グラードの評価と【商人】への誘い
リアとの再会を終えた翌日、アステルは再びグラード先生の教室に呼び出された。教室には、グラード先生が用意した複雑な図面が机いっぱいに広げられていた。それは、アステルが報告した「隠密剣術(仮)」の動作分析図だった。
図面には、アステルのAGI、STR、そして【隠密】の魔力経路が、理論上の理想値として描き込まれている。
「貴様が発見した『隠密剣術』。これは単なる技術ではない。ジョブシステムが定める『スキルの排他性』を打ち破る、『例外』だ」
グラード先生は、図面に描かれた複雑な線の一つを、指先で叩いた。
「【戦士】のSTRを活かした力強い一撃でありながら、【盗賊】のAGIで初撃の隙を消し、即座に防御態勢に入れる。これは、貴様の頭脳と、身体の苦痛を乗り越えた強い意志がなければ、決して生まれなかった」
(この複合スキルこそが、アステルが目指す【万能】の核となる。理論と実戦のバランス。これが完成すれば、ジョブの枠に囚われた他の追随を許さない存在となるだろう。)
アステルは、グラード先生から初めて、ここまで明確な承認と高い評価を受け、胸の奥が熱くなるのを感じた。
「次のジョブだが、貴様が予定していた【魔術師】ではない」
グラード先生の言葉に、アステルは目を丸くした。
「【魔術師】ではない?最終目標に最も近い分野ですが……」
「フン。貴様の最終目標は【賢者】、そして【万能】だ。今の貴様は、知識と身体能力という二つの剣を持った。だが、魔力と知恵を真に活かすためには、もう一つの要素が欠けている」
グラード先生は、机の上の地図を、広大な商業都市「アヴァロン」が描かれた部分で止めた。
「次のジョブは【商人】だ。レベルアップ期間は短く、知識を実戦で応用することが課題となる」
【商人】というジョブは戦闘とはかけ離れていたが、グラード先生の真剣な表情と、それが自身の最終目標に不可欠だという説明に、アステルの知的好奇心が勝り、強い興味を抱いた。
知識を資産に変える
「【商人】のスキルは、交渉術、鑑定、そして情報収集だ。これらは全て、貴様が持つ【暗号解析】や【古代語】と、最も相性が良い」
グラード先生は、静かに熱い視線をアステルに向けた。
「考えてみろ。貴様が知っている古代の知識、魔導師団の暗号、それらは全て、金を生む情報だ。だが、知識を金に換えるには、『価値を理解させる交渉術』と、『リスクを回避する人心掌握術』が必要だ」
「【商人】の訓練を通じて、貴様の知識を『資産』に変える方法を学べ。知識の力を最大限に発揮するためには、戦闘力だけでは不十分だ」
「わかりました。先生!【商人】ジョブ、受け入れます!」
アステルは、自身の知識が、純粋な戦闘スキルだけでなく、社会全体を動かす力になり得るという可能性に、胸を高鳴らせた。
グラード先生は、アヴァロンにある隠れ酒場の名前を記した、インクの匂いがまだ新しい紙切れをアステルに渡した。
「次の師匠は、元・大商人フィリウス。彼は、ジョブシステムを嫌い、裏社会で情報と金を操っている。貴様を訓練する対価として、彼は『貴様の頭脳』を試すだろう」
「必ず、成果を上げて帰ってきます」
アステルは、重さのない知識という新たな武器を携え、次のジョブチェンジのため、商業都市アヴァロンへと旅立つことを決意した。彼は、学校の校門をくぐり、喧騒に満ちた街路へ足を踏み出した。街の埃っぽい空気と人々の話し声が、彼の新たな戦場を告げているようだった。
彼は、必ず全ての基礎を極め、リアと共に立つ『万能の英雄』になると、心に誓った。




