22話 カフェ建設
カレンが目を覚ますまで、しばらく時間がかかる――
アイリスの見立てはそうだった。
「魔力環境には適応していますが、意識が安定するまでには猶予が必要です」
なら、できることをやるしかない。
俺は皆を集めて言った。
「……じゃあ、カフェを完成させよう」
その一言で、空気が切り替わった。
◇
まず動いたのはトレントたちだった。
ダンジョンの森の奥から、建材に適した木を選び出し、根を揺らして引き抜く。
「その木、節が少ないな。いいぞ」
マリーが目を細めて指示を出す。
続いて結衣が斧を担ぎ上げる。
「よし……えいっ!」
――ドンッ!
怪力スキルが発動し、太い幹が一撃で真っ二つになる。
「うわ……」
本人が一番驚いていた。
「だ、大丈夫かな……?」
「大丈夫どころか、職人泣かせの仕事だよ」
マリーが笑いながら言う。
切り出された木材は、スケルトンとゾンビたちが黙々と運搬していく。
無言だが、作業効率は異常にいい。
「……あの、案外頼りになるんですね」
結衣がぽつりと呟くと、
「うん、指示通りに動くからね。扱いやすいよ」
とマリーが軽く答えた。
上空では、アイリスが羽ばたきながら全体を見渡している。
「柱の位置、もう半歩内側です。
そのままだと動線が悪くなります」
「了解!」
彼女の指示は正確で、迷いがない。
そして――
建物の内部では、雪が設計図を広げていた。
「カウンターはこの位置ね。
お客さんの動線を考えると、ここに窓があると落ち着くわ」
柔らかな声でそう言いながら、棚の位置や照明の高さまで細かく指示する。
「……やっぱり、慣れてるな」
「ふふ。カフェで働いてたから、少しはね」
笑顔は穏やかだが、その目は真剣だった。
皆がそれぞれの役割を果たし、少しずつ形になっていく建物。
俺は、その様子を少し離れた場所から眺めていた。
……正直に言うと。
「俺、やることないな」
誰かが言ったわけでもない。
ただ、皆があまりにも自然に動いていて、割り込む余地がなかった。
マリーがちらっとこちらを見る。
「ボス、暇?」
「……ああ」
「じゃあ、見守り役でいいじゃん。
一番大事な役だよ、それ」
その言葉に、少しだけ胸が軽くなる。
俺は腕を組み、完成しつつあるカフェを眺めた。
木の香り。
人と魔物の気配。
穏やかに流れる時間。
――ここはもう、戦うだけの場所じゃない。
守るために、誰かが生きるための場所だ。
カレンが目を覚ました時、
きっとこの光景を見せてやりたい。
そう思いながら、俺は静かに頷いた。




