表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/69

25話目 アルラウネのフロース


生活も少しずつ安定してきた。

けれど――俺はふと、カウンター越しに並ぶ顔ぶれを見渡して思った。


「……このカフェ、使ってるの俺たちだけだな」


店内には、アイリス、マリー、雪、結衣、そして俺。

五人だけ。


椅子もテーブルも、きれいに並んでいるのに、どこか物足りない。


「せっかく作ったのに、もったいないわね」


雪がカップを置きながら、穏やかに微笑む。


「お客さん、いないもんね」


結衣も頷いた。


「でも……人を呼ぶのは、まだちょっと怖いです」


「そりゃそうだな」


俺は頷く。


ダンジョンの存在を知られすぎるのは危険だ。

だが、誰も来ないカフェというのも、やっぱり寂しい。


そんな空気の中、マリーが椅子に足を組んで、にやっと笑った。


「じゃあさ」


その視線が、俺に向く。


「ガチャ、回してみたら?」


「……ガチャ?」


「うん、ガチャまわしてあーしとアイリス出してるんでしょ?じゃあさ店員とか、常連候補とか、出るかもしんないよ?」


「いや、それは……」


アイリスが腕を組んで少し考える。


「……確かに、主のダンジョンは安定しています。

新たな存在を迎える余裕は、あります」


「でしょ?」


マリーが頷く。


雪は少しだけ首を傾げてから、やわらかく笑った。


「人が増えるのは、悪いことじゃないと思うわ。

賑やかな方が、きっと楽しいもの」


結衣も、少し考えてから手を上げる。


「……私も、賛成です。

いろんな人がいたら、きっと楽しい」


視線が集まる。


俺は、しばらく黙って考えた。


確かに、今のままじゃ閉じた世界だ。

守るには十分だが、広がりがない。


「……わかった」


そう言って、俺は立ち上がる。


「一回だけだ。

何が出ても、ちゃんと責任持つ」


「それそれ!」


マリーが嬉しそうに拳を突き上げた。


アイリスは静かに頷く。


「では、召喚準備を整えます」


こうして――

星ヶ丘カフェ初の“新メンバー候補”を賭けた、ガチャが回されることになった。



ガチャの起動音が、静かにカフェに響いた。


いつもなら――

金色の光があふれ出すはずだった。


だが今回は違う。


「……あれ?」


光は、銀色だった。


鈍く、落ち着いた輝き。

派手さはないが、どこか知的な印象を受ける色。


「金じゃないな……」


「うーん、当たりではあるけど、大当たりではない、って感じ?」


マリーが肩をすくめる。


アイリスはじっとその光を見つめていた。


「ですが……銀は“安定型”の証でもあります」


そう言った瞬間、ガチャが弾けるように開いた。


中から現れたのは――

背の高い、植物の香りをまとった女性だった。


翠色の長い髪。

ところどころ葉のように揺れる毛先。

そして――少しずれた丸眼鏡。


白衣のような服を着て、手には分厚い本を抱えている。


「……あれ? ここ、研究所じゃない……?」


ぼんやりと周囲を見回し、首を傾げる。


《召喚完了》

《種族:アルラウネ》

《ランク:B》

《特性:植物操作/成長促進/環境解析》

《職性:生態学者》


「……え?」


結衣が思わず声を漏らす。


「植物……?」


「研究者……?」


当人はというと、ふらっと一歩前に出て、床に落ちていた葉を拾い上げる。


「ふむ……この魔力循環、興味深い……」


そのまま床にしゃがみ込み、メモを取り始めた。


「……あの、あなたは?」


俺が声をかけると、彼女は顔を上げた。


「あ、失礼。私、フロース。

一応……植物生態学をやってる者です」


眼鏡をくいっと上げる。


「研究に夢中になると周りが見えなくなるって、よく言われます」


そのまま、床に座り込んだまま周囲を見渡す。


「……あ、ここ、土壌の魔力濃度がすごく安定してる。

この環境なら、通常じゃ育たない植物もいけそう……」


マリーが苦笑いする。


「うわ、もう仕事モードだ」


アイリスは小さく頷いた。


「生態学者……なるほど。

カフェや農地との相性は良さそうですね」


フロースは顔を上げて、少し照れたように笑った。


「えへへ……でも、生活能力はあんまりないです。

ご飯とか、忘れますし……」


「……なるほど」


俺は思わず苦笑した。


「まあ、ここには料理上手もいるしな」


雪がやわらかく微笑む。


「大丈夫よ。ちゃんとご飯は食べさせてあげるわ」


「えっ、ほんとですか……?」


フロースの目が輝いた。


「それじゃ、ここ……すごく住みやすいかも」


俺は、皆を見回す。


戦闘力、生活力、知識、そして癒し。


「……悪くないな」


そう呟いた瞬間、ふと胸の奥が温かくなった。


こうして、

星ヶ丘カフェにまた一人、新しい仲間が加わった。


次は、彼女がこのダンジョンにどんな変化をもたらすのか――

それを考えるのが、少し楽しみだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ