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24話 家畜生産



それから俺たちは、少しずつ、だが確実にダンジョンを“育てて”いった。


まず手を入れたのは、一階層――ジャングルエリアだ。


「ここ、ちょっと単調だな」


そう呟きながら、俺はダンジョンの管理画面を操作する。


《地形改変:水源生成》


ポイントを注ぎ込むと、地面が低くうねり、やがて透明な水が湧き出した。

細い流れが生まれ、やがて小川となり、森の中を縫うように流れ始める。


「おお……」


せせらぎの音が響き、湿った空気が広がる。


「これで生態系も安定しますね」


アイリスが頷く。


俺はそこに、試しに魚を放した。

ダンジョン外から持ち込んだ淡水魚だ。


「増えてくれたらいいんだけどな」


水面を泳ぐ影を見ながら、そう呟く。


川ができたことで、植物の育ちも良くなり、ジャングルはさらに生命感を増していった。



次に手を付けたのは、地下一階――墓地階層。


ここは少し雰囲気を変えたい。


「このままだと、ただのだだっ広い墓場だな」


そう思い、ポイントを消費して新たな構造物を生成する。


《建築:洋館》


重厚な音と共に、石造りの洋館が出現した。

ゴシック調の外観に、蔦が絡みつき、夜になると不気味な雰囲気を漂わせる。


「……いいですね」


マリーが少し楽しそうに言う。


「雰囲気出てる」


その内部には、墓地の管理者として“彼”を配置した。


《スケルトンマジシャン(上位個体)》。


骨だけの身体に、古びたローブ。

空洞の眼窩に、淡い魔力の光が灯る。


「この階層の主だ。侵入者への迎撃を任せる」


カタカタと顎を鳴らし、命令を受諾する。


その周囲には、ゴーストたちが静かに漂い始めた。

半透明の姿で、壁をすり抜け、音もなく巡回する。


「……雰囲気、出すぎじゃない?」


結衣が少し後ずさる。


「でも、ちゃんと抑止力にはなるね」


雪が穏やかにそう言った。


確かに、この階層は“怖い”。

だが、それでいい。


侵入者にとっては恐怖の迷宮。

だが、俺たちにとっては守るための砦。


「よし……」


俺は全体を見渡した。


ジャングル、川、墓地、洋館。

それぞれが役割を持ち、ひとつの“世界”として形を成し始めている。


「少しずつだけど……確実に、強くなってるな」


誰に言うでもなく、そう呟いた。


ダンジョンは生きている。

そして俺たちも、その中で生きている。


――この場所を、誰にも壊させない。


その想いだけが、静かに胸に根を張っていた。



地下二階――

そこは、もはや「拠点」という言葉では足りないほど、生活の匂いがし始めていた。


まず手を入れたのは、雪と結衣の住まいだ。

カフェのすぐ隣、少し奥まった場所に、小さな家を建てた。


木造で、温かみのある造り。

カフェと同じ素材を使い、統一感を持たせている。


「……すごい。お店のすぐ隣なんだ」


結衣が目を輝かせる。


「通勤、楽でしょ?」


「うん……って、私もう働く前提なんだね」


そう言いながらも、どこか嬉しそうだった。


雪はゆっくりと家の中を見回し、柔らかく微笑んだ。


「……落ち着くわ。ここ」


それだけで、この家を作った意味は十分だった。



次に手をつけたのは、家畜小屋だ。


ジャングルで育てている黒兎やビックボアとは別に、

都市部でも管理できる小規模な飼育スペースを作った。


「都市部用だから、臭いとかも抑えてるよ」


マリーが説明しながら、木柵を叩く。


「あと、コケッコーね」


その名の通り、ニワトリ型モンスターだ。


コケッコーは人懐っこく、ぽてぽてと歩き回りながら、

気が向くとぽん、と卵を産み落とす。


「……自由すぎない?」


「そこが可愛いんだって」


結果的に、その卵はかなり優秀だった。


黄身が濃く、焼くだけで驚くほど旨い。



翌朝。


カフェから、香ばしい匂いが漂ってきた。


「できたわよー」


雪の声に、自然と皆が集まる。


テーブルの上には、ふわふわの卵焼き。

焼き色は黄金色で、湯気が立ち上っている。


「……これ、コケッコーの卵?」


「ええ。ふふ、いい感じでしょ?」


一口食べた瞬間、思わず声が出た。


「……うま」


甘みとコクが、口いっぱいに広がる。


「毎日これ食べられるの?」


結衣が目を輝かせる。


「ええ。ちゃんと世話すれば、毎日ね」


それを聞いたマリーが、満足そうに頷いた。


「生活レベル、爆上がりじゃん」


俺はその光景を眺めながら、静かに思った。


戦うための場所だったはずのダンジョンが、

いつの間にか“暮らす場所”になっている。


そしてそれは、確実に――

みんなの居場所になりつつあった。


この場所で、笑って、食べて、眠る。

そんな当たり前が、こんなにも尊い。


「……悪くないな」


そう呟きながら、湯気の立つ卵焼きを口に運んだ。


外では何が起きていようと、

ここには、確かな日常が根付いていた。



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