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23話 星ヶ丘カフェ

数日後――

ダンジョンの一角に、ついに完成した建物があった。


木の温もりをそのまま生かした、やさしい雰囲気の小さな店。

外壁は淡い木目、窓からは柔らかな灯りが漏れている。


看板には、手書きの文字でこう書かれていた。


――星ヶ丘カフェ


「……いい名前だ」


思わず、そう呟く。


中に入ると、木の香りがふわりと広がる。

カウンターもテーブルも、どこか温かみがあって、自然と気持ちが落ち着いた。


「完成だね」


マリーが腕を組みながら満足そうに頷く。


「うん。結構いい感じじゃん?」


結衣は少し照れたように笑いながら、窓際の鉢植えを整えていた。


「……お姉ちゃん、喜んでくれるかな」


「絶対喜ぶ」


俺はそう言い切った。



「よし、今日は完成祝いだ!」


そう言って、宴会の準備が始まった。


料理担当は――もちろん雪。


「結衣は……お皿並べる係ね」


「えっ、ひどくない!?」


「この前、包丁落としかけたでしょ?」


「うっ……」


即却下だった。


食材集めは俺とアイリス、そしてマリーの三人。


「ハチミツ、お願いできるか?」


「任せて~」


クイーンビーの巣へ向かうと、女王蜂は機嫌よく羽音を鳴らし、琥珀色の蜜を分けてくれた。


「ありがとな」


「ぶんっ♪」


野菜は、結衣が丹精込めて育てたもの。

トマト、葉物、根菜……どれもつやつやしている。


「ちゃんと育ってるでしょ?」


「立派だ」


少し誇らしげな顔をして、結衣は胸を張った。



テーブルに料理が並び始める。


野菜たっぷりのスープ。

ハチミツを使った甘いパン。

そして、雪特製の温かい料理が次々と並ぶ。


「はい、できましたよ」


雪が微笑みながら皿を置く。


「……すごい匂い」


マリーが目を輝かせる。


「いただきまーす!」


一斉に食べ始めると、あちこちから声が上がった。


「うまっ!」


「これ、やば……」


「……あったかい……」


静かに食べる者もいれば、賑やかに笑う者もいる。


ワイルドキャットはテーブルの下で魚をもらってご満悦だ。


「こうしてると……普通の家族みたいだね」


結衣がぽつりと言った。


雪が優しく微笑む。


「ええ。とても、あたたかいわ」


俺はその光景を眺めながら、胸の奥がじんわりと満たされていくのを感じていた。


戦いも、危険も、これからきっと増える。

でも――


「……守りたいものが、増えたな」


誰にともなく呟く。


笑い声が響く、木の香りのカフェ。星ヶ丘カフェはこのダンジョンの象徴になるだろう。





宴がひと段落し、食器を片付けながら、ふと気づいた。


――肉と魚がない。


今日の料理はどれも美味しかった。

野菜も、蜂蜜も、パンも最高だった。

だが、決定的に“主菜”が足りない。


「……そうか」


無意識に呟く。


「今回の食材、ほとんど外で買ってきたんだよな」


このダンジョンで生活していく以上、いずれ限界が来る。

外に頼りきりでは、いずれ不自然になるし、危険も増える。


「自給自足、か……」


その言葉を聞いた瞬間――

アイリスの表情が、僅かに変わった。


目が、妙に輝いた。


「……主、それなら良い案があります」


そう言って、ずいっと一歩前に出る。


「ダンジョン内に、家畜系モンスターを導入しましょう」


「……家畜?」


「はい」


アイリスは、なぜか少し頬を紅潮させながら続ける。


「まずは《黒兎》です」


その瞬間、彼女の口元に、うっすらと涎が浮かんだ。


「黒い毛並みを持つ兎型モンスターで、非常に素早いですが……肉質が良く、繁殖力も高いのです」


「……おい」


「煮ても焼いても美味です」


目が真剣すぎる。


「次に《ビックボア》」


今度は両手を広げて説明する。


「大型の猪型モンスターです。温厚ですが、怒らせると非常に危険。

しかし、肉質は柔らかく脂が乗っていて……」


「アイリス?」


「燻製にも向いています」


完全に食欲の話になっている。


「……最後に《コケッコー》です」


ここでようやく少し我に返ったように咳払いをする。


「鶏型モンスターで、卵を自然に産み落とします。

管理が容易で、食料供給としては最適です」


「……なるほど」


確かに、理にかなっている。


「つまり、家畜を飼えば肉と卵が安定供給できる、と」


「はい。

ダンジョン環境なら繁殖も早く、管理も容易です」


言い切るアイリスの横で、マリーが肩をすくめた。


「なんかさ、説明がどんどん“料理目線”になってない?」


「……気のせいです」


即答だった。


結衣は少し青ざめながら聞いている。


「えっと……その……生き物、ですよね?」


「もちろんです。

きちんと飼育します」


雪は少しだけ微笑んで言った。


「命をいただくってことを、ちゃんと考えるなら……いいと思うわ」


その言葉に、場の空気が少し落ち着く。


俺は腕を組んで考えた。


「黒兎、ビックボア、コケッコー……か」


生態系も、食料事情も、ダンジョンとしては重要だ。


「……よし。導入しよう」


そう言うと、アイリスの目が輝いた。


「では、早速手配を――」


「待て」


俺は一言付け加える。


「食べる前に、ちゃんと世話する。

命をいただくってこと、忘れるな」


一瞬、アイリスは驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。


「……承知しました、主」


こうして――

ダンジョンはついに、“食の循環”という次の段階へ踏み出した。


平和で、少しだけ現実的な一歩だった。




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