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16話 都市部エリア構想

ダンジョンに戻った俺は、簡易的に用意した休憩区画で、少女が目を覚ますのを待ちながら、頭を抱えていた。


今回の戦いで得たものは大きい。

ポイントは一万。

配下も増えた。


だが、失った戦力も無視できない。


「……減ったな」


呟きながら、ダンジョンの状態を思い返す。

特にゾンビとスケルトン。

数で押す主力だったが、ゴブリンナイトとマジシャンの相手をさせた結果、かなり削られた。


もっとも、こいつらは時間が経てば勝手に増えていく。

死と循環を基盤にした構造だから、いずれ元の数には戻るだろう。


問題は――質だ。


「もう少し、即戦力が欲しい」


正直な気持ちだった。

今回みたいに上位個体が出てきた場合、数だけでは押し切れない。

アイリスのように、状況を理解して動ける存在。

意思疎通ができて、なおかつ強いモンスター。


そんな都合のいい存在がいれば――と、考えてしまう。


「アイリス、今のポイントでおすすめは?」


一応、聞いてみる。

返事は予想通りだった。


「……ありません」


申し訳なさそうでもなく、事実を述べる口調。


「意思疎通可能で、高戦力のモンスターは高額です。

現在のポイントでは、ランクを落とすか、数を取るかになります」


分かっている。

分かってはいるが――。


「じゃあ、やっぱり……」


視線が、メニューの端にある項目へ向く。


モンスターガチャ。


アイリスは、わずかに眉を動かした。


「……非推奨です」


「分かってる。でも、1回だけだ」


説得というより、懇願に近かったかもしれない。


「今は防衛力を上げたい。

運に頼るのは嫌だけど、選択肢がそれしかない」


少しの沈黙のあと、アイリスはため息をついた。


「……1回だけですよ」


「ありがとう」


正直、断られると思っていた。


ダンジョンの中央に、金色の光が集まる。

前回よりも、はっきりとした存在感。


人よりも大きな、あのガチャが出現した。


「……頼む」


ハンドルが回り、内部で何かが弾けるような音がする。

光が収束し、カプセルが弾き出された。


割れた殻の中から、現れたのは――


「……は?」


金髪。

日に焼けたような褐色の肌。

露出多めの軽装。

腰には弓、背中には大量の矢。


そして第一声。


「えーっと、ここどこ? てか、あんた誰?」


間違いない。

意思疎通、完全に可能。


《モンスター召喚完了》


《ダークエルフ》


《ランク:A》


《特性:超長距離射撃/夜間視覚/精密照準》


《性格:楽観的・単純》


「……Aランク?」


思わず声が裏返る。


ダークエルフは、こちらをじっと見たあと、にっと笑った。


「ま、細かいことはいーじゃん。

弓なら任せなって。的、外したことないから」


口調は軽い。

態度も軽い。

正直、かなりおバカそうだ。


だが、背負っている弓から伝わる魔力は本物だった。

張り詰めた弦。

磨き込まれた矢尻。


「……大当たりだな」


思わず、そう呟く。


アイリスも、少しだけ驚いた表情を浮かべていた。


「……運が、良すぎます」


偶然か、必然か。

分からない。


だがこれで、ダンジョンの戦力は一気に跳ね上がった。


俺は、まだ眠っている少女に一度視線を向けてから、新たな配下へ向き直る。


「これから、よろしく頼む」


ダークエルフは、軽く手を振った。


「りょーかい。ま、よろしくね、ボス?」


不安と期待が、同時に胸に広がる。


――円頓寺ダンジョンは、確実に“次の段階”へ進み始めていた。



「あーしは何やればいいの?」


金髪のダークエルフが、弓を肩に担いだまま首を傾げる。

緊張感は皆無で、さっきまでAランクだと表示されていた存在とは思えない軽さだった。


「基本はダンジョンの防衛だ。

外敵の迎撃と、侵入者の索敵。

それ以外は……自由にしていい」


一応、ダンジョンマスターとしてそれっぽく言ってみる。


「やったー!」


両手を上げて喜んだかと思うと、彼女はくるりと踵を返した。


「じゃあちょっちダンジョンの探索――

……いや、警戒してくるね!」


そう言い残して、軽い足取りで走り去っていく。

影に溶けるように消えたかと思えば、


「――ただいまー!」


ものの数分で戻ってきた。


「このダンジョンなんもない!

つまんなくない?!

ねえボス、美容院とかカフェとか作ってよー!」


あまりに率直な感想に、言葉を失う。


「……ここ、ダンジョンだぞ?」


「だからじゃん。

暗い、ジメジメ、緑ばっか。

可愛くないしテンション上がらない!」


悪びれる様子もなく言い切る。


その横で、アイリスが一歩前に出た。


「反対です」


即答だった。


「ポイントはダンジョン防衛に回すべきです。

娯楽施設は侵入者を誘引し、防衛効率を下げます」


「は?

何それ、つまんない秘書ムーブなんだけど」


「合理的な判断です。

あなたの“楽しい”は、ダンジョンの存続に不要です」


「はぁ!?

あーしが防衛するって言ってんじゃん!

住みにくい場所で働けとかブラックじゃん!」


空気が、ぴりっと張り詰めた。


アイリスは冷静なままだが、明らかに苛立っている。

ダークエルフは腕を組み、頬を膨らませている。


「ボス、どっちの味方?」


二人の視線が、同時にこちらに向いた。


俺は、少しだけ考えた。


確かに、アイリスの言うことは正しい。

防衛を疎かにすれば、全てが崩れる。


でも――。


このダンジョンは、ただの罠や巣穴で終わらせるつもりはない。

守る場所であり、居場所であってほしい。


アイリスも、ダークエルフも、

ここで生まれ、ここで働き、ここで生きる存在だ。


「……地下2階を作る」


二人が、同時に目を瞬かせた。


「都市だ」


言葉にすると、少しだけ胸が高鳴る。


「生活できる場所。

休めて、集まれて、安心できる場所を作る」


アイリスを見る。


「防衛は今まで通り最優先だ。

でも、住環境を整えることが、長期的な戦力強化になる」


次に、ダークエルフを見る。


「いきなり美容院やカフェは無理かもしれない。

でも、家は作る。

お前と、アイリスのな」


一瞬、沈黙。


それから――


「……え、マジ?」


ダークエルフの声が、ワントーン上がった。


「家?

あーしの?

個室?!」


「はい。

住居がある方が、定着率と忠誠度は上がります」


アイリスはそう言いながらも、わずかに視線を逸らした。

反対していたはずなのに、完全に否定はしていない。


「地下2階は“都市階層”にする。

防衛と生活、その両立だ」


決意を込めて、そう宣言する。


ダークエルフは、にやっと笑った。


「やるじゃん、ボス。

じゃああーし、街の警備隊長とかやる?」


「……検討する」


アイリスは、小さく息を吐いた。


「計画立案は私が行います。

無計画な都市化は許可できません」


こうして――

円頓寺ダンジョンは、

“守るための場所”から、“生きる場所”へと、

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