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18話 新たな仲間 星ヶ丘 結衣



少女が目を覚ました瞬間だった。


「――――っ!!」


息を吸う音すら引き裂くような悲鳴と同時に、少女は身体を丸めた。

両腕で頭を抱え、意味をなさない声を漏らしながら、必死に後ずさる。


「来ないで……来ないで……!!」


震える視線の先には、もう何もいない。

それでも、彼女の脳裏にははっきりと残っているのだろう。

ゴブリンに襲われ、捕まりかけたあの瞬間の恐怖が。


「落ち着け」


俺はできるだけ低く、柔らかい声を出した。

急に近づかず、距離を保ったまま、ゆっくりと言葉を重ねる。


「大丈夫だ。ここにはゴブリンはいない。安全だ」


少女は呼吸を乱したまま、こちらを見る。

怯えきった瞳。

逃げ場を探すように揺れる視線。


「……ここ……どこ……?」


絞り出すような声だった。


「俺のダンジョンだ」


誤魔化さず、事実だけを伝える。


「君がゴブリンに襲われていたところを助けた。

それで、ここに運んだ」


少女はその言葉を理解するのに時間がかかっているようだった。

何度か瞬きをして、ようやく現実を飲み込む。


「……じゃあ……私は……」


「助かった」


短く、はっきりと言う。


その一言で、張り詰めていた糸が切れたように、少女の肩が落ちた。

涙が溢れ、嗚咽が漏れる。


俺はそれ以上、何も聞かなかった。

名前も、事情も、今はまだいい。


「今は休め。

話は、落ち着いてからでいい」


少女は小さく、何度も頷いた。

まだ恐怖は残っている。

それでも――ここが安全だということだけは、少しずつ伝わっているようだった。



少女は、はっとしたように目を見開いた。


「……っ、お姉ちゃん……!」


その言葉と同時に、ベッドから飛び起きようとする。

だが、力が入らない身体で無理をしたせいか、ふらついて前に倒れかけた。


「待て!」


俺は反射的に手を伸ばし、肩を掴んで支える。


「無茶するな。まだ動ける状態じゃない」


「でも……でも……!」


少女は歯を食いしばり、必死に訴える。



「わたし、お姉ちゃんを助けなきゃいけないんです!

今も……今も、苦しんでるかもしれないのに……!」


その声は震えていたが、弱さよりも焦りと決意が勝っていた。


俺は一度、深く息を吸う。


「……落ち着いて、話を聞かせてくれ」


少女は唇を噛みしめたまま、俺を見る。

そして事の顛末を聞いた。



「なるほどな君のお姉さんの状態はわかった。ダンジョン産の毒だろ?」


こくり、と小さく頷く。


「なら――このダンジョンなら、助けられる可能性はある」


その言葉に、少女の瞳が大きく揺れた。


「ほ、本当……?」


「ああ。

ポーション、回復手段、魔力環境……

全部、ここには揃えられる」


希望が、一気に表情に広がる。

だが、俺はそこで言葉を切った。


「……ただし」


少女の笑みが、止まる。


「俺は善意だけで人を助けられる立場じゃない」


淡々と、だが誤魔化さずに続ける。


「このダンジョンが世間に知られたら、終わりだ。

国や組織、欲にまみれた連中が必ず嗅ぎつける。

そうなれば、ここは戦場になる」


少女は息を呑んだ。


「だから、条件がある」


俺はまっすぐに彼女を見た。


「ここに関わる以上、

君には“配下”になってもらう」


言葉の重さを、きちんと伝える。


「といっても、奴隷みたいな扱いをするつもりはない。

行動の自由は保障する。

学校にも行けるし、外出もできる」


少女は戸惑いながらも、真剣に聞いている。


「ただ一つ。

このダンジョンの存在、俺のこと、

そして中で見たものは――外に漏らさない」


沈黙が落ちた。


少女はしばらく俯き、ぎゅっと拳を握りしめる。

そして、顔を上げた。


「……それで、お姉ちゃんが助かるなら……」


迷いのない声だった。


「わたし、何だってします」


俺は、その覚悟を真正面から受け止める。


「……分かった」


短く答え、手を離す。


「じゃあ、まずは身体を休めろ。

本当に助けるのは、これからだ」


少女は、力強く頷いた。

その瞳には、恐怖の奥に確かな希望が宿っていた。

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