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泣き虫村人のレベルアップ冒険譚  作者: 砂糖雨


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図書館の支配者 知識と弱さの証明

職業学校の図書館は、エルドニアの街の喧騒から隔絶された、静謐な空間だった。

足を踏み入れると、まず鼻腔をくすぐるのは、古い紙とインク、そして微かな埃が混じった、独特の落ち着く匂いだ。天井は高く、ステンドグラスの窓から差し込む午後の光が、静かに舞う塵を黄金色に染めていた。四方を埋め尽くす書架の列は、まるで知識が凝固してできた巨大な迷宮のようだ。

アステルは、その荘厳さに思わず息を飲んだ。

故郷の村の蔵書室が、ただの小さな棚にすぎなかったことを思い出し、この場所が持つ圧倒的な情報量に武者震いを覚える。

(ここには、世界中の知恵が詰まっている。僕に必要な答えも、きっとこのどこかに……)

この場所が持つ情報の重みが、彼の目標達成の可能性を示唆し、恐怖よりも強い探求心を呼び起こした。

グラード先生から課せられた課題は、「ジョブ理論の矛盾点を見つけ出し、それを論理的に証明せよ」というものだった。アステルは、特別クラスの机の上で、三冊の古書と、ここで借りた五冊の専門書を広げた。

書物から発せられる微かな紙のざらつきを指で感じながら、彼はひたすらに、ジョブの定義、レベルの上昇条件、ステータス分配の法則に関する記述を読み比べる。「『すべての存在は、そのジョブに規定された枠内で成長する』……『ジョブ適性のない者は、いかなる努力をしてもステータスは上昇しない』……」

一般的な理論を何度読んでも、矛盾は見つからない。理論はあまりにも完璧に見えた。

焦燥感がアステルの喉を締め付ける。期限は一週間。もし失敗すれば、リアと同じ学校に通うことすらできなくなるかもしれない。

彼は思わず、過去の回想に逃げた。

(村で、スライムに怯えて泣いていた時、リアはいつも言った。『大丈夫よ、リアがついてるから』……僕の泣き顔を見て、リアがどれだけ心配したか。僕はもう、あの時の自分に戻りたくない!)

劣等生クラスからの追放、そして再びリアに心配をかけることへの恐怖が、彼の集中力を研ぎ澄ませる燃料となった。

三日三晩、彼はほとんど眠らず、図書館の片隅で資料を漁り続けた。目の下の隈は濃くなり、周囲からは異質な存在として見られ始めている。

ある時、彼は故郷の図書館から持ってきた古書『古代魔導士と失われた魔法』の端に、鉛筆で書かれた走り書きを見つけた。

「…理論は完璧だが、極限の無能については触れていない。万が一、最低値(1)のステータスを持つ【村人】が存在した場合…」

アステルの思考が一気に加速した。

(極限の無能……それは、僕のことだ!)

彼は急いで、自身のステータスを記述した文献を探し出す。

「ジョブの適性がない【村人】は、すべてのステータスが1。これは、「成長の可能性がない」のではなく、「成長の方向性が未定義」であるために発生する

アステルは、自身の「弱さ」が実は「未定義の可能性」であるという記述に、全身が震えるのを感じた

「そうだ!矛盾はここだ!」アステルは思わず小さな声を上げた。周りの閲覧者が一斉に彼に冷たい視線を向けたが、彼は構わなかった。

(ジョブ理論は、「ジョブがあること」を前提としている。だが、僕のような極限の【村人】は、どのジョブにも当てはまらない、例外中の例外だ!)

アステルは、古書の内容と自分の経験を結びつけた。

(僕が【生活魔法:浄水】を覚えたのは、戦闘適性とは無関係の、生存本能と強いイメージによるものだ。これは、既存の魔導師の理論では説明できない!)

彼は、自身の極端な弱さが、ジョブという「枠」から完全に外れていることを論理的に組み立て始めた。

• 論点A: 【村人】(ステータス全て1)は、どのジョブの成長曲線にも当てはまらない。

• 論点B: 成長の枠がないため、知識(座学)によって、本来のジョブ適性とは無関係なスキル(生活魔法)を発現させることが可能である。

• 結論: 既存のジョブ理論は「【村人】の極限の無能さ」という例外を定義できず、理論的に破綻している。

アステルは、ペンを握る手に力を込めた。彼の指先には、ペンと紙の摩擦の熱が感じられた。

(この証明ができれば、僕は【村人】としての弱さを、知識という武器に変えることができる!リアを守るために、僕はまず、この知識の海を制覇しなくてはならない!)

彼は、この「知識の底辺クラス」にいる自分こそが、ジョブ理論の最も深い真実に触れているという事実に、静かな興奮を覚えていた。


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