


「でも、魔力反応は確かに強い。……この先だ」


俺は頷いた。


「慎重に行こう。ここからは警戒態勢だ」


足を進めるごとに、空気が変わっていく。


森が“整備されている”。


踏み荒らされた形跡がない。

道が自然にできている。

下草も、妙に均一だ。


「……おかしくね?」


壁谷が呟く。


「ゴブリンの巣なら、もっと荒れてるはずだ」


その瞬間。


カサッ――


前方の茂みが揺れた。


俺は即座に剣を抜く。


「止まれ!」


しかし、飛び出してきたのは――


「……猫?」


黒い毛並みの、大きめの猫。

こちらをちらりと見て、ふいっと視線を逸らす。


「なんだ、びっくりさせんなよ」


壁谷が肩の力を抜く。


だが、闇野が小さく言った。


「……おかしい」


「何が?」


「警戒心がなさすぎる。

それに――」


猫の向こう側。

木々の隙間に、一瞬だけ“影”が動いた。


風が止む。


森が、息をひそめたようだった。


そのときだった。


――どこからともなく、木が揺れ出した


まるで俺たちの行方を阻むかのように


次の瞬間、地面がわずかに揺れた。


「全員、構えろ!」


俺は叫び、剣を構える。


だが、同時に背筋を走ったのは――

“ここは、俺たちが踏み込んでいい場所じゃない”という直感だった。


森が、俺たちを――

見ている。


――次の瞬間だった。


ゴゴ……ッ、と低い音が森の奥から響いた。


「……なに?」


足元の土が、わずかに盛り上がる。

木々の幹が、軋むように音を立てた。


「おい……冗談だろ……」


壁谷が盾を構える。


森が――動いている。


いや、正確には“動き出した”。


地面から、太い根が這い出す。

木々の幹が、ゆっくりと形を変えていく。


枝が腕のように伸び、幹が胴体のように隆起し、

苔に覆われた巨体が、ひとつ、またひとつと立ち上がる。


「ト……トレント……?」


闇野が息を呑んだ。


それも一体や二体じゃない。

四方八方、森そのものが敵意を帯びていた。


「囲まれてます……!」


彩乃が息を詰める。


「くそっ、数が多すぎる……!」


俺は歯を食いしばり、剣を構えた。


「落ち着け! 攻撃するな、まだだ!」


だが、その声は森に吸い込まれる。


次の瞬間――


地面が、ずん、と震えた。


目の前のトレントが一歩、踏み出す。


その巨体が動くだけで、空気が押し潰される。


「……やばい」


背筋を冷たい汗が伝う。


その時だった。


森の奥から、低く、落ち着いた声が響いた。


「――侵入者、これ以上の前進は許可されていない」


声は男とも女ともつかない、無機質で静かな響き。


トレントたちが、一斉に動きを止めた。


「……誰だ!」


俺が叫ぶ。


すると、木々の隙間から“それ”が姿を現した。


長い緑の髪。

植物と同化するような衣装。

冷静な眼差し。


「ここは管理区域。

あなたたちは、許可なき来訪者です」


その存在を見た瞬間、全員が理解した。


――ただのモンスターじゃない。


「名を名乗れ!」


俺は剣を構えたまま叫ぶ。


その存在は、淡々と答えた。


「私はフロース。

このダンジョンの生態管理を任されている者です」


静かな声だった。


だがその一言で、森全体が“彼女の意志”に従っていることがはっきりと分かった。


「これ以上、踏み込むのであれば――」


フロースの背後で、トレントたちが一斉に地を踏みしめる。


「排除対象となります」


その言葉に、冷たい沈黙が落ちた。

このダンジョンはゴブリンのレベルでは無いと確信した。



――まずい。


その言葉が、頭の中で鈍く鳴った。


トレントだけなら、まだどうにかなる。

動きは鈍く、数も把握できる。連携も単純だ。

だが――問題は、あの“女”だった。


フロースと名乗った存在。

人の形をしているが、決して人ではない。

空気に溶けるような魔力の質、周囲の自然を支配しているかのような気配。


(最低でもCランク……いや、それ以上だ)


冷や汗が背中を伝う。


四人がかりなら、正面からの戦闘で互角に持ち込めるかもしれない。

だが、あのトレントの数。

地形も、完全に相手の支配下だ。


――撤退。


その判断が、頭に浮かんだ瞬間だった。


「全員、下が――」


そこまで言いかけた、その時。


ヒュッ――


空気が、切り裂かれる音。


「……え?」


一拍遅れて、鈍い音が響いた。


ドサリ。


地面に何かが倒れる音。


視界の端で、闇野の身体が崩れ落ちた。


「……闇野?」


一瞬、理解できなかった。


彼は、仰向けに倒れている。

目は見開いたまま、焦点が合っていない。


額には――

一本の矢が、深々と突き立っていた。


「……っ!」


喉が凍りつく。


血が、じわりと流れ落ちる。

しかし、それ以上の動きはなかった。


「闇野ッ!!」


叫び声が森に吸い込まれる。


「……そんな……」


壁谷の声が震える。


「いつ……撃たれた……?」


俺も分からなかった。


音も、気配も、殺気すら感じなかった。


「……狙撃……?」


呟いた瞬間、嫌な予感が背骨を這い上がる。


視線をゆっくりと上げる。


木々の上。

葉の影。

枝と枝の隙間。


そこに――何かがいる。


「……」


気配だけが、確かに“そこ”にあった。


フロースが、静かに口を開く。


「警告は、しました」


その声には、怒りも嘲りもなかった。

ただ、事実を告げるだけの、冷たい音色。


「侵入者は排除対象です」


その言葉と同時に、森が呼応した。


ざわり、と空気が震え、

枝が軋み、木々が一斉にざわめく。


「……囲まれてる」


壁谷が歯を食いしばる。


トレントたちが、ゆっくりと距離を詰めてくる。

逃げ道を塞ぐように、円を描く。


「くそ……!」


俺は剣を握りしめる。


だが、次の瞬間――


ヒュンッ。


空気を裂く音が、連続した。


「伏せろ!!」


叫ぶより早く、矢が降り注ぐ。


木々の影から、上から、斜めから。


見えない。

撃っている姿すら、捉えられない。


「ぐっ……!」


壁谷が盾を構え、衝撃に膝をつく。


「彩乃、回復――!」


「ま、待って……!」


詠唱を始めた瞬間、地面から蔦が伸び、彼女の足首を絡め取った。


「きゃっ……!」


倒れ込む彩乃。


それを見た瞬間、背筋が凍りついた。


――完全に、罠だ。


敵は、こちらの動きも、役割も、全部把握している。


逃げ道は塞がれ、視界は制限され、指揮系統は崩れかけている。


「……くそ……!」


俺は歯を食いしばった。


これは戦闘じゃない。


狩りだ。


そして俺たちは――

獲物として、森に踏み込んでしまった。


森が、静かに、しかし確実に――

俺たちを殺しに来ていた。



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