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26話目 初の侵入者



フロースは、まさに“適材適所”という言葉そのものだった。


彼女が来てから、ジャングルの様子は目に見えて変わった。

土壌の質は安定し、湿度と魔力の循環も最適化され、植物の成長速度は格段に向上した。


「栄養循環が整えば、自然は勝手に回り始めます」


そう言いながら、彼女は土を掬っては匂いを嗅ぎ、葉の色を確かめ、根の張りを調整していく。


その結果――

虫が増え、魚が増え、動物が定着し、森は“生きた環境”へと変貌していった。



そんなある日。


俺は、自作の釣り竿を手に、ジャングルの川辺に腰を下ろしていた。


木の枝を削って作った簡単な竿。

糸も、針も、最低限のものだ。


「……悪くないな」


水面は穏やかで、魚影がちらちらと見える。


風が葉を揺らし、木漏れ日が水面で揺れる。


遠くでは、トレントがゆっくりと歩く音がして、

さらに遠くからは、コケッコーの鳴き声が聞こえてくる。


平和だ。


本当に――平和だった。


釣り糸を垂らしながら、ふと思う。


こんな時間が、ずっと続けばいい。


そう、思ったその時だった。



――そのときだった。


空気が、わずかに震えた。


背後から、羽音が近づいてくる。


「主!」


振り返ると、アイリスが慌てた様子で降り立つ。


「ダンジョン周辺に、冒険者の一団を確認しました!」


その声で、川辺の穏やかな空気が一変した。


「人数は?」


「五名です。装備から見て、恐らくD級冒険者。

斥候らしき者も確認できました」


俺は立ち上がり、釣り竿を静かに地面に置く。


「……もう来たか」


思ったより早い。


「位置は?」


「南側の林を抜けて、こちらへ向かっています。

まだダンジョンの正確な入口は把握していませんが……時間の問題です」


アイリスの表情は引き締まっていた。


「目的は?」


「恐らく探索。

この周辺の魔力濃度が上がっていますから、勘のいい者なら気づくでしょう」


俺は少し考え、川の流れを見る。


平和だった景色が、一気に緊張を帯びる。


「……なるほどな」


ゆっくりと息を吐き、決断する。


「まずは、様子見だ」


「はい」


アイリスは頷く。


「こちらから仕掛ける必要はありません。

ですが、侵入が確認され次第――」


「対応する」


言葉を継ぐ。


俺はダンジョンの奥へと視線を向けた。


「まだ“敵”とは決めてない。

だが、ルールは守ってもらう」


そう呟いた瞬間、足元の地面がかすかに脈打つ。


ダンジョンが、主の意志に反応していた。


――平穏は、終わりを告げようとしていた。


森の向こうで、枝が折れる音がした。


冒険者たちが、確実に近づいている。


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